悔い
アメリアとセシルをベッドに横たえさせ、ジルは部屋の扉近くの壁に寄りかかっている。二人共目立った怪我はなかったが、セシルの方は抵抗があったのか、首に痣が出来ていた。
しばらく待っていると、セシルの方が目を覚ます。急にハッと起き、すぐにアメリアの姿を探す。
「落ち着け、無事だ」
ジルがアメリアを顎で差す。セシルはアメリアの脈を確認し、彼女の眠るベッドに縋った。
「あぁ……良かった……」
温かいアメリアの手をギュッと握り、その生を確かめる。ジルはそっと目を窓の方に向け、独り言のように言った。
「奴は逃がしてしまった。確かに、他の奴等とは違う。お前がアメリアを護れなかったことを恥じる必要はない。ただ悔いればいい。……俺もそうする」
セシルからは返事がない。ただ、その赤くなった目と、深い皺の刻まれた眉間が物語っている。
「奴が、王を殺した男で間違いないな?」
「……はい。剣筋が、同じでした」
「アメリアは生け捕りにしても、護衛が殺されなかったのはラッキーだな」
「殺す価値も無いと思われたのです。事実、私は弱いですから……」
アメリアの煤がついた顔を拭きながら、セシルは言う。
「……筋は悪くない。鍛え続けろ」
ジルはそれだけ言うと部屋を出ていった。また何かあれば物音で分かる。セシルの目が覚めたのなら、アメリアの面倒は見られるはずだと。
あれだけ周囲を警戒していたにも関わらず、ことが起こるまで何一つ気づけなかったことに、ジルは苛立っていた。そして、彼こそ王を殺した男だと確信が得られたことにも。
固く拳を握りしめ、後になって襲う悔しさを受け止める。
「……次は、必ず殺す」
隣の部屋で、剣の整備を始めた。
アメリアは薬でも使われたのか、翌朝まで目が覚めることはなかった。セシルの呼ばれて部屋を訪れると、彼女はキョトンとベッドの淵に座っている。
「昨晩のこと、何も覚えていないそうで……」
「おめでたいやつだな」
「本当に、何も分からないの……気付いた、眠っていて……。ジル、顔怪我してる……! それに、酷い隈が出来てるわ……!」
「それは指摘するな」
セシルの目の下にも、同じようにクマが見える。
「せっかくの宿だったのにな」
彼女を労うようにその肩を叩いた。
目が覚めたならすぐに発つぞと、ジルは部屋を引き払い、既に馬の支度をしている。アメリアとセシルも、日々支度が早くなっていた。
「ここから先は山道だ。上は酸素も薄い。メドリードまでの辛抱だが、無理はするなよ」
アメリアが大きく頷く。宿屋の裏には反り立つような山々が、ジルたちを迎えていた。




