旅のわけ
西に向かって、途中休憩を挟みながら馬を走らせる。二日もすれば山脈の入り口には辿り着ける想定だった。
日も傾き、空が橙に染まった頃、ジルはここまでにしようと目立たないところで野営の支度をする。
村の中で襲われることは無く、今のところ気配も感じていない。ジルは追っ手の目的を考えていた。殺害が目的なら場所を選ぶ必要はない。人目につきたくない理由があるとするならば、後処理をすれば良いだけだと。
「セシル、国王の殺され方について、聞いてもいいか……?」
「私が話します」
気を遣ったことがバレたのか、アメリアがセシルとジルの間に入り込んでくる。
「現実から、目を背けてはいけません。私はこれから、この国の王になるのです。父の死程度で、意志は揺らいだりしません」
「じゃあ、聞かせてもらおうか」
雪に敷いた藁の上に腰掛け、アメリア達に毛布を渡しながら言った。アメリアは受け取った毛布を肩に掛けながら、ゆっくりと話始める。
「……あの晩は、メドリードとの和平の安寧のため、フィルバートとの婚約についてお父様の部屋にいました。話も終わり、席を立とうとした時、窓からいくつもの黒い影が現れて……護衛の兵も間に合わず、父の胸を一突き……。兵は追いかけましたが……、逃げられてしまった刺客の行方は、まだ分かっていません……」
「同じ場所にいたのに、殺されたのは親父だけか?」
「はい。恐ろしい目で睨まれはしましたが、その刃が私に向けられることはありませんでした」
そこまで話し、セシルが無理するなとアメリアに茶を差し出す。その間にジルは思案した。せっかく侵入したのなら姫の方もやってしまえば手っ取り早いはずだと。
「そうしなかったのには理由がある、か……。メドリードと、ガブリエルの紋章……、絶妙に繋がらないな……」
「メドリードの王子たちが、王位争いをしていると話したことは、覚えておられますか?」
ジルの独り言に、セシルが答えた。
「あぁ、そんなこと言ってたな」
「メドリードの女王が出した、次期国王の条件は、愛する妻を迎えること。フィルバートも、弟のガブリエルもまだ未婚でしたから」
「それが、どう関係す……待て、そういうことか……?」
「はい。だからこそ、宣戦布告になりかねない、という状況なのです」
ジルは盛大なため息をつく。そしてアメリアを見て、大袈裟に項垂れた。
「あんたも、大変だな。俺はフィルバートの方しか知らないが、ガブリエルってのは相当嫉妬深いらしい」
「嫉妬で戦争を起こされては困るのです。何としてでも、ガブリエルを王位に就けてはないないのです。今ならまだ、和平を続けられます」
「……そんな甘いもんでもないと思うけどな、真相は分からねぇよ」
ジルはセシルが入れてくれた茶に口を付ける。大きく深呼吸をした後に言葉を続けた。
「要件は分かった。でもこれが単純な兄弟喧嘩とも思えない。ちゃんと、見極めることだな」
アメリアとセシルは真剣な眼差しで頷いている。ジルはもう一口、カップを傾けた。




