97話 リトルポイント孤児院
Q.ミークさん、オルゼの家のベッドで飛び跳ねるわポテチあけるわ何か恨みでもあるの?
A.膝蹴り入れられた上口の中に手入れられた上、そのまま顔面グーパン入れられたので妥当
――ガタン、ゴトン。
規則的な振動が、車内に淡く響いていた。
帝都を離れた列車は、ゆっくりと郊外へと進んでいる。
窓の外には、人気の少ない荒れた街並みが流れていた。
かつて人が暮らしていたであろう建物も、今はどこか生気がない。
「……遠いわね」
シオンがぼそりと呟く。
「孤児院ってこんなとこにあんのかよ?」
「中心部はストリートファイトや競技場で血生臭いからよ」
「なるほど、教育に悪いな」
「辺境のなら安心して育てられますもんね〜」
ミークは小さく身をすくめた。
「...」
アイザックは俯いた。
――オルゼの言葉が、頭から離れない。
"人を騙るな"
あの男がわざわざ口にしたそれが、どうしても引っかかる。
「……」
アイザックは舌打ちし、思考を振り払う。
それを横で見ていたシオンが肩を寄せる。
「大丈夫?」
「いや、え、なにが?」
「オルゼに言われたこと」
「うぐーーー」
シオンは見透かしていた。
「大丈夫、貴方はちゃんと人間よ」
「...」
シオンは心配しているようだった。
やがて。
――キィィィィ……
金属の軋む音と共に、列車が減速する。
「……着いたみたいですね〜」
ミークが窓の外を覗き込む。
そこにあったのは――人気のない、小さな駅だった。
看板は錆びつき、文字もかすれている。
ホームには誰もいない。
「……なんか、やばくない?」
「……えぇ」
静かすぎる。
まるで、来客を拒むような異様な雰囲気だった。
――プシュー。
扉が開く。
三人は無言のまま、外へと足を踏み出した。
その時だった。
「……こちらです」
「!?」
不意に、背後から声がする。
振り返ると――
そこにいたのは、一人の少女だった。
無機質な瞳、整いすぎた顔立ち、どこか人間らしさの欠けた白銀に身を包んだ立ち姿。
それをアイザックは知っている。
「チクアーノさん?」
「お久しぶりです、惜しくも優勝を逃したアイザックさん」
「うぐぇぇえ」
少女は淡々と答えた。
「私はチクアーノ、界帝様の命によりあなた方を孤児院まで案内します」
「……は?」
シオンが眉をひそめる。
「なんで私たちが来るって――」
「把握済みです」
食い気味に、チクアーノは言い切った。
その声には、感情の揺らぎが一切なかった。
「シオンシオン」
「ん?」
「ミークミーク」
「はい〜?」
シオンとミークにそっと耳打ちするアイザック。
「あいつ多分俺達が来るまでずっと待ってたっぽいぞ」
「え、でも把握してるって」
「俺達が依頼を受けてここに来るまで1日と半日だ、俺達がオルゼと話した後雨が降ったよな」
「まぁ地底の閉鎖感を無くすための機能として、雨ーーというか水魔法を展開してたわね」
「アイツの足元を見てみろ」
「ん?ーーぁ」
チクアーノの足元、そして髪の先端は泥がこびりつきぐしゃぐしゃになっていた。
そしてシオンは全てを理解する。
「うわっ!!ずっとここで待ってたってコト!?」
「俺たち行く時間伝えておくべきだったかな」
「今日まで雨の中ずっと待ってたってことですよね...」
「なんか悪いことしてしまったかな」
「いいですか?」
チクアーノは割って入るように覗き込む。
「え、あぁ、はい、どうぞ、そしてごめんなさい」
「?」
「……ですね」
ミークもおずおずと頷く。
「では、こちらへ」
チクアーノは踵を返し、歩き出した。
駅を抜け、荒れた道を進む。
人影はなく、風の音だけがやけに耳につく。
――やがて、丘の上にそれは現れた。
「……あれが」
シオンが呟く。
白い外壁、手入れの行き届いた庭。
遠目にもわかる、整然とした佇まい。
「……ここが、孤児院?」
アイザックの声には、僅かな違和感が滲んでいた
その時のこと。
「案内はここまでです」
「え?」
チクアーノが立ち止まる。
「これより先は、許可されていません」
「は?一緒に来ないのかよ」
「はい」
即答だった。
「私はここで撤収します、完了報告をしないといけないので」
「...わかった、ありがとう」
「礼はいりません、それが私の仕事でしたので」
「ん?そうなのか?でもありがとう」
「...」
きょとんとした顔をするチクアーノ、踵を返し坂を降りていく。
ただ一度だけ、こちらを見て――
「……お気をつけて」
そう告げた。
その声音に、ほんの僅かだけ――何か、暖かい何かが混じっていた気がした。
「……行くわよ」
シオンが言う。
三人は、ゆっくりと歩き出す。
ーーーギィ
意外にも柵はすんなりと開き、中庭が顔を覗かせた。
アイザックが先導し、シオンとミークが後に続く。
「静かね...」
「あぁ...」
その時だった。
ーーーギィッ!
「ッ!!」
「!」
目の前の館の扉が開いた、3人は咄嗟に身構える。
しかし目の前に現れたのはーーー。
「きゃはははは!」
「鬼ごっこだぁ!」
「待て待てーー!」
「お花摘みにいきましょ!」
「ボールはぼくのだぞー!!」
「え?」
「は?」
扉を開いて出てきたのは無数の子供達。
「シオンミーク、武器引っ込めろ!」
「え?え、はい」
「............」
ミークは杖を納めたが、シオンは無言のまま立ち尽くしている。
「さすがに子供に武器見せるわけにはいかねぇ」
「アイザック君子供に優しいですよね」
「おぅ俺は優しいだろ」
「台無しですよ」
軽口が交わされる中、
その会話を横にシオンは呆然としていた。
「し、シオン?」
「どうしたんですか〜?」
「......................変わってない」
「え?」
「なんで...変わってないの...!?」
「え、なにが?」
その時、子供の1人がシオンを見つける。
「あーーシルヴィアが大きくなってるーー!!」
「誰ー?」
「シルヴィアシルヴィア!!お久しぶりー!」
シルヴィア、それはシオンのかつての名前。
シオンはその子供達をみてただ震えていた。
「ラクト……?」
一人の少年を見つめる。
「ブラン……?」
続いて、隣の少女。
「コア……?」
最後に、小さな子供。
呼ぶたびに、記憶が蘇る。
笑い声、泣き声、焦げた匂い。
シオンは一歩後退る。
「……なんで、なんで……いるの……?」
子供たちは首を傾げる。
「シルヴィア、どうしたの?」
「また変なこと言ってるー」
「違う……違う……!!」
頭を押さえる、瞬間、脳裏に蘇るシオンの記憶。
――赤い炎。
――崩れ落ちる天井。
――泣き叫ぶ声。
「ここは……ここは……燃えたの……!」
だがしかし、子供たちはあの時のまま、まるで時が止まったかのように。
走り、笑い、そしてシオンを見つめている。
「違う……違う違う違う……!!」
声が震える。
「貴方達は……ここで………死んだはず!」
「え!?」
空気が凍りついたその瞬間。
子供たちの中の一人が首を傾げてシオンを見つめる。
「シルヴィアなんか変ー」
「大丈夫ー?」
「お母様に見てもらう?」
「シオン、どう言う事だ!?こいつらって...!!」
「あらあらあら待ってたわよ」
「ッ!!」
「ひっ!!」
「!」
アイザックとミークは身構える、しかしシオンは震えながらその場から動けずにいる。
「...シオン、ミークの後ろにいろ」
「...え?」
「シオンちゃん、後ろに」
シオンを守る形でミークとアイザックが立ちはだかる、その視線の先には子供達が出てきた扉。
扉は開いており、吸い込まれるような闇が広がっている。
ーーーコッ
ゆっくりと、ただ優雅に、優しく。
ーーーコッ
「!?」
暗闇の中、赤い目が並んでいる。
ーーーコッ
その視線は怨念か、それとも庇護を求めているのか、一つの影に纏わりつくようにその影の後に続く。
「出たな.....」
「来てくれたのね!」
現れたその影、その姿、一度見たら忘れない美貌。
ーーー『母を騙る悪魔』
エウロペ=バレーナがそこにいた。
次回投稿は4/27 7:10!!
シオンがめっちゃ曇ります
お楽しみに!
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