昔のこと
「せめてあんたも、少しは休んだらどうだい? この先も、あの子らを護るために働き続けるんだろ?」
ジルは馬に野菜を与えながら、視線だけエルダーに向けてそれ以上は何も答えなかった。
馬小屋には藁が山のように積まれており、馬も身体の震えが収まって寒さを凌げていた。
「もう一つ毛布を見つけたから、早く家に戻っておいで」
そう言い残し、エルダーは小屋へと戻っていく。ジルは馬の背を何度か撫でてから戻った。
「セシルの方が起きたら、私も少し休むさ。いつまた追っ手が現れるか分からないからな」
「気が休まらないね」
「巻き込んでしまったらすまない……」
「私は王宮にいたんだ。国家のいざこざなんて、日常茶飯時ですよ」
エルダーはそう言って温かい茶を出した。数時間が経ち、セシルは目を覚ました。「じゃああとは頼む」と、ジルは瞼を閉じた瞬間に寝息を漏らしていた。
「流石、プロフェッショナルですね」
「この人は、昔国王陛下と、危ない橋をいくつも渡って来ているからね。メドリードの王様も、一緒に悪さばっかりしていたんだから」
「陛下が……?」
「あんた、何も聞いてないのかい?」
エルダーはセシルの座るテーブルの反対に座り、ティーカップを傾ける。まだすぐ横でアメリアはスヤスヤと眠っており、まだ起きる気配はない。
「この国、へレイアとメドリードの王は盟友として、両国の発展に尽力したね。盟友となる出来事には、この男も関わっているのさ」
セシルは目を見開いた。国王から指名される男だから、只者ではないとは思っていたものの、歴史に刻まれる出来事に関与していたとは思いもしなかった。
「そして、王子と王妃の婚約により、両国の結束はより強いものになる……だから、急いでいるんだろう」
エルダーには何も伝えていなかった。しかし、彼女は状況をよく理解している。その様子を怪訝そうに、セシルは尋ねた。
「あなたは……、どこまでご存じなのですか……?」
「何も知りはしないよ。ただ、年を取るとね、分かるものさ。まぁ、この人達の若い頃を知っているから、分かるのかもしれないけどね」
寝息を立てるジルへ視線を送りながら、エルダーは微笑んだ。何も知らないというのが真実かは分からなかったが、その表情に嘘は見えなかった。
「盟友国となった出来事に、この男はどう関わっていたのですか?」
「それは自分で聞かないと。私が話ちゃ面白くはないよ」
「この人、自分のこと何も話してはくれません……」
「恥ずかしがりやだから、いつか話すのを待ってやっておくれ」
セシルは眉をしかめて口を噤んだ。




