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【100話達成ッ!】勇者は感染してました、魔法使えないけど魔王の遺した無限の魔力で抗います ーThe Beasted eMpireー  作者: 鶴見ヶ原 御禿丸
2-4章 龍界地底砲塔マナタン:リトルポイント編

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99話 『老公』アーシア

Q.エウロペは『令嬢』、オルゼは『追放系』カルヴァドスは『背信者(配信系)』、『老公』はなに?


A.おっさん系です


挿絵(By みてみん)


 規則正しい呼吸だけが静かな部屋に響いていた。

 ベッドの上で眠るシオンは、まるで人形のように安らかで、さっきまでの、あの取り乱しようが嘘みたいだった。


「……」


 アイザックは壁にもたれ、腕を組んだまま天井を見つめていた。

 薄いカーテンの向こう、灯りは落とされている、ここはさっきの客室とは違う、完全に切り離された個室。


 エウロペが用意した部屋。


「……チッ」


 舌打ちがやけに大きく響いたような感覚。

 エウロペは信用なんてできるはずがない、なのに気付けばそのままここまで運ばされていた。




 ――少し前。




「大丈夫よ、その子は少しショックを受けただけ」


 エウロペは、何でもないことのようにそう言った。


「ふざけんな」


 アイザックは吐き捨てるように言う。

 だがエウロペは、相変わらず穏やかな顔のままだった。


「シオンちゃんもまだ20もいかない子供、精神が耐えられなかったようね」


「黙れ」


 アイザックはエウロペを睨みつける。

 だがそれでもエウロペは動かない、まるで動物の視線に手を振ってかえすような感覚。


「個室を用意してあるわ、ゆっくり休ませてあげて」


「……」


「ミークちゃんも一緒にいてあげてね、あの子、一人にすると余計に不安定になると思うから」


「……」


「アイザック君、いまはシオンちゃんを休ませましょう」


「あぁ、わかってる」


「そこを通って左よ〜」


 全部、分かってる口ぶりだった。

 シオンの状態や自分たちの動きも。


 それが気に食わない。

 だが――。


「……行くぞ」


 結局アイザック達はエウロペに従うしか無かった。



 


 ――現在。





「......本当に」


「?」


 シオンの額のタオルを取り替えるミークが呟く。


「本当にエウロペはシロなのでしょうか...?」


「...」


 エウロペは不治の病を治すため、その抗体を抽出するために、全ての病に対する抗体を持つシオンを作った。

 それでもしかしたら数多の子供達が救われていたかもしれない、それは否定しようがない。


 だがーーー。


「やってる事はいい事なのかもしれないーーーけど...あいつ自身の精神性は絶対に善人とは言えない」


「そう...ですよね」


 数多の英雄の細胞を使って作った人造人間、それがシオン...否、シルヴィア=バレーナ。

 だが、エウロペは人工生命体という倫理を超えた実験をしていた事も事実、それでシオンが生まれたのだから。


 それにもう一つ、矛盾がある。


「シオンが言っていた...ドロドロに溶けた幼馴染を見たって」


「『溶解症』...さっき私も本を見ました」


「あぁ、骨や肉を溶かしたっていう」


 それならその病にかかった子供達はなぜ何事もないように走っているのか。


「バケツに入るくらいに進行したならもう末期です、成長を遅くして進行を遅らせるのなら、いま万全の状態に戻ってる理由の説明がつかない...」


「つまり、あいつはまだなにか隠してるって事だ」


「ですね...」


 流れる静寂、苦しむシオンの吐息だけが部屋に響く。


「この状況、昔と似てますよね」


「昔?ーーーあ」


 そうだ、アイザックが初めてシオンを見た時と同じ。

 シオンが感染し、ベッドの上で苦しんでいた時の事を思い出す。


「あの時はセルシもいたっけな」


「アイザック君、シオンちゃんに文字通り振り回されてましたもんね〜」


「も、もういいだろそれは!!」


 ミークはシオンの熱を確認し、またタオルを取り替える。


「...あぁもう、くそ、どうしたらいいんだ」


 今回は状況が違う、病気ではなく精神の問題だ。

 アイザックは頭を掻きむしり必死に思考を巡らせる。


「アイザック君」


「ん?」


「アイザック君らしくないですよ〜、変に頭を抱えて悩むなんて」


「いや、俺結構頭抱える事多いぞ?」


「うーん、そうですかね」


「そうだよ」


「ここは手分けしましょう、そもそも本来の目的はなんでしたか?」


 本来の目的、それはエウロペが『獣』であるかどうかの調査。


「正直、シオンちゃんをここには長居させてはいけません、なのでさっさと調べて、さっさとお暇しましょう」


「...そうだな、たしかに...その通りだ」


 アイザックは吹っ切れたようにゆっくりと立ち上がる。


「さっさと終わらせて――連れて帰る」


「...気をつけて」


「あぁ...」



 ...


 ..


 .


 『リトルポイント孤児院』

 アイザックの通っていた高校よりも規模が大きい、建物が円を作るように並び立っており、一つ一つを調べるのは骨が折れそうだ。


「待て待てー!!」

「あははは!」


 中庭で子供達が遊んでいるのが見える。


「微笑ましいな」


 ふと思った。

 エウロペがもし『獣』だったとしたら、この孤児院はどうなるのだろう。

 ここの子供達は?不治の病は誰が治す?


「...いや、やめておこう」


 考えるだけ無駄だ、アイザックは向き直り通路を進む。

 その時だったーーー。





「ーーー」





「...」






 何かが音もなくすれ違った。


「...え?」


 一瞬気付くのが遅れてしまった。

 振り返るとそこにいたのは自分より背丈の低い背中、否、老人のように前屈みでそれは歩いていた。


「.....なぁ、あんた?」


「....おや、お客人かね」


「ッ!?」


 フードを被った老人、否、老人が着るには似合わない物々しい武装。

 それを例えるならまさしく「老兵」。

 

 しかし、アイザックが驚いたのはそこではない、その「()」。


「ここは広い......館内図が各棟においてあるので使いなさい」


「あ...アンタ...!?」


 忘れるはずもない。

 アイザックが初めてこの世界に来た時、命を助けた老人。


「.............おや.......」



挿絵(By みてみん)



 ーーー『老公』アーシア




「君は.....そうか、あの時の....」


 アーシアも気付いたのか、顎に指を当て考え込む。


「あ...えっと...アンタって...えっと!!」


 聞きたい事があまりにも多すぎて頭の整理がつかない。

 焦りまくりのアイザックをみたアーシアはただ一言つぶやいた。


「すまないが...君と話すことはない」


「え!!」


 あまりにもあっさりとした拒絶。

 アイザックは思わず一歩踏み出した。


「ちょ、待てよ!アンタ前に言ったよな、“強くなれ”って!」


「……」


 アーシアは振り返らない。


「俺はもうあの時とは違う!ドリンク=バァやオルゼともやり合って――」


「違うな」


 短く、切り捨てるような一言。


「……は?」


 足が止まる。

 アーシアはゆっくりと顔だけをこちらへ向けた。

 フードの下の兜から覗かせる鋭い目は、まるで極寒地獄にいるかのように冷たい。


「君は何も変わっていない」


「……ッ」


「確かに力は得た、だがそれは“君の力”ではない」


 視線がアイザックの胸元へと落ちる。


「その身に刻まれたもの、『魔王刻印』に頼りきっているだけだ」


「……何言って――」


「君はその武器を使って調子こいている子供に過ぎない、制御しているつもりでも、実際は依存している」


「違う……俺は――」


「違わない」


 即答だった、言葉が出ずアイザックは後ずさる。

 アーシアは一歩、詰め寄るように踏み抜いた。


「自分の力で戦えない者を、私は強者と認めない」


「……」


 その言葉は、どこかで聞いたものと重なった。

 ーーー『それがないと何もできない、正真正銘のゴミだ』

 脳裏に浮かぶのは、あの男の顔。


 オルゼ=スティングレイ。


 同じことを言われた。

 同じように、何も言い返せなかった。


「……ッ」


 歯を食いしばる。

 反論したいのに、言葉が出てこない。

 図星、なにも言い返せない。


「……」


 流れる沈黙。

 アーシアはそれ以上何も言わなかった。

 ただ一瞥だけを残し――


「ではな」


 その一言と共に、風のように消えた。


「……ッ」


 拳を強く握る。


 言い返せなかった、

 否定できなかった、

 全部が、不純物のように不愉快に、胸の奥に沈殿する。


「確かに...俺はこれがないと戦えない...でも、どうすればいいんだ」


 アイザックは自身の背中をさすってつぶやいた。

 これを無くしたらどうなるだろうか、『星穿』はおろか、『魔光斬』も『魔轟衝』も使えない。

 ミークに魔力を分け与える事もできければ、物理戦闘すらままならない。


「........」


 ーーーコッコッコッ


 廊下で1人落ち込むアイザック、そのとき一つの影が、心地の良い足音と共に現れる。


 それはエウロペだった。


「あら?アイザック君、シオンちゃんは休ませられた?」


「お陰様でな...」

 

「でも今度はアイザック君の顔色がよくないわねぇ、一体どうしたのかしら」


「なんでもない」


 アイザックは踵を返し立ち去ろうとする、しかしエウロペはそれを呼び止めた。


「悩みごと?お茶でも入れようかしら」


「いやいい」


 エウロペを無視して再び歩みを進めるが、その袖を掴まれた。


「何」


「お母さんは相談された事、誰にも言いふらしたりしないわよ?それにーーー」


「それに?」


 アイザックが低く返す。

 エウロペは応えるようにほんの少しだけ、温かい眼差しを向ける。


「弱っている子を放っておくのは、『お母さん』のやることじゃないもの」


「……」


 その言葉に、胸の奥がわずかに揺れる。


「そう...見えるのか?」


「えぇ」


「...」


 アイザックは視線を逸らしたまま動かない、

 少しだけ間が空く、2人の空間が冷たく、しずかに場を支配する。


「……どうすりゃいいのか、わかんねぇんだよ、色々とな」


「そう」


 エウロペは、やわらかく笑った。


「あらあら、色々あるのね」


「……」


「一つずつ、私に言ってみない?」


「...」


「もちろん嫌ならいいのよ、私も貴方たちからどう思われてるのかは検討はつくし、無理にとは言わない...でもね」


「?」


「誰かに打ち明けたい、悩みを聞いて欲しい、誰でもいい、そんな顔してるわよ」


 見透かされた、という感覚が遅れて追いつく。

 この女は全てを見ているように、そして包み込むように、アイザックの心の奥底を見抜いていた。


「……なぁ」


「なあに?」


 言いかけて、止まる。


 ーーー()()()()()


 頭のどこかが、そう言っている。

 でも。


「……誰にも言わねぇんだろ」


「えぇ、約束するわ」


「……」


 ほんの少しだけ、間が空く。

 そして。


「……ちょっとくらいなら、話してもいいか」


 エウロペは、やわらかく微笑んだ。

 それがいったい何を意味しているのか。


 アイザックには、もう分からなかった。


次回投稿は5/1 7:10!!


お楽しみに!


皆様たくさん読んでいただいてありがとうございます〜!!


高評価、ブックマークを押していただければ作者のモチベーションに繋がります!!

よろしくお願いします!!

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