94話 それぞれの日常、巣食う闇
Q.3話でいた「老公」は今後関わるの?
A.後ろ姿だったり、俯いたりしてましたが2-4章にてビジュアルが判明します
竜骨が見下ろす地下帝国マナタン。
獣冠祭から、数週間が経ったある頃。
帝都では、原因不明の“事件”が相次いでいた。
「また出たんだって...?」
「あぁ、もう4件目だよ」
「ここのバーガー美味かったのになぁ」
人気の少ない通りで“それ”は見つかった。
現場はすでに封鎖されている。
「下がれ、これ以上は立ち入り禁止だ」
『機構星騎士』が群衆を制し、周囲を固めていた。
ざわめきだけが外側に溜まっていく。
やがてーーー。
「通してくれるかな?」
「ちょ、押すなーーー界帝様ぁ!?」
群衆が、そして騎士たちが、一斉に道を開けた。
金属の混じる足音が近づく。
無駄のない重い一歩。
現れたのはミカード=グランノアーリ、マナタン帝国を治める『界帝』。
その到着に、誰もが口を閉ざした。
「中は?」
「確認済みです。ですが――」
一瞬の、言い淀み。
「見よう」
短く命じる。
張られた布が、内側からめくられた。
ミカードは無言のまま、その中へ入る。
光の届かない、薄暗い空間。
そして――
それは、横たわっていた。
「またか」
「はい」
犬のような形。
だが、その全身から“皮”が剥がされたような形状。
露出した筋肉が剥き出しになり、骨も至る所から露出、さらには頭部の目玉が不規則に幾つも並んでいる。
犬に近いが、犬ではない、かと言ってどの魔物にも似ていない全く不可思議な生物。
乾ききらない赤黒い液が床に広がっていた。
「触れないでくださいね、こいつに噛まれた店主が感染しました」
「それは気を付けないと」
ミカードは、しばしそれを見下ろす。
生きているのか、死んでいるのか――そしてこれは一体なんなのか。
判別はつかない。
ただ一つ、確かなのは。
これは、この帝都に存在していいものではない。
――そんな確信だけだった。
ーーーーー
2-4章 龍界地底砲塔マナタン リトルポイント編
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ーーーゴリゴリゴリ
「い゛っっっっっ!?!?!?」
鈍い音と共に、アイザックの悲鳴が室内に響いた。
「我慢しなさい、てかあんた筋トレばっかでろくにストレッチしてないわね、硬いわよ」
「いや硬いとかそういう問題じゃねぇだろ今の!?折れた!絶対折れた!!」
「折れてないわよ」
さらりと言い切るシュガー。
ここは帝都の一角にある、小さな整骨院。
獣冠祭の戦いから数週間――
その傷を引きずる者も、まだ少なくなかった。
「ストレッチは毎日やっておけ、でないと大事な時にきついぞ」
呆れたように呟くのはガレット、受付兼助手として手伝いをしているらしい。
「いや、だからって今のはおかしいだろ!!」
「関節のズレを戻しただけよ」
「戻し方が暴力なんだよ!!」
シュガーは淡々と、次の箇所に手をかける。
「それで?イカダだっけ?」
「そうなんだ……よぉぉおおお?!」
足のツボを押され、アイザックは悶絶する。
そうして施術を終えてアイザックは懐からBPを取り出し、トレーの上に乗せた。
「あなたの背中の紋章、結局戻って来たのね」
「あぁ、これ?」
布漉しでは見えないが、アイザックの背中にある紋章。
『魔王刻印』、嵐を模した渦状の紋章。
この紋章からは無限の魔力を供給でき、それがアイザックの窮地を何度も救って来た。
「オルゼにこれ丸ごとぶつけたはずなんけど...確かに戻って来たんだよな」
この紋章は無闇に移動させると暴走する仕組み故に、オルゼに無理やり押し付ける事でオルゼの能力は暴走し爆散、勝つ事ができた。
しかし目が覚めると押し付けたはずの『魔王刻印』が戻ってきていたのだ。
「んー、まぁいいか、これがないと俺たたかえないし」
「...」
その言葉を聞いたガレットは静かにアイザックを見つめていた。
「え、なに?」
ガレットは、ほんの僅かに目を細めた。
その言葉を、確かめ、なにか思うところがあるように。
「……いや」
一拍置いて、視線を外す。
「なんでも...」
「ていうかアンタもう身体治ってるんだし、私のところに来なくてもいいのよ?」
アイザックはしばらくの間、傷を癒すためシュガーの元で通院していたのだ。
外傷は治っても、無理をしたツケが回ってきたのかアイザックの骨は曲がりに曲がっていたのだ。
「治った後も来るなんて」
「いやシュガーのマッサージ受けると身体が軽くなるんだよ、だからこれからも頼む」
「もう...金は取るわよ」
「もちろんだ」
シュガーは満更でもない表情でそっぽを向いた。
アイザックが店を出ようとした瞬間、鉢合わせるようにシオンが入って来た。
「あぁ、アイザック、こんな所にいたの」
「ねぇこの女、こんな所って言わなかった?しばいていい?」
「シュガー、悪気はないから許してやれ」
シュガーをなだめるガレットを他所にアイザックは応える。
「おぅ、どした?」
「界帝様が呼んでる、一緒に来てくれる?」
「え"」
それは意外な通達だった。
「え、な、なんで?俺なんかしちゃった?」
「さ、さぁわからないわよ」
シオンの額にも汗が滲み出ている。
ーーーガランガラン
「いってらっしゃい」
手を振るシュガーを背に2人は歩みを進めた。
だがしかし、外に出た瞬間空気が重い。
「行くわよ」
「あぁ」
それ以上は何も言わず、二人は歩く。
やけに少ない人通り。
視線だけが、背中に刺さる。
遠くで鳴る、金属の足音。
「な、なぁこんな静かだっけ」
「貴方最近の事件知らないの?」
「ずっと療養してたから」
「界帝様の件が片付いたら教えたげるわよ」
周囲の空気――嫌な感じだ。
だが、考える暇もない。
ただ、呼ばれたという事実だけが頭に残る。
そして――
「界帝様、連れてきました」
『砲塔マナタン』、帝国の中心に位置する一本の塔。
その最上階の大広間に彼はいた。
「やぁ」
「ご無沙汰してますグランノアーリ様」
「ご無沙汰ですコノアーリ様」
「久しぶりだね、あと界帝でいいよ」
『界帝』、そう呼ばれる筋骨隆々の大男は答えた。
その名前に相応しい恵体と最新の技術を入れた銀色の魔法装束はアイザックにとっては見慣れたものだ。
しかし、その一室の隅にアイザック達の師であるレーチェもいる。
アイザック達から背を向け、大掛かりな道具を揃えてなにやら研究に没頭中のようだった。
「師匠?」
ーーーバァァンッッ!!
「わぁぁぁ!?」
突如鳴り響く破裂音、その瞬間並んでいた大道具は吹き飛び、爆破の中心にいたレーチェは激しくアイザックの前まで転んだ。
「難しいのう」
「なに作ってんだ、師匠?」
「武器の開発じゃ」
「ん?でもこれって...」
レーチェが破壊した研究対象の形、いまは壊れているが、アイザックはその形状を確かに見た事があった。
しかし、口を開く前にシオンはアイザックの思考もろとも遮った。
「それで...今回はどのような要件を?」
シオンは先導し疑問をなげかける。
「あぁ、その件だが...アイザック」
「ドキッ」
名前を呼ばれて飛び上がる、イカダの件については界帝には伝えていない。
もしシャクシ島へ渡るためにイカダを使って勝手に国から出ようと思うのなら国のトップとして止めないわけにはいかないからだろう。
しかし、ダイコーの言葉は意外なものだった。
「実は特別に、優勝の副賞である「願い」を叶えてあげようと思ってね」
「...」
「ただし、私の依頼を達成できたらな」
そしたそれはしれっと、自然に告げられた。
「え、ま、まじ!?マジですか??」
「あぁマジだ、これならわざわざイカダを作る必要もないだろうからね」
「ぎく」
ミカードには全て筒抜けだったことを知り膝を抱えていた。
「ちなみにシャクシ島は内部で色々あってね、マナタン帝国以外との外交を断絶している、不法入島などもってのほかだ」
「え、あ、まじか...」
しかしこの状況は渡りに船だ。
そんなリスクと労力を要さずにシャクシ島へ渡れるならやらない選択肢などない。
「やる...やるよ、何かわからないけど!!」
「アイザック」
「ん?あーー」
シオンはアイザックを睨みつける。
不用心すぎだと言わんばかりの冷たい視線、しかしため息をついてミカードに向き直った。
「なに、シオン君にも関係のある話だ」
「?」
シオンが首を傾げる中、ミカードは咳払いをして答えた。
「エウロペ=バレーナの件だ」
「!!」
「ッッ!!」
その名前を2人は知っている。
初めて帝国に入ったと同時に、初めて出会った女。
あの女の笑み。
あの底知れない狂気、忘れる術などあるものか。
帝都で起きている異変。
その中心にいるのが、あれだというのなら――
――アイザック達に逃げ場はない。
「彼女の調査、それが今回の依頼だ」
静かな宣告。
それは命令ではない。
だが――拒否という選択肢もまた、存在しなかった。
マナタン帝国における最後の戦いが始まろうとしていた。
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2-4章 龍界地底砲塔マナタン リトルポイント編
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次回投稿は4/21 7:10!!
次回
まさかのあいつが登場します
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