91話 星堕ちる刻
賭け事の強さ
アイザック→なぜか全敗
シオン→高度な手腕でイカサマする
レーチェ→手慣れたようにイカサマする
ミーク→魔法でイカサマする
――ズドンッ!!
大地が抉れ、衝撃が遅れて空気を叩き潰した。
「……ッ」
瓦礫の上を、血が流れる。
ガレット=ヘーゼルは片膝をついたまま、弓を地面に突き立てていた。
呼吸は浅く肩が上下するたびに血が滴る。
紫紺の狼もまた地に伏している。
その身体は焦げ動く気配はない。
「……どうした」
頭上から声が落ちる。
赤い雷を纏った影――オルゼが、見下ろしていた。
「さっきまでの威勢はどうした」
――バチィッ!!
雷が走る。
その一筋がガレットの肩をかすめた。
「……ぐッ……」
膝が沈む。
それでもガレットは倒れない。
「……は……まだ、だ」
絞り出すような声。
だが、その視線は死んでいない。
「ほう?まだ立つか、いいな、その目は嫌いじゃない」
ゆっくりと腕を上げる。
雷が収束する。
「耐えてくれよ、玩具は長持ちする方がいいからなァ!!」
――その時だった。
ふと。
オルゼの視線が、逸れた。
「……あ?」
ほんのわずか。
だが確かに、“別の何か”を捉えた。
視線の先。
瓦礫の奥。
倒れていたはずの男、ゴミのように吐き捨てたはずの男。
「……」
その男が立っていた。
血に濡れた身体。
焼け焦げた皮膚。
見窄らしい酷い顔。
それでも“立っている”、アイザックの目は死んでいない。
「……は」
オルゼの口元が、ゆっくりと歪む。
「なんだ……まだいたのか」
その目が細まる。
「アイザック」
呼びかけではない。
確認でもない。
――バチィッ。
雷が、わずかに強まる。
「死に損ないが...生き汚いと言うべきか、そこまでしてなんになる」
「さぁ...な」
アイザックは掠れた声で答えた。
「俺にも...色々あんだよ」
「あぁ、そうかよッ!!」
ーーードンッ!!
オルゼが放った雷撃はアイザックを確実に捉える。
「ガァァァアッッ!!」
アイザックは飛沫を上げて激しく吹き飛んだ。
「はっ...はははははッ!!」
あっけない、まるで虫だ。
死にかけの虫を蹴り飛ばしたような感覚だ、あまりにも脆い、脆すぎる。
「ははははーーーはッ!?」
しかし、アイザックは立ち上がった。
「面白い...なら何発目に逝くか賭けるか!?」
ーーードンッ!!
オルゼは瞬時に距離を詰め、アイザックに拳を振りかぶる。
ーーーバギィッ!!
「ごがぁああッ!!」
それは鳩尾を正確に捉えた。
アイザックはまたも血を大量に吐き出す。
ーーーガッ!!
そして横たわるその頭を激しく蹴り飛ばした、アイザックは歯が欠け、激しく転ぶ。
「ーーーッ!!」
「ッ!?」
だが、また立ち上がる。
「...お前、なんのつもりだ?」
「...」
アイザックは深呼吸する。
「殴られて、いろいろスッキリしたわ」
「あ?」
「…オルゼ、俺はこれから本気でお前をぶん殴る」
そう言うアイザックの表情は真剣そのもの、その視線を見たオルゼは確信した。
これがアイザックの最後の攻撃であると。
「は、ぶん殴る?生ゴミがよく吠えやがる」
しかしオルゼは軽口に反して迎撃の体勢をとっていた。
自分より数段格下の相手、しかし油断はできない、そう思わせる程のアイザックの異常なまでの圧。
「来いよ」
「...オルゼ」
再びアイザックは深呼吸し、そしてーー。
「ーーーついてこれるか」
「!!」
オルゼは咄嗟に身構えた。
「ッ」
ガレットも、シオンもダイコーもその言葉でアイザックに注目している。
しかし、その時ーーー。
「3、2、1」
――パァァンッ!!
「……あ?」
オルゼの眉をひそめた。
――トン。
――スッ。
――トン、トン、スッ。
刻む、リズム
ーートン、スッ、トントン、スッ
その動きは、さっきまでの“重さ”がまるで嘘のよう、軽快なステップが戦場を彩る。
「……なんだそれは」
オルゼの声に違和感が混じる。
アイザックは答えない。
ただ。
――パンッ。
もう一度、手を打つ。
それに合わせて。
――スッ。
身体が、くるりと半歩分だけ回る。
瓦礫を踏み越え、
血を弾きながら。
それすらも、ステップにのせてただーーー。
「気でも狂ったかァァーーーッッ!!」
叫んだのはガレットだった、当然だ。
命の取り合いの末、選んだ選択は「ダンス」。
アイザックは敵を前に踊り出したのだ。
――トン、スッ。
返事はない。
だが、その足取りはどこか楽しげで。
軽やかに跳ねるように。
ほんのわずかに小粋に弾む。
――ドンッ!!
「死ね」
オルゼが踏み込む。
瞬間的に目の前に現れ、その拳が振り上げる。
だが。
ーーーガッ!
「これは、お前のお仲間が俺に教えてくれたステップなんだぜ」
「うーーーッ!?」
振り抜いたその腕を掠め、オルゼの懐を取った。
「俺と同じだよ、お前は、『死の風』を感じ取れるんだな」
「同じ...ーーーまさかッ!?」
「その弱点は、俺もよぉぉく...知っている」
ーーーアイザックはオルゼの腕を掴んでいた。
「捕まえりゃ関係ねぇ」
「ガァァァアッッ!!!」
オルゼは咄嗟に振り解こうとした、しかし。
ーーードォオンッッ!!!
「ガッッ!?」
鳩尾に走る衝撃、アイザックの魔力を込めた一撃はオルゼの腹部を確実に捉えた。
『魔轟衝』を込めた一撃、オルゼは激しく吹き飛んだ。
――ドォォォォンッ!!
赫い雷を撒き散らしながらオルゼの身体が空へ打ち上がる。
「がぁぁああああああッッ!!」
その軌道を、追う影が一つ。
――それは流星の如く。
アイザックだ。
「オルゼ!!受けてみろぉぉおおおおおッッ!!」
「!?」
アイザックの全身が光り輝く、魔力を循環させる事による身体能力向上。
全身を魔力で無理やり駆動させ、肉も骨も無視して前へ、ただ無心で前へ。
「いけ!!」
「アイザックッ!!」
「いけぇぇええええええッ!!」
――ドンッ!!
一瞬で距離を詰め、大きく振りかぶる。
全てを乗せた一撃。
「ッッッッラァァァアアアアアアアッ!!」
その拳は、確かにオルゼを捉えーーー!
――ガシィッ。
「……は?」
止まっていた。
アイザックの拳を、
オルゼは両手で受け止めていた。
ギチギチと音を立てる拳、しかし押し込めない、完全に止まっていた。
「な...」
「ぐ...くそ...」
空気が凍りついた。
「そんな...」
シオンの指先が震える。
あれが最後のはずだったのに。
「その程度で……俺を――」
オルゼは額に汗をかきながら歪に笑ってみせた。
「殺せると思っているのかぁぁあッ!!!」
咆哮。
勝利の雄叫び。
戦場にいた全員が、
同じ結論に辿り着く。
終わった、勝利は決した。
ーーーそう思っていた。
「知ってるよ」
「ーーーは?」
ただ、1人。
ただ1人だけ笑っていた。
アイザックは笑っていた。
「お前がその程度で倒せないことくらいわかってたよ」
「何を言って...ーーーッ!?」
オルゼの視界に映る閃光は消えていなかった。
むしろその光はさらに強く...
ーーーもう片方の手に収束していく。
「しまッ?!」
収束していた光が、爆ぜるように膨れ上がる。
もう片方の拳――そこに押し込められていた魔力が、限界を超えて唸りを上げていた。
「改めてーー『星穿』...受けてみろぉぉおおおおーーーーッッ!!!」
――ドォォォォオオオオオンッッ!!
「ぐぁがッッ!?」
拳がめり込む。
防御も回避も間に合わない。オルゼの腹部に、そのまま突き刺さった。
「ぶっ飛べぇぇええええッッ!!」
そしてアイザックは全力で振り抜いた、オルゼは空中へ打ち上げられる。
「が……ッ!?」
直後。
異変が起きる。
バチッ、と小さな火花。
次の瞬間、それは爆発的に増幅した。
バチバチバチバチッッ!!
「な...なんッ!?」
オルゼの体内に力が湧く、しかしそれは断じて気持ちの良いものではない。
例えるならーーー力を無理やり押し付けられたような感覚。
「ぐ...ぁぁああッ!?」
纏う赫い雷が暴れ出す。
外ではない、身体の奥で抑えきれない何かが暴走している。
その時ーーー。
ーーーバリィィィィィッッッ!!!!
「ぎぃあ"あ"ぁ"ぁ"あ"あ"あ"ーーーッッ!!??」
オルゼは弾けた。
肉が裂け、骨が軋み、内側から何かに引き裂かれていく。制御を失った雷が、全身を食い破る。
ーーードォォォォンッ!!
さらなる『魔轟衝』によりオルゼの身体がさらに上へ打ち上がる。
逃げることも、抗うことも許されないまま。
「があああああああああああああッッ!!!」
絶叫が空を裂く。
その光景を見たアイザックの脳裏に蘇る、修行の記憶。
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『アイザック君ズルイです!私にもその魔王刻印くださいよぉ〜!!』
『い、嫌だよ!ていうか人にあげれるもんなのかこれ!』
『できるが、かなりむずい。失敗したらアイザックが爆発する』
『やるなよッ!?絶対やるなよッ!?』
『ぶぅー!』
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そう、『魔王刻印』の譲渡。
それに失敗した際のデメリットを利用した。
無限に溢れ出る魔力を抑えきれず雷撃を撒き散らして絶叫するオルゼを見上げて静かに呟く。
「魔法ってのは...術式に決まった魔力を流して起動するって...ミークが言ってた」
全身から赫い稲妻が走り、オルゼは自身の雷電に身体を焼かれている。
「だから魔力が溢れ出る『魔王刻印』をーーー蛇口全開にして押し付けてやったッ!!」
そのための、魔力全開にしてからの突撃、そしてブラフの一撃。
既にアイザックの背中から紋章が消えていた、背中は輝きを失い光が落ちる。
そして逆に打ち付けられたオルゼの腹部には、脈打ち光り輝く紋章。
「無限の魔力だ!!じっくり味わえ!」
「ぎぃ"ぃ"い"い"い"いいいーーーーッッ!!!!」
それを見上げ、アイザックはつぶやいた。
魔力は止まらない。
体内から雷が噴き出し、皮膚を裂き、肉を焼き、骨を軋ませながら増え続ける。
「がぁあああああああああああああッ!!」
溢れる魔力が行き場を失い、外に逃げられないまま内側で暴れ回る。
ただそれだけで、もう耐えきれない。
膨れ上がる。歪む。弾ける。
「ぎぃぃぃいやああああああぁぁぁぁぁああああーーーッッ??!!!」
そして、限界は一瞬で越えた。
ーーードォォォォォンッ!!
覆っていた赫い雲はその爆発で吹き飛び、見慣れた天蓋が顔を覗かせた。
「!!」
「ぁ!」
「ーーー...」
空が、晴れた気がした。
「...お」
雷電は粒子となって降り注ぐ、まるで雨のように。
ーーーポツリポツリと。
「...」
ーーーッ!!
その時、空中を浮かぶアイザックの隣を流星が通り過ぎる。
まるで勝利を祝福するかのように。
「……」
アイザックは見送る。
「……出来た」
拳を握る。
アイザックにとっての人生のこたえ、「奥義」。
「……『星穿』」
地底の天蓋は粒子と合わさりーーー夜空を描いていた。
次回投稿は4/15 7:10!!
次回、『獣冠祭』ついに終幕!
優勝者が決まります!
衝撃のラストを見逃すな!
皆様たくさん読んでいただいてありがとうございます〜!!
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