83話 ダイコー=オーディンの沈黙(2/3)
Q.主人公にも必殺技、奥義はあるの?
A.ありますよ。今章で判明しますし、なんでしたらその伏線が1章から(修正前から)ずっと散りばめられています。
帝都は騒然としていた、城壁の一角が崩れ警鐘が鳴り響く。
「避難しろ!!東区画が破られた!!」
「獣が入ってきたぞ!!」
ーーードガッ!!
瓦礫の向こうから影が飛び出した。
槍を構える暇もなく『機構星騎士』の身体は突進に弾き飛ばされ石畳へ叩きつけられる。
「ぐぁーー!?」
胸に跨った獣がそのまま喉元を食い破った。
鈍い裂ける音とともに悲鳴が上がり血が噴き出す。
それがまるで合図のように、瓦礫の隙間から次々と獣が走り出た。
死体が地面を蹴り、獲物へ一直線に突進する。
一人が刃を構えたが間に合わない、飛びかかった獣が顔面へ噛みつき別の一匹が脚に食らいついて引き倒す。
そしてまるで獲物を取り合うかのように引っ張り合い、それにより四肢が無惨に千切れ飛ぶ。
ーーーブチブチブチィィッッッ!!
「ぎぅげげげがげげッ!?」
「ひぃぃぃいい!?」
倒れた所へ群れが殺到し、肉を引き裂く音と絶叫が入り混じった。
後方にいた女性の『機構星騎士』は、その光景をただ見ていることしかできなかった。
血に濡れた石畳の上で、仲間の腕が噛みちぎられる。
まだ指が痙攣しているのを見た瞬間、脚から力が抜けた。槍が手を離れて落ち、乾いた音を立てる。
ーーーガァン!!
「ぅゔ!?」
音が鳴った、槍の音だ。
「⬛︎...!!」
その音に、一匹の獣が振り向いた。
血に濡れた口のまま、ゆっくりと女を見据える。次の瞬間には地面を蹴り、一直線にこちらへ駆け出していた。
「いや!!いやぁぁぁああああ!!!」
その時。
ーーードォオンッ!!
鳴り響く轟音、『獣』は頭部の中身を撒き散らして後方へ吹き飛んだ。
瓦礫の上に、小さな影が立っていた。背中に背負った魔導砲から、まだ白い煙が細く立ち上っている。
「あ、あの……す、すみません!」
少女は慌てた様子で手を振った。
「ご、ご無事ですか!? 五耀星No.2、ツミレです!」
そう名乗った直後、別の獣が唸り声を上げて瓦礫を蹴った。
ツミレはびくりと肩を震わせながらも、慌てて魔導砲を構え直す。
「ツ...ツミレ様!?どうしてここに...!!」
それもそのはずだ。
ツミレは本来、後方支援を目的として『五耀星』に加わった技師である。
そんな彼女が最前線にいるはずなどないのだ。
「ほ、他の部隊は...!!」
「みんな...いません...!」
「なんですって!?」
巡り合わせが悪かった、No.1のダイコーはその日も調達で不在、No.5のギュージは別所で試合中、とても間に合わない。
No.3、ハン=ペンバーは発生地点から一番遠く、No.4のキンチャクはシャクシ島へ外遊のため不在。
あまりにもタイミングが悪すぎる、彼女がこの場にいたのも『獣』の発生場所が偶然彼女とダイコーの居住地から近かっただけ。
「私...私だって、『五耀星』の一人なんです!!収拾はできなくても時間稼ぎくらいはしてみせます!!」
「!!」
「貴方達は負傷者を下がらせてください、感染には気を付けて!」
「わ...わかりました!」
そこにいたのはかつての奴隷ではない、一人の戦士が立ち塞がったのだ。
「せ、『赫雷の獣』に気を付けて...ヤツに破られたんです、城壁を...!!」
「...情報感謝します」
『機構星騎士』を見送り、自作の大砲の照準を覗き込む。
迫り来る『獣』の大群の奥、確かに赫い稲妻を纏う『獣』がいた。
全身から肉という肉が削げ落ち今にも崩れそうな腕を向けている。
「ダイコー様...力を貸してください...」
震える手を押さえ、照準を合わせる。
ーーードォォォォオオオオオンッッッ!!!
激しい反動と共に放たれた蒼光は直線上の『獣』を焼き払い、目標に向けて一直線に走る。
...
..
.
ーーードォォォォオオオオオンッッッ!!!
「むッ!!?」
偶然だった、ダイコーはいつもより一回り大きな龍を担いで地底の空を駆けていた。
その時視界に入ったのは炎上した都市、そして爆発。
自身の居住区ですら破壊され、もはやこの都市は放棄するしかなかった。
「何が起きている」
ダイコーは群衆の多い場所へ降り立つ。
自分にすら気付かないほど、人々は慌ただしく己の安全を求めて駆け回っていた。
「おい」
「なんだよ邪魔ーーダイコー様ぁ!?」
帝国最強を前にして腰を抜かす男、ダイコーは淡々と続けた。
「状況を教えろ」
「あ、ええ、えぇと!『獣』が城壁を破られて...!」
「何?」
この地底国マナタンは2階層となっており、上層は穴から落ちて侵入する他ないが下層は地上と地続きになっている。
その為、よりいっそう防衛機能に力をつけていた、だが今日それが破られた。
「色んな所から侵入されてて...この下層は放棄する他ないと界帝様が!」
ーーードォォォォオオオオオンッッッ!!!
「あひゃああ!?」
予備動作もなく爆音を鳴らし音速で飛び出したダイコー、上層、その中心に位置する塔を目指して。
「界帝の指示を仰ぐッ!!」
人の流れは規則的であり既に避難誘導を行っているのは明白だった。それ故に迅速な避難と時間稼ぎができるなら自分は自分のやるべきことをやるだけだ。
この状況、有事は『五耀星』が界帝のいる塔に集まり状況の共有と対策を実施するという取り決めがある。
幸い『獣』の侵入だけであれば『機構星騎士』で十分な時間稼ぎができると判断しての行動だ。
『適合者』や、それに近い存在。
ドリンク=バァのように、生前の力を扱える『獣』が現れるなど予想もしていなかった故の行動。
だが、ダイコーはその選択を一生後悔することになる。
...
..
.
「ーーーは?」
界帝の前には全員集まっていた、そう、そのはずだった。
何かが足りない。
ハン=ペンバー、ギュージ=カルワメ、キンチャク、見知った顔が並んでいる。
だが足りない、一人足りない。
「界帝...様...?」
界帝ミカード=グランノアーリはいない、だが足りないのは彼ではない。
いるのが当たり前だと思っていたその影が見当たらない。
ーーーッ!!
その時、ダイコーは感情に身を任せてハン=ペンバーの胸ぐらを掴み掛かった。
「あいつは!?」
「え!?」
ハンは目を見開く。
「ツミレは何処だと聞いている!!」
周りから見たダイコーはよほど様子がおかしく見えるだろう、ダイコー自身ですら今の自分がいつもの自分ではないような感覚に陥っていた。
だがダイコーは安心したかっただけだ。
毎日見る顔を今日も見る、ただそれだけの事、それだけの存在だったのに。
ーーーなぜか無性に胸騒ぎがする。
「ダイコーさん一緒ではないんですか?」
「何?」
「ツミレは貴方の居住区にいるはずです...けど」
「...」
一瞬、音が消えたような感覚に陥った。
脳裏に蘇るのは、つい先程空から見た光景。
炎上する都市。
そして――あの蒼い砲撃。
胸の奥からなにか気味の悪いものが湧いて出る。
「ダイコーさん?」
ハン=ペンバーが怪訝そうに声をかける。
だがダイコーは答えずゆっくりと、ハンの胸ぐらを掴んでいた手を離す。
「……ダイコーさん?」
思い出した。
あの光景を、あの街を、あの炎上を、
ーーーあの爆発を。
「ダイコーさ――」
次の瞬間。
ーーードォォォォオオオオオンッッッ!!!
爆音が塔を震わせた。
ダイコーの姿は、既にそこにはない。
「なっ!?」
空気だけが渦を巻いて残る、塔の窓を突き破りダイコーは音速で外へ飛び出していた。
一直線に下層へ。
脳裏に焼き付いたあの光、あの砲撃。
なぜ気付かなかったのか、あのレベルの爆発を起こせる者は数えるほどしかいない。
「ツミレ……ッ!!」
その名を呼んだ瞬間、胸の奥が締め付けられた。
なぜだ。
なぜ、あの時。
あの爆発を見た瞬間に気付かなかった。
なぜ、上へ来た。
なぜ。
なぜ。
なぜ。
地底都市の天井を掠めるほどの速度で、ダイコーは空を裂いていく。
逃げ惑う人々の上を。
炎上する街の上を。
その目はただ一点にのみ、炎上都市のさらに向こう、瓦礫の向こう、獣の群れの向こう。
そして――
蒼光が走ったあの場所を。
「間に合え」
帝国最強は初めて、ツミレを心のそこから会いたいと思った。
...
..
.
焦げた臭いが立ち込めていた。
瓦礫は黒く焼け、石畳には血が乾いてこびりついている。
炎ゆらめく戦場の中心にダイコーは降り立った。
獣の死骸が転がり、砕けた装備と千切れた腕が無造作に散らばっていた。
「……」
静まり返っている。
つい先程まで戦闘があったのは明らかだった。
だが、人の気配がない。
「ツミレ!!!」
名を呼ぶも返事はない。
「ツミレェェエエエッッッ!!!」
これが思い過ごしなら良い、ツミレはとっくに逃げていて入れ違いになっただけなら、むしろそれが良い。
であれば自分はここで戦い時間稼ぎをするだけだ、なにも問題は無い。
だがどうしてか、嫌な予感が止まらない。
その時。
ーーーガリッ
瓦礫が踏み砕かれる音。
ダイコーの視線がゆっくりと向く。
そこにいたのは、一体の『獣』だった。
炎の逆光で顔は見えないが全身は焼け爛れ、肉は裂け、骨が覗いている。
そんな『獣』がこちらを見ていた。
「……雑魚に構っている暇はないッ!!」
次の瞬間。
ーーードンッッッ!!
「⬛︎⬛︎ッッ!!」
獣は地面を蹴った、人間離れした速度で距離を詰める。
「ッ!」
腐った腕が振り上げられ、牙を剥く。
だがダイコーは一歩も動かなかった。
ーーーゴッ
鈍い衝撃音。
拳が『獣』の胸を貫いたら背中が破裂し黒い血が噴き出す。
勢いのまま、死体は地面に転がった。
「……」
ダイコーは一瞥すらしない。
ーーーッ!
ふと、違和感が胸を掠めた。
視線が落ちる。
転がった死体、その腕、焦げた布。
見覚えのある装備。
見覚えのある、武器。
見覚えのある顔。
地面に転がっている。
「……」
ダイコーの足が止まり、ゆっくりと死体へ歩み寄る。
濡れた顔を、そっと持ち上げる。
ーーー焼け焦げた髪。
ーーー小さな身体。
ーーー震えるほど見慣れた顔。
「……」
声が出なかった。
それは。
ツミレだった。
次回投稿日は3/30 7:10!!
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