16 3人での晩ご飯
「よし、それじゃあ食べよう。
いただきます」
俺が手を合わせると、チビとダックも待ってましたとばかりに食器に顔を埋めた。
俺も自分の分の弁当箱から、さっそくお目当ての玉子焼きを箸でつまんで口に運ぶ。
「うまっ……」
甘くない玉子焼きというか、出汁巻き玉子というべきか。
じゅわっと口の中に広がる出汁の旨味と卵の優しい味が、白湯だけの口に染み渡る。
おにぎりの方も、海苔が巻いてあるおかげで昨日より格段に美味しく感じられた。
ふと横を見ると、チビもダックも夢中になって食べている。
特にダックは顔をお弁当の具に突っ込むようにして、ハフハフと勢いよく平らげていた。
2匹とも、どうやらこの新メニューをかなり気に入ってくれたみたいだ。
美味しくてあっという間に自分の分を完食してしまったが、おにぎり弁当は小さめだったのでなんとなく物足りない。
「うーん、もうちょっと食べたいな……」
俺は立ち上がり、冷蔵庫から昨日の残りの塩むすびを取り出した。
「2人もまだ食べるか?」
そう尋ねると、チビはお腹いっぱいになったのか満足そうに首を横に振った。
一方でダックは、俺の持つ塩むすびを見上げて力強く「ワン!」と鳴く。
「じゃあ、ダックの分だけでいいな」
塩むすびを竹皮から出して皿に移してラップをかけ、電子レンジに入れてボタンを押す。
電子レンジはオーブン機能のない安いタイプだが、温めが簡単だからあって助かった。
しばらく待つと、チン、と気の抜けた音がして、温まった塩むすびが出てきた。
ダックの分の塩むすびを食器に入れてやると、嬉しそうにまた食べ始めた。
俺はといえば、自分の分の塩むすびに、湯呑みに残っていた白湯をかける。
お茶漬け海苔か漬物でもあればよかったけど、そこまで贅沢は言えない。
まあ、漬物は今後の生産物で追加されるかもしれないし、なくても塩漬けくらいは自分で作れるだろうから、今後の楽しみにしておく。
──────
外がすっかり暗くなった頃、俺たちはソファへ移動してくつろいでいた。
ふと、壁際に設置されているテレビが目に入る。
「テレビも使えるようになってるよな?
日本のテレビ番組が見られたりするのか?」
リモコンを手に取って電源ボタンを押してみると、液晶画面が明るくなり、メニュー画面が立ち上がった。
「ああ、スマートテレビってやつか」
どうやらテレビの地上波やBSは映らないが、ネット経由の配信サービスは日本で使っていたものがそのまま使えるようだ。
さすがにTVe◯はないから最新番組は無理そうだが、少し前の映画やドラマなら見放題だと一瞬テンションが上がったが、画面をスクロールしていくうちにおかしなことに気づいた。
「……あれ?
なんかラインナップが偏ってないか?」
画面に並んでいるのは、どれもカラフルな海外の幼児向け教育番組や、日本の定番キッズアニメばかりだ。
検索窓に大人向けのサスペンス映画のタイトルなどを打ち込んでみても、「該当するコンテンツがありません」と非情なエラーメッセージが表示されるだけだった。
「うわー、これ、もしかしてこのゲーム自体の年齢制限が子ども向けだったせいか……?」
見渡す限りのどかな原っぱ、可愛い犬のキャラクター、暴力要素ゼロの農作業。
このゲームのターゲット層を考えれば、子ども向けのコンテンツしか視聴できない制限がかかっているのも、大いにあり得る話だった。
「まあ、映るだけマシか……」
俺は苦笑しながら、昔自分が子どもの頃に見ていた懐かしいアニメを選択した。
テレビから流れる賑やかな音楽をBGMに、3人でぼんやりと画面を眺める。
チビもダックもテレビが珍しいらしく、じっと画面を見つめていた。
──────
「じゃあ、そろそろ寝るか。
チビ、ダック、もうテレビ消していいか?」
2人がうなずいたので、テレビの電源を消してベッドの方へと向かう。
するとダックは、迷うことなく真っ先に新しく増えた犬ベッドへとトコトコ歩いていき、その中に器用に丸まった。
さすがにマイペースというか、順応が早い。
一方のチビは、俺のベッドと犬ベッドの間で、どうすればいいのか分からないといった様子でオロオロと立ち尽くしている。
「チビ、俺のベッドでも、そっちの犬ベッドでも、寝やすい方で寝たらいいぞ。
昨日みたいに真っ暗ってわけじゃないから、もう俺一人で寝ても不安じゃないしな」
俺がそう言うと、チビは少し申し訳なさそうに俺を見上げた後、ダックのいる犬ベッドへと近づいていった。
そして、すでに眠そうに目を閉じているダックの体に、自分の小さな体をぴったりと寄り添わせるようにして丸くなった。
「……なんか、ちょっと寂しいな」
昨日一緒に寝てくれた時の温もりを思い出して、ほんの少しだけ寂しさを感じてしまう。
だけど、小さな犬の2人が丸まって寄り添い合っている姿は、見ているだけでこちらの胸が温かくなるほど微笑ましかった。
「おやすみ」
電気のリモコンを操作して、常夜灯のほのかなオレンジ色の光だけを残す。
昨日とは違う、安心感のある優しい薄暗がりの部屋の中で、俺は心地よい眠りへと落ちていった。




