関係構築
宿屋で心細そうに白い手を見つめてアメリアは待っていた。ジルの帰還を見て、花が咲いたような笑顔で出迎える。
「心を決めてくださったんですね……!」
「重いな。そんなんじゃねぇ。行くぞ」
アメリアは身軽に立ち上がり、綺麗に纏めておいた荷物を取って彼の背を追っていく。
メドリードまでは徒歩で行けば半月は掛かる距離だった。馬車を乗り継ぐにしても、人目に憚れたくはない。
「馬くらい乗れるよな?」
ジルの問いかけに、アメリアはスッと目線を逸らす。事情を知るセシルがジルに答えた。
「私の背になら……」
「ダメだ、それじゃ遅すぎる。ここで克服しろ」
宿屋で馬を借り、アメリアはセシルの手を借りながら何とか白い毛並みの馬に跨った。
「馬は頭がいい。走って欲しければ軽く蹴ってやる、右に曲がって欲しければ右に引く、止まってほしけりゃ両手の手綱を引けばいい。簡単だろ」
アメリアは言われた通り、馬の腹を軽く蹴って合図をする。しかし、馬はアメリアの方をチラッと見て鼻を鳴らすだけだった。
「馬に舐められてる……」
「アメリア様が馬に怯えているからです。自分より下等な生物だと認識されてるんですよ? そりゃ言うことも聞きません」
ジルは腹を抱えて「違いない」と笑う。その様子にアメリアはムッと頬を膨らませ、一度馬を降り、その大きな背を撫でた。
「お願い、あなたの名前は……」
首元を見ると『スノウ』と書いてある。
「今日にピッタリね。スノウ、さっきはごめんなさい。私、フィルバートの所へ行かなくてはならないの。ガブリエルが、彼を手に掛けてしまう前に」
「逢瀬じゃなくて、そんな話になってたのか?」
「あなたが、聞く耳を持たないから……!」
アメリアの馬は、やがて彼女に乗れと言うように首を下げる。背を屈めてくれたおかげで、今度は一人で跨ることができた。
「見た!? 私にだって出来たわよ!」
「お見事、じゃあ遅れるなよ」
ジルは雪道をものともせず馬を進める。これでだいぶ道中はマシになったと後ろを振り返ると、次の問題がありそうだと頭を抱えた。
しばらく馬の訓練に費やすことになった。いつ追っ手が掛かってもおかしくないのに、この若造はと、ジルの眉間の皺は深くなる。
「無理やり馬に言うことを聞かせるな、馬も信頼しろ! だぁ〜違う……! 嫌がってるだろ、そういう時は流してやるんだ、そう! ほら上手くいった」
馬が自走したことを見届け、ジルは先導するために二人を抜く。振り返っても着いてきていると確認できた。
アメリアはまるで初めてのように、馬上で風を切る感覚を楽しんでいる。
「わぁ……! スノウ、まるで全然違うよ……! ありがとう!!」
馬の背を撫でながらジルを追いかける。少し先を走るジルはため息をついていた。
「俺への礼は無しか」
「浮かれているようでして……。破天荒な姫で、申し訳ございません……」
セシルもその顔には苦労の表情が見えた。




