101話 シオンとエウロペ
100話達成しました!!
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室内は静寂が包み込んでいた。
先ほどまで聞こえていた寝息が今はどこにもない。
「……ん……」
ミークは小さく身じろぎし、重たい瞼をゆっくりと持ち上げた。
ぼやけた視界、目を擦りあたりを見回す。
「……シオンちゃん……?」
寝ぼけた声で呼びかける。
返事はない。
違和感。
胸の奥がじわりと冷えは感覚。
「……あれ……?」
視線を横へ向ける。
――ベッドは、空だった。
「……ッ」
一瞬で意識が覚醒する。
乱れたシーツ。
落ちかけたタオル。
ついさっきまで、確かにそこにいたはずの温もりだけが残っている。
「……シオンちゃん?」
今度ははっきりと呼ぶ。
「シオンちゃんッッ!!??」
しかし、その呼びかけに応える者はいなかった。
...
..
.
ーーー足元が、おぼつかない。
「……は……ぁ……」
浅い呼吸。
焦点の定まらない視界。
それでもシオンはただただ歩く、
シオンは、壁に手をつきながら廊下を歩いていた。
ひとりで誰にも気づかれないように、そして何かに導かれるように。
「……ここ……は……」
記憶が、曖昧だ。
ぼーっとする頭を抑えて辛さを押し殺す。
ーーー行かなきゃ。
理由は分からない。
でも、その衝動だけが、はっきりと残っていた。
足がもつれる。
それでも、止まらない。
「……いかなきゃ……」
ーーーガッ
「あ!」
足元の段差につまづき、シオンは前のめりに倒れかける、しかしその時ーーー。
「あら」
シオンを何かが優しく包み込んだ。
暖かく、そして懐かしい匂い。
「段差には気を付けないとね」
「ッッ!!!」
エウロペ=バレーナが見下ろしていた、まるで我が子を愛でる母のように。
「シオンちゃん、身体はもう大丈夫なの?」
「...エウロペ、あんたに話がある」
「えぇ、えぇ、私もよ!久しぶりに親子水入らずでお話ししましょう!」
ーーー。
気がつけば。
そこは、見覚えのある部屋。
シオンにとっての運命の分岐点、赤い電灯が支配する研究室。
カーテンは閉め切られ、外の光はほとんど差し込まない。
静まり返った空間。
「懐かしいわね、ほら見て、私ここで刺されたのよ、貴方に」
そういうとトントンと地面をつま先で蹴る。
まるで刺されたことが大切な思い出かのように自慢げに話す姿に嫌悪感を覚える。
「なんで...」
「ん?」
「なんでそんなヘラヘラしてるの」
「.......」
エウロペは俯き、そして顔をあげて応える。
「ヘラヘラ...というわけじゃないの、むしろ嬉しいのよ?」
「?」
「子供たちが自分の意志、自分の考えをもって行動できるようになった、子供の成長.....それってとっても素敵な事だと思わない?」
そういうとエウロペは笑う。
「そんなことに比べれば肉体の痛みなんて大したことはないの」
「...」
「...そうね、貴方が話したいことはそれじゃなかったわね、ちょっと待っててね」
そういうとエウロペは茶を汲み始める、その背中にシオンは言葉をかける。
「……私が残る」
「……?」
茶器を手にしたまま、エウロペの動きが止まる。
「私がここに残ればいいんでしょ」
「……」
「私のせいで、あの子達はここに縛られてる……だったら、私がいればいい」
言葉は途切れ途切れだった。
けれど、その芯だけははっきりしている。
「……私を使えばいい」
確かに、覚悟のこもった声音で言い放つ。
シオンは心の中でつぶやいた。
(アイザック、ごめん)
だが、今回のアイザックの依頼を達成すれば自分の力がなくてもシャクシ島へ渡ることができる。
自分は必要ないのだ、であれば自分は自分のするべきこと、責任を果たす、そうシオンは決意した。
「そうすれば、あの子達は……外に出られるんでしょ」
「……ふふ」
小さく、笑い声が漏れる。
「ふふ……ふふふ……!」
肩を震わせるようにして、エウロペは笑い出した。
「素晴らしいわ……本当に!!...これが親孝行なのね!...与えたことはあっても、もらったことなんてないから...嬉しい!とても嬉しいわ……!」
振り返るその目は、明らかに歓喜に染まっていた。
涙さえも流しかねないほどに感動したエウロペがそこにいた。
「人を思いやれる、貴方は私の誇りよ、シオンちゃん……!
ーーーでも、その必要はもうないのよ」
「……え?」
エウロペが出した答えは「拒否」だった。
「貴方がそうしてくれる覚悟は、とっても素敵よ、お母さんはとても誇らしいわ」
「……」
「でもね、ちょっと遅かったわね」
「……なに、言って……」
シオンは震えた声を出す。
エウロペは、まるで当たり前のことを説明するように続けた。
「確かに、これまでは貴方が必要だった」
「……」
「『プロジェクト:シルヴィア』、貴方の身体が、貴方の存在が、この研究の核だったの」
一歩、優しく近づく。
「でもね、貴方が成長するように、時代も比例して移り変わる」
「……ッ?」
「『魔王刻印』」
「!!」
ぞわり、と背筋が凍る。
「これまで諦めていた実験も」
「……」
「全部叶えられるたった一つの“鍵”を見つけたの、それが『魔王刻印』」
「……やめて」
シオンの声が震える。
震えるシオンをエウロペは優しく、包み込むように抱き寄せた。
「……無限の魔力があれば構想していた全ての理論が実現可能になる、全ての子供達を救える、もう貴方が無理をする必要もないのよ」
「……」
「今まで無理をさせてしまってごめんね、きっと1人で辛かったわよね、でももうそんな必要はないの」
「いや...お願い」
「もう貴方が苦しまなくてもいいの、貴方が傷つかなくても、みんな治るのよ、『魔王刻印』があれば」
「違う...やめてッ!!」
その言葉の意味をシオンは理解してしまう。
「アイザックには手を出さないで...!!彼は...彼は家に帰りたいだけなの!!」
「?」
エウロペは言葉の意味を探すように首を傾げた。
そんなエウロペの袖を掴んでシオンは激しく懇願する。
「アイザックは...お願い...やめて...!!...お願い...お母様!!」
「あら...あらあらあらあらあら!!!」
「もう2度と反抗しないから!!2度と悪態はつきませんから!!2度と逃げたりしないから!!だから....!!」
「いいのよ」
エウロペはシオンの頭を撫でた、膝を落として、まるで赤子を扱うように、暖かい目でシオンを見ている。
シオンを落ち着かせるために。
「大丈夫よ...大丈夫」
「お母様...?」
そしてもう一度、シオンを抱き寄せた。
「いいこ、いいこ、貴方はとっても可愛いのね」
「お母様...」
「私は「母」です、悪逆も、反抗も、貴方の全てを赦します」
「...」
暖かい。
寝てしまいそうになるくらいの暖かさ、眠気が襲う。
「...」
「...」
その時、偶然、シオンの目にあるものがとまった。
「ーーーー...........え?」
それは紙の散乱した机の上、なにかを干すように吊り下げられている。
絵だろうか、シンボルだろうか、だがそれはシオンにとっては見覚えのあるものだった。
シオンの耳元でエウロペはつぶやいた。
「大丈夫....ーーー彼は大事に使うから」
「い..........いや.......」
脳が拒絶している、その光景を。
目が拒絶している、目の前のモノを。
口が拒絶している、意味がないのに。
「いや......!!いや........!!」
そこに吊り下げられているのは.....人の皮。
ーーーアイザックの背中だった。
「いやぁああああぁぁぁぁぁああああああああああああああーーーーーーーーーーーッッッッ!!!」
発狂するシオンの耳元で再びつぶやいた。
「さぁーーー、母の元へいらっしゃいーーー」
彼女はエウロペ、エウロペ=バレーナ。
ーーー「母」を騙る悪魔。
.....
...
..
ーーーその頃。
マナタン帝国。
地下帝国に続く大穴。
それを守るように聳える壁、『機構星騎士』は変わらぬ日常を過ごしながら、見張りをしている。
「ん?おい」
「ん?」
バシバシと叩く同僚。
「なに?」
「おい、アレ」
「んだよーーーん?」
指を刺したその先に一つの影、荒野の陽炎に紛れて全貌はわからない。
「ーーーえッ!?」
だが、うっすら見える輪郭、それを見た者たちは目を見開き立ち尽くす。
その馬体を知らぬ者はいない。
「界帝様に伝えろ!!」
「おいおいおい嘘だろ!?」
「確かにいるかもしれないって賢王様は言ってたけどさぁ!!」
「言ってる場合か緊急事態だ!!」
「『魔王』だ!!ーーー『魔王』が近付いて来ているぞぉぉおおおおおお!!!」
帝国は、過去最大の脅威に晒されようとしていた。
次回投稿は5/5 7:10!!
次回、地獄は続きます
お楽しみに!
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