黒衣の男
すっかり夜も更け、アメリアとセシルが寝息を立て始めた頃、ジルは一人まだ起きていた。
アメリアへの見せしめのために殺された友を想い、空を見上げる。冬の澄んだ空気で、星空は淀みなく輝いている。
「先に逃げたのは俺への当てつけか? 悪かったよ」
光る星に語りかける。かつてよ悪友との旅路を思い出していた。
「あいつが死んだ時も、怯えてただけだ……」
目を背けるように、視線をマグカップに落とした。茶は残り少ない。欲を言えば酒が欲しかったと、ジルは息を吐く。
「逃げた分は、ちゃんと返すさ」
ジルはマグカップを置き、自分の剣を片手に立ち上がる。周囲に敵の存在を察知していた。二人を起こさぬように、敵の位置を確認する。
狙いがアメリアなら、殺害ではなく拉致を目的にするはずだと、感覚を研ぎ澄ませる。数人、近くの茂みからこちらの様子を伺っていそうだ。
異変に気づいたセシルが目覚め、起き上がろうとするがジルはそれを止める。そして、アメリアを護れとだけ伝えて姿を消した。
茂みに隠れていた黒衣の者たちはジルのいなくなった隙を見て、今こそチャンスだというように身を乗り出している。しかし、気づいた時には既に彼らの背後に回っていたジルが、最初の一人を斬り伏せていた。
ジルは彼ら以外は現時点では察知していない。この者たちを倒せばこの場は収まる想定だった。不意打ちを食らった彼らは、ジルの刃の前になす術なく倒れていく。黒衣の袖に隠した暗器を飛ばしても、ジルには軽々と受け流され、さらに反撃に使われてしまっていた。
その場を平定したジルがキャンプへ戻ると、アメリアも目を覚ましていた。怯えていると思ったが、そういう訳ではないらしい。
「お怪我はございませんか……?」
「あの程度の奴らにやられるか。この前と同じだ、大した奴らじゃない。」
「それなら良かったのですが……」
ジルは一つふと疑問に思い、腕を組む。そして、アメリアに問うた。
「親父も、同じ黒服の奴らにやられたのか? 本当に……。あいつだって、結構な腕があるだろ」
「はい。ですが、彼らの中に一人、剣技に優れた者がおります。皆姿形が似ておりますので、具体的な特徴を掴むことはできませんでしたが……。ただ、父を殺したのはその男です」
「そうか……、その上不意打ちか……。そのやけに強い男みたいなやつは、今の所感じない。このまま奴らが来るのなら、何人で何回掛かってこようとも問題ない」
「心強いです、ありがとうございます」
そう言って深々とアメリアはジルに頭を下げてみせた。そんなことをする必要はないから早く寝ろと、ジルは突き放した。




