吹雪の脱出
地下道は下り坂で、山の上にあるジルの家から下山するように進んで行く。ジルは会話を挟まず、ただ二人が着いてきていることをたまに確認しながら、歩いていった。
「何も、聞かないんですか?」
アメリアは不安そうに聞く。ジルは数歩歩いた後、ゆっくりと足を止めた。
「お前も……親父が殺されたんだ。まだ、辛いだろ。それなのにいざこざに巻き込まれて、いや、結婚が急げてラッキーか?」
「そんなことありません……! ただ、お父様が亡くなったことは、まだ公表していません。刺客は、恐らくメドリードから……」
「証拠は、無いのか?」
「ありません。でも、犯人は分かっています。フィルバートの弟、ガブリエルです。彼が刺客を放ったに違いありません……!」
それで証拠はないのかとジルが振り返ると、セシルが彼にバッジを渡す。
「これは、捕らえた者が持っていたものです。メドリード王国の紋章と、ガブリエルの印です。ガブリエルの印は秘匿ですが、かつてフィルバート様より、ご教示いただいておりますので、間違いないかと」
「刺客がそんなもん持ってるかってんだ。誰から言われて殺しに来ましたって、わざわざ宣言するか?」
「でもこれが、宣戦布告だとしたら?」
ジルは視線だけ背後の二人に送る。セシルは続けて説明しようとした時、地下道は行き止まりに到着した。
「上だ、登れるか?」
壁を登り、天井にあるハンドルを握る。上へと押しやると、人が一人通れるほどの幅の出口が現れた。出ると、そこは小屋になっている。周囲の確認をして、2人を呼びつけた。
小屋の外は相変わらず大雪だった。しかし、この地下道も直に見つかってしまう。
「もう少し行けるか? せめて村までは到着したいところだ」
「覚悟は出来ています」
アメリアが黄金色の丸い瞳で答える。ジルはその眼を見てふっと笑う。胸の奥がじんわりと熱くなった。
小屋を出てから山からはすぐに降りることができ、村まではあと一刻というところだった。
雪で足が取られ、一歩を踏み出すのも苦難な道のりだが、二人は懸命に着いてきている。アメリアの方は文句の一つでも出てくるかと思ったが、それどころではなく必死のようだった。
「ほら、もうすぐだ」
視線の先に、真っ白な雪の中でもオレンジ色の炎の灯りが見える。もうすぐ村に着くというところで、アメリアは雪に膝を着く。冷たい空気が肺を刺激し、呼吸も痛む状態だった。
「アメリア様、お手を失礼します」
そんな状態に、セシルはすぐにアメリアの腕を取る。そして、彼女を背に担いだ。
「ごめん……、セシル……」
「我々は訓練を受けています。この程度はなんの問題もありません。さ、行きましょう」
「……、やるじゃねぇか」
ジルは背中に担いだ巨大な剣を担ぎ直す。セシルもまた、アメリアを背負い、村まで歩いていった。




