山への備え
今から動くのも、それはそれで骨が折れると、ジルは死体を片付けた。仮眠だけ座ったまま取り、一晩中外に意識を向け続けた。
早朝、ジルはまだ二人が眠っている間に死体を確認する。やはり、メドリードの紋章も、ガブリエルのものもない。セシルが見せたあれは、証拠として握らせられた物だろう。出てきたのは睡眠薬やら拘束具やら、アメリアを捕らえるための道具ばかりだった。
キャンプへ戻ると、アメリアがジルの家でセシルが負った傷の包帯を替えていた。露わになった傷は、毒の影響は受けていなさそうに見えた。
「お姫様に手当てしてもらうなんて、側近失格だな」
セシルが目を逸らし、「やはり……」と小さくアメリアへ言うと、アメリアの方がムッとした表情でジルを睨む。
「私がやると言ったのです! 変なこと言わないで。セシルは女の子なんです……!」
「なんだ、俺はてめぇの傷くらいてめぇで治療しろって言っただけだ」
「腕なんて一人で包帯巻きにくいです。セシルは昨日はちゃんと自分でやってました」
セシルは頬を赤らめて俯くまま、アメリアに腕を預けていた。ジルはその様子に鼻を鳴らす。
「さ、準備ができたらすぐに行くぞ。メドリードは遠いんだ」
すぐに支度を終えたジルの側で、二人も急いで荷物をまとめる。
馬に跨り、西へと走らせていく。雪は少しずつ解けており、昨日よりも馬の足取りも軽い。
そして、遂に山の麓まで辿り着いた。そこには小さな村があり、山越えの準備を整えることができた。
「パンと、干し肉と……、毛布ももう少し欲しいですよね」
「欲しいか? 毛布。荷物になるだけだろ」
「山の上、ここよりずっと冷えるんですよ! 備えておいて憂いはありません……!」
「まぁ、好きにしろ」
二人に買い出しを任せ、ジルは一人で酒場に行き、酒を飲んでいた。たまに買い出しに走り回る二人が窓を横切っていく。
しばらく待っていると、二人が酒場へと入ってきた。若い女性の組み合わせということもあり、すぐに酔った男に声を掛けられていた。しかし、ジルの姿が見えると何事もなかったかのように去っていく。
「それで、終わったのか?」
「はい、1カ月程の食料は準備しました。とは言っても、日持ちするもののみですので、山で採れるものがあれば、その場で調達も視野に入っています」
セシルが麻袋の中に硬いパンや干し肉が入っている。ほかの荷物も大量にアメリアが抱えていた。
「それでいい、じゃあ行くか」
「待って! これから山脈越えるなら、せめて今晩は宿屋に泊まらない……!?」
アメリアがすぐに出ようとするジルのコートをつまむ。
「……1カ月だからな、いいだろう」
ジルの許可にアメリアは飛び跳ねながらガッツポーズをしてみせた。本当に姫かと、ジルとセシルはわずかに首を傾げている。




