山頂の小屋
頂上に近づくごとに気温は下がり、空気も薄くなる。胸や喉は焼けるように冷たい。呼吸すら凶器になって襲ってきていた。口元を布で覆い、少しでも緩和する。吹雪は収まったが、それでも積もった雪は多く馬には乗れず、手綱を引いて歩かせた。
「もう少しで頂上だ」
ジルの言葉に、二人は気力を取り戻す。動かなくなりつつある身体をなんとか前へと進めていると、遂に小屋が見えた。
「アメリア様……! あれを……!」
セシルがはじめに気がつき、その場所を指差す。アメリアの顔も、表情が晴れた。
「気軽に安心するな。一度確かめてくる」
二人をその場に残し、ジルは一人でその小屋へと向かった。
小屋の戸を叩くと、中からは初老の女性が出迎えた。ジルの身なりを足元から顔まで順に見渡す。
「吹雪に巻き込まれてしまったんだ。屋根を借りられないだろうか」
「もちろんですよ旅の方。さぁ、中へお入りください」
「あと二人いるんだが、構わないか?」
「えぇもちろん。急いでお呼びなさい」
視線がどこか合わないことにジルは警戒心を強めるが、老人ならば稀に見られる特徴だ。見る限り、部屋に異常もなさそうだった。
ジルは二人を迎えに行き、馬を連れて小屋へと戻る。老婆は迎え入れるなり、食事を出してくれる。トマトベースのスープには野菜や肉の具材がたっぷりと入っており、パンもこの小屋で焼いているからか、しっとりと柔らかかった。
「金は払わせてくれ」
「気にしないでおくれよ。それに、まさか来たのがお姫様とはね」
老婆はアメリアを見てニッコリと笑う。自分のことを急に言われたアメリアはスープをむせていた。
「私を知っているのですか……?」
「そりゃそうさ。私は王宮にいたんだから。最後にアメリア様をお見かけしたのは、10年以上前だからね。でも変わらないものさ、日々お母様に似てきているね」
穏やかな言葉に、アメリアは目元を赤く染めていた。老婆はジルがさっさと食べ終わっている器を勝手に取り、おかわりをついでくれる。
「昨晩は辛かっただろう。ゆっくり休んでいきなさい。狭い家だが、しばらく滞在してても構わないから」
「恩に着る……」
アメリアは老婆と話し、彼女のエルダーという名を呼ぶようになっていた。かつて侍女だった彼女から、王宮の昔の話を聞いては感心を寄せている。
昼下がりには、昨晩眠れていないこともあって強烈な眠気が襲ってくる。エルダーは二人分しかないがと申し訳なさそうに毛布を用意してくれた。ジルは二人に先に休めと勧め、馬の面倒を見に外へ出た。




