96話 それがないと何もできないくせに
Q.2章ボスのエウロペのモデルって誰?
A.富◯と◯◯◯◯◯
廃墟の中、通路。
オルゼ=スティングレイの後ろをついていくアイザック、シオン、そしてミーク。
冷たく流れる空気の中、アイザックは口を開く。
「てかお前髪切ったんだな」
「...」
オルゼの髪型は変わっていた、アイザックと瓜二つなのが気に入らなかったのか。
それともアイザックが獣冠祭で「髪切れ」という言葉をずっと引きずっているのか、それは当人にしかわからない。
「オルーーー
「うんざりなんだよボゲッッ!!」
振り返り激しく指を突き刺すオルゼ、相変わらずの凄みにアイザックは後退りしてしまう。
「てめぇ...まずなんでここがわかった!!」
「ん?あー...」
アイザックは俯いて考える姿勢を取る、そして後ろにいるシオンとミークを一瞥した。
「まぁいいか言うか、ーーーオルゼこの前...具体的には3日前盛大にくしゃみしただろ」
「あ?」
「今は...というか普段魔力を決して隠れてるが、そん時だけ魔力が吹き出してたろ」
「うぐーーーッッ!」
それを聞いたオルゼは青ざめる。
「いや、俺そんとき近くにいたんだよ、魔力でわかった、お前がここに住んでるってな」
「てめぇ...」
たまたま、たまたまアイザックは近くを通りがかり、その際にオルゼの魔力を感じ取ったのだ。
殺気丸出しのオルゼだが魔力は出していない、感情に身を任せても魔力操作はおてのもの、さすが魔法使いとアイザックは訝しんだ。
「にしても廃墟にしてはいい家具揃ってるなー、外側のやつはカモフラージュってやつか?」
アイザックは周囲を見渡し、豪華な装飾の施されたソファにこしかける。
「お前マジで殺すぞ」
「んー?いいのかなー?ダイコーさん達は血眼でお前を探してるらしいぞ?」
「だからどうした、返り討ちにしてやる」
「ばーか、隠せると思ってんのかよばーか」
アイザックはオルゼの身体を指さして悪態をつく。
「ぐっーーー!!」
しかしオルゼは図星だった。
アイザックの奥義である『星穿』、これを受けたものは魔王刻印を無理やり刻み込まれる技。
しかし、暴走する魔王刻印を抑えきれずオルゼは爆散、身体中の魔力操作系の機能が損傷しておりまともに魔法が使えない。
これはレーチェの推測に過ぎなかったが、オルゼの反応でアイザックの疑問は核心に変わった。
「今の状態じゃ戦えねぇよなぁー」
それに気付いたミークも乗り出す。
「あれれ〜、オルゼ君今戦えないんですか〜?それじゃ、えい!」
ーーーぼふん。
「わー!ふかふかです〜!すごいいいベッドですぅ〜!」
ーーーぼふん、ぼふん。
ミークは豪華なベッドに土足で上がり、ゴロゴロと転がったり跳ねたり遊び回る。
「アイザック君、ここで恋バナしましょう恋バナ!」
ーーーバリィ!
そして菓子袋を開け、中身を盛大にぶちまける。
土足で飛び込んだ分も相まってベッドのシーツが汚れに汚れる。
「お、お前ぇぇぇええーーーッッ!!」
「私の顔殴った仕返しです!!」
オルゼの本気の怒り、しかし脅威ではないと悟ったミークはさらに調子に乗ってみせた。
「お前らなんなの?マジで殺してやろうか?もう一回獣冠祭やりてぇのか??」
「おっといけねぇ、ミーク、ふざけるのはこの辺にしておこう」
「はーい」
「なにこれ」
シオンはきょとんとしている。
「いやお前も何勝手に茶入れてんだそれ高いんだぞ」
アイザックの目的は交渉だ、シオンの視線を見て話題を切り替える。
「それで...俺に一体なんのようだ、なぜ俺の居場所をダイコー達に言わない」
「そう、そこなんだよ」
「?」
「お前さーーエウロペの情報持ってない?」
「!」
「ッ!!」
オルゼ派目を細めた。
「...そういうことか」
「あぁそうだ、戦えないお前に協力しろってのは言わねぇよ、エウロペに関する情報を言ってくれりゃ今回だけは見逃してやる」
「...」
「今回俺が見つけたのは100%お前の落ち度だ、そのミスを今回だけ、水に流してやる」
「...」
オルゼは深く考え込む、しばらくするとーーー。
「は、お前は調子に乗りすぎだな」
「え?」
オルゼはゆっくりと立ち上がる。
「誰が“見逃す”だ?」
ギシ、と床が鳴る。
家具の上の花瓶や小道具がガタガタと震え出す。
「……」
「勘違いしてんじゃねぇぞ、確かに今の俺は万全じゃないーーー、だがな」
一歩、距離を詰める。
「ここでお前ら三人、まとめて殺すくらい――できなくはないんだぞ?」
殺気と威圧感、魔力がないのにも関わらず死を予感させる。
ーーーだがしかし。
その空気は一瞬にして止んだ。
「だがまぁいいだろう、お前の策にのってやる」
「交渉成立ってことでいいんだな?」
「俺もエウロペは嫌いだからな」
オルゼはシオンから紅茶をひったくり、近くのソファにどすんと腰を下ろした。
「『終末教』」
「!!」
「エウロペや...カルヴァトスが所属している組織だ」
「カルが....!?」
カルヴァトスはアイザックに言っていた事を思い出す。
彼女は『終末教』という組織に所属し、帝国の滅亡を画策していた事を。
「『終末教』っていったいなんなんだ?カルが『獣』で構成された組織って言ってたけど」
「『獣』に満たして、人類を次の段階へ進化させる事が目的の異常集団だ、俺も含めてな」
「...進化...だと?」
進化ーーーそれにアイザック達は一つ心当たりがあった。
「『適合者』のことか?」
「あぁそうだ、『獣』は特定の条件を満たすと人格が戻り、そして今まで以上の力を得るーーー俺たちはそれを進化と呼ぶ」
「どうやって」
「あ?」
「どうやって...『適合者』になってるんだ?」
「簡単な話、人を食いまくるんだ」
「...は?」
「正確には100人以上だっけな...エウロペの見立てだと」
「ひゎ」
「百人!?」
ミークとシオンは震え上がった、1人『適合者』を産むために100人の犠牲、あまりにも価値が釣り合わない。
「ふざけんなよ……」
アイザックの拳が震える。
「そんなもん――人が残るわけねぇだろ」
「ふぅん...で?」
「で?って...」
オルゼは笑う。
「弱い奴が死んで、強いやつが生き残る、それが自然だろ」
当然のように言い切った。
「いつだって人も獣も弱肉強食、そして強きものが繁栄をして、それを繰り返すことで進化を遂げてきたのだぞ」
「...」
アイザックは拳を握りしめ、力を込めて叫ぶ。
「そんなもんは人間じゃねぇだろが!!」
「『獣』だって言ってるだろうが」
「...ぐ...」
誰も言葉を継がない、シオンも、ミークも、口を開かない。
否、開けない。
価値観がぶつかっている。
譲れないもの同士が、真正面から。
「アイザック君...」
「でも、俺たちは魔物や動物と違い、意思があって、心がある、ならせめて「人」であろうとは思えないのか?」
「人だと...?は!人を辞めていっているお前が、人を語れる立場かよ」
「は?俺は見ての通り人間だ」
「じゃあ聞くが」
オルゼは鼻で笑い、一歩近づく。
「その力、どこから来てる?」
「……」
「お前が今ここに立ってるのも、生き延びてるのも――それのおかげだろうが」
「……ッ」
「自分の力で立ってるつもりか?違うな、人ならざるものが作った“それに生かされてる”だけだ」
「...」
「人ならざるものに頼って、人の領域からはみ出た精神性を持ちながら、それが人の在り方を騙るのはーーー俺達「獣」よりもタチが悪い」
「...」
「つまりお前は、それがないと何もできない、正真正銘のゴミ、粋がるなよ」
「...」
「だが、気を付けろよ?それはお前の身体を徐々に作り変えている、そしてそれの本当の使い方を知ってしまうと」
「な...何が起こるっていんだ?」
「...くくっ、やめておこう」
「おい!!」
「強いて言うなら、本当に人間ではなくなるってことだ」
「...」
「...」
ーーーこいつ、どこまで知っている?
ーーー違う、俺は人間だ。
反射的に、そう思った。
だが――
何が違う?
言葉が、出てこない。
オルゼの言葉が、頭の中で反復し、それが頭を支配し、世界が回る。
“それに生かされてるだけだ”
“人を騙るな”
――違うはずなのに、そう言いたいのに、否定するだけの根拠がどこにもない。
気づけば、背中に手が伸びていた。
なにかを言いかけたが、何も言えなかった。
そうだ、アイザックが今生きているのはこの紋章のおかげ、それがなければ自分は...。
誰も言葉を発さない。
シオンも、ミークも、口を開かない。
否、開けない。
同じ言葉を使っているのに、
まるで違うものを見ている。
その事実だけが、場に重く沈んでいた。
「..」
「もうやめにしましょう」
しかし、その空気をばっさりとシオンが断ち切った。
「オルゼ、今日はありがとう」
「なんだもういいのか?他に知っておくべき事があるなら聞いておいたほうがいいぞ?」
オルゼは皮肉混じりに応える、アイザックはずっとそんなオルゼを睨みつけていた。
「なら、俺から一つ、特別に教えてやる」
「?」
「あの女は命を無駄に吐いて捨てたりしない、全ての孤児達に対して本物の愛を注いでいる」
「...何が言いたいの?」
「いやなに、行けばわかるってことさ...」
「??」
そういうとオルゼは不気味に笑った。
次回投稿は4/25 7:10!!
次回、リトルポイントに行きます!!
エウロペのビジュアルリニューアル!
前より美人になってます
お楽しみに!
皆様たくさん読んでいただいてありがとうございます〜!!
高評価、ブックマークを押していただければ作者のモチベーションに繋がります!!
よろしくお願いします!!




