84話 ダイコー=オーディンの沈黙(3/3)
Q.2-3章ボスのオルゼは1章ボスのドリンク=バァより強い?
A.弱い、むしろ今大会の選手だと一番ドリンク=バァからボコられやすいくらい相性が悪い
なぜ弱いかは次回でわかります
ーーードォォンンッ!!ドォンッ!!ドドドドドッ!!
両者の激しい攻防、廃墟の外と中を縦横無尽に駆け回る。
各所で火花が散り、それが連続し模様を形作る、見惚れてしまうほどの戦闘の最中、シオンは這ってその場を去ろうとしていた。
「ぐ...ぐぅぅッ!!」
折れた肋骨が悲鳴を上げる、シオンは痛みに悶えながらも必死に両手両足を動かしていた。
なによりあってはならないのは、「足手纏いになること」。
オルゼであれば自分を盾にしてダイコーの攻撃を躊躇わせるーーーなんて事が起こらないとは言い切れない。
「はぁ...はぁ...!!」
全身の出血により意識が朦朧としていてもシオンは止まらない、せめて視界から外れるように地面を這っていた。
ーーードドドドドッ!!ドンッ!!ドドドッ!!
そんな中、オルゼとダイコーは魔法や物理での戦闘を交えながら睨み合う。
「はははははッ、さすが帝国最強、動きの寸分に隙がない」
「...」
一方的に語りかけるオルゼ、しかしダイコーはうってかわって静かだった。
「攻撃の一つ一つに明確な殺意を持っている...認めてやろう、お前ほどの戦士は初めてだよ」
まるで挑発するかのように笑い出すオルゼに対してダイコーはとうとう口を開いた。
「...貴様は」
「なんだ?」
「貴様はツミレという女を知っているかァァァァーーーッ!!」
それは彼女にとても大事な、とても大切な存在だった。
...
..
.
「……」
腕の中の身体が、僅かに震えた。
濁っていた瞳が揺れる、焦点が合わないまま、ゆっくりとダイコーを見上げた。
「……だい……こー……さま……?」
掠れた声。
運命のいたずらか、神は彼女に喋る機会を許してくれた。
腹に空いた大穴からは大量の血が流れ出す、彼女を抱き抱えたダイコーは静かにツミレを抱いていた。
「ツミレ...怪我は」
「ダイコー...様、貴方が一番よく知っていると思います」
「...」
自分が空けた大穴だ、もうわかっている。
ーーー彼女はもう助からない。
空から大量の水が雨のように降り注ぐ、見上げると巨大な魔法陣が浮かんでいた。
おそらく火災の沈静化のために帝国側が用意したのだろう。
「...」
「よかった...」
ツミレは目を覚ました、『獣』の支配を運良く逃れたがそれでも絶望的だった。
「...」
少女がかすれた声で呟いた、「よかった」と。
何がよかったというのか。
誰からも顧みられず、
夢も叶わず、
ついには「獣」に堕ち、愛する者に殺される――そんな結末を、誰が受け入れられるだろう。
無垢に夢を追い続けた少女の最期がこれだというのか。認められない。決して認められない。
「……貴方に看取ってもらえる……これ以上の贅沢はありません……」
ダイコーは最後まで、彼女の願いを叶えてやれなかった。
いつしか忘れかけていた記憶、彼女の夢。
彼女の夢は自分の作った武器をダイコーに使ってもらう事。
もしこうなることが分かっていたなら、きっとその願いを聞き入れていただろう。
だが、今となってはすべて遅すぎる。後悔と自分への怒りが、胸の中で渦を巻く。
「もし……もし、最後に……叶うのなら……」
掠れた声で少女が呟く。
「言え」
言葉が途切れる、ツミレは一度だけ息を吸った。
「...貴方の...」
ーーー英雄としての姿を見たかった。
それが彼女の最後の言葉だった。
「...」
ツミレの手から、ゆっくりと力が抜ける、ダイコーはしばらく動かなかった。
腕の中の身体が軽くなっていく感覚だけがやけに現実味を持って伝わってくる。
「……ツミレ」
呼びかける。返事はない。
腕の中の身体は、ただ静かだった。
「...」
ダイコーは静かにツミレを抱き寄せ、身体に顔を埋めた。
無くした何かを探すように、しかし求めていたその何かは彼女の中から抜けていた。
冷たい、生気を失った彼女の身体は雨によって冷たくなっていた。
「……あ」
押し潰されたような声が漏れる、やがてそれは、言葉にならない絶叫へ変わった。
「ッ……あああァああああああァァァァッ!!」
ダイコーは頭を掻きむしった。
髪を乱暴に引き、歯を食いしばる。胸の奥から湧き上がるものを抑えきれない。
流れる血ですら、彼女の心を抑えることはできない。
ーーードガァァンッ!!
拳を地面に打ちつける。
「なんでだ……!」
ーーードガァァンッ!!
震える声で吐き出す。
「なんで...こうなった...ッッ!!!」
ーーードガァァンッッ!!!
鈍い音が響いたが、痛みなど感じていない。
「私が……」
自分の手を見る。
握りしめた手には砂が入り込み、開くと同時に溢れ落ちる。
「私が……殺したのか……」
あの時、自分がすぐ駆けつけていれば、
あの時、自分が彼女に耳を傾けていれば、
あの時、『五耀星』に入る事を拒否していれば、
あの時、あの時、あの時ーーー。
胸の奥で何かが軋む。視線がゆっくりと戦場の奥へ向いた。
「⬛︎...⬛︎...」
瓦礫の向こうで『獣』が蠢いている。
憎悪が込み上げた。
全部殺せ、殺せ、殺してしまえ!!
ここにいる『獣』も、あの元凶も、すべて叩き潰してしまえばいい。
自分ですらも破滅してしまえばいい。
そうすれば、この胸の中の何かも少しは静かになる気がした。
ダイコーの指に力がこもる、その時。
...ふと、腕の中の顔が視界に入る。
脳裏に蘇ったのは、ついさっきの声だった。
『英雄としての姿を見たかった』
「……」
ダイコーの呼吸が止まる、しばらく動かなかった。
やがて、ゆっくりと目を閉じる。
「……早速...やからす所だったな」
ツミレの髪をそっと撫で、静かに息を吐いた。
胸の奥で暴れていたものが完全に消えたわけではない、怒りも憎しみもまだ確かにそこにある。
だが、飲み込まれるわけにはいかなかった、ツミレが最後に望んだのはそんな姿ではない。
ダイコーはゆっくりと立ち上がる。
「……英雄がなんなのかは、私にはわからない」
小さく呟いた。
「形から...入ろうと思う」
それは怒号ではなかった。
ただ、静かな決意と...
ーーー彼女の故郷で見た、その形。
...英雄としての形、ポーズを決めた。
...
ーーーガッッ!!
「ぐぅッ!!」
とうとう、ダイコーはオルゼの足を捕らえた。
「捕まえたぞ...ッ!!」
ーーーガァンッ!!
間髪入れずオルゼは雷撃を浴びせる、しかしダイコーには効かない。
「だぁぁあああああああああーーーッッ!!」
次の瞬間、ダイコーの身体が跳ね上がった。
オルゼの足を掴んだまま
ーーー空へッ!!
「無限の彼方へさぁ行くぞぉぉおおおおおーーーッッ!!!」
「ぐぁぁぁぁぁーーーーッッ!!??」
ーーードォォォォオオオオオンッ!!
音速で上昇。
そして、旋回。
遠心力に引きずられるように、オルゼの身体が空中で振り回される。
「がぁぁぁぁああああああああーーーッッ!!!」
重くのしかかる重力と遠心力で、オルゼの全身が悲鳴を上げた。
「うぉぉおおおおおおーーーーッッ!!!」
限界を超えて急上昇、街が離れ、やがて空に浮かぶ大穴へ。
『アンダーハイ』
ダイコーはオルゼの足を掴んだまま急上昇した。
二人の身体は先ほど落ちてきた大穴をそのまま駆け上がる。
自分達が通ってきた縦穴を、逆に辿るように。
ーーーボンッッ!!
「なっ!?」
「うぉ!?」
「え!?」
「ほう...」
観客の視線はモニターではなく、別方向の遠くへ向けられた。
浮かぶ二つの凶星、オルゼとダイコー。
「...」
空中で、ぴたりと止まる。
オルゼの身体は無重力にさらされ、見下ろす竜骨のもと二人の視線が交差する。
「……オルゼ」
「ッ!?」
「流星の速度で落ちたことはあるか」
「ッッ!!」
落ちる。
少しずつ、
早く、
速く、
そして捷くーーー!!
「貴様ァッッ!!その威力で落ちると貴様までッッ!!!」
「関係あるかあああああああぁぁぁぁッッ!!!」
ーーーゴォォオオオオオオオッッ!!!
空気が悲鳴を上げる。
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
オルゼは逃れようと踠く、しかしかかる遠心力によって身体が文字通り引き伸ばされ指一本すら動かせない。
しかしダイコーも同じだ。
かかる重力で全身が動かない、執念で掴んだ手以外に動かせる箇所は一つもない、この速度に身を任せるしかない。
「これは...この動力は...ッッ!!」
ツミレが最後に残したもの、
武器ではない、ツミレがダイコーのために設計していた未完成の動力。
それを完成させた、速度を上げれば上げるほど空気の摩擦によって起こるプラズマを魔力に変換。
さらにその魔力を放出し速度を上げる永久機関。
「お前が殺した少女の人生だ...
ーーー受けてみろぉぉおおおおおおおおおーーーーーッッッ!!!!」
「がぁぁぁああああああああああッッ!!?」
ーーーゴォォオオオオオオオッッ!!
暗闇を抜け、再び廃墟の街が視界に広がった。
地面が勢いよく迫る。
瓦礫の街。炎。煙。崩れた塔。
それらすべてが、凄まじい速度で膨れ上がってくる。
「貴様ァァァァあああああーーーッッ!!!」
「ぁぁぁああああああああーーーッッ!!!」
次の刹那、ダイコーの脳裏をかける彼女の言葉。
...
..
「私は幸せものです」
「は?何が?」
夕食を終えた後、二人で装備メンテナンスをしていた時の事。
「ダイコー様に買われた事が」
「...気まぐれだ」
そう、ただの気まぐれ。
奴隷だったツミレはたまたまダイコーが買ったにすぎない。
装備の手入れをしていたツミレが、ふと顔を上げた。
「もし……いつか」
「ん?」
「私が、すごい武器を作れたら」
彼女は少しだけ恥ずかしそうに笑った。
「ダイコー様、使ってくれますか?」
「……」
ダイコーは工具を動かしたまま答える。
「性能次第」
「ふふ」
ツミレは嬉しそうに笑った。
「じゃあ、もっと勉強しないといけませんね、私は...弱いですから」
小さく呟く。
「せめて、ダイコー様のような強い人の役に立てるものを作りたいんです」
「……」
ダイコーは顔を上げない。
「勝手にしろ」
ぶっきらぼうな一言。
それでもツミレは、満足そうに頷いた。
「はい」
「絶対に作ります」
「ダイコー様のための武器を」
……
記憶が、途切れる。
迫る地面。
燃える空気。
そして――
ーーードォォォォォォォォォォォンッッッ!!!!
廃墟の街が、爆ぜた。
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