微かな疑惑を頼りに ー4ー
「廃教会……?何故そんな場所へ……?」
アルノーは少しだけ目を瞑った。頭の中で言葉を組み立てて、どうしたらわかりやすく説明できるのかと考え込んでいるようだ。
そして、静かに口を開ける。
「シュルビア卿の仮説は、正しいと思う。僕が夜な夜なこの学生寮から抜け出しているのは、この不可解な現象の原因を探るためだ」
シュルビア卿の言うことというのは、学園で流行っている体調不良の原因が紫魔法によるものだということ。アルノーもそう考えて行動していた。
「それなら尚更、どうして彼の提案を断ったんですか?」
「…………彼は僕の“他者のオーラを見ることができる”能力を使って事態の究明をしようとしているけれど、それは僕の発言に重きが置かれるということになる。僕の不用意な発言のせいで、余計な混乱を招きたくないんだ」
それってつまり…………、確証を得るまでは自分一人で調査をするってこと?
「なんて無茶をなさるのですか?!」
マルリーは悲鳴を上げた。けれど彼女の叫びはもっともだ。
わざわざ一人で調査を進めずとも、仲間を集めて調べたほうが絶対に効率的だ。
確かに一人の発言が大きな事態を巻き起こしてしまうことがあるかもしれないが、そのリスクをこうやってわかっているんだから事前にそう伝えておけば大丈夫だと思う。
(それに、相手がハルメートならそんな心配しなくてもいいんじゃない?)
彼が一つのことに突っ走るようなタイプには見えない。昨日話しただけでも、いろんな可能性を考慮しつつ冷静に物事を判断する人——という印象しか受けなかった。
「その調査で何かわかったことはありましたか?」
「それが全然なんだ……。毎夜、寮を抜け出せているわけではないし、廃教会は学園が掛けている保護魔法の範囲外にあるから、たまに魔物にも遭遇して——」
「お兄様?」
いつもの彼女より、何倍も低い声が兄を呼んだ。
それはたった一言だったけど、とてつもない圧を感じる一言だった。呼ばれたのはアルノーだったのに、私も肩をビクッと揺らしてしまった。
「今後、その場所に一人で向かうのはおやめください」
「ぃ、いや……そ、そこが気になるだけなんだ。別に無茶をして行っている訳じゃ、」
「十分無茶をしています!!夜に!しかも魔物が出る場所へ一人で向かうなんて!それにお兄様は体調も崩されているのに、どうしてそんな無謀なことをなさるのです?!」
「そ、それも今はそんなに大したことないから……」
「だからといってその行動が許されるわけではありません!」
アルノーはいつのまにか正座になって、マルリーのお説教を聞いている。
体調を崩していたのは本当だったのか……。ロープを見つけた時は、てっきりペーシュとマルリーの目を誤魔化すために嘘をついていたのかと思ったけれど、そうではなかったみたい。
まあ、仮に体調を崩していなかったとしても危険な事に変わりはない。マルリーが怒るのも無理はない。
「でも、どうしてアルノー様はその廃教会が怪しいと考えているんですか?」
ふと疑問に思ったことを口に出してみた。
マルリーは今は余計なことを言うなと私を睨んできたが、アルノーにとっては助け舟を出されたとでも言いたげに私の質問に答える。
「その場所から変な魔力を感じるんだ。とても大きな力で、一人の人間が発せられるものではないと思う」
……それって、ハルメートが考えていた仮説を裏付けるものなんじゃない?理由は不明だけど、学園を狙った誰かが複数人で紫魔法を使って生徒たちを術に掛けている。そしてアルノーがその魔力を感知したのでは……?
そしたら、この話をハルメートにすれば……、
「何だか歪で、こんなオーラを今まで感じたことがない。この感覚をどうやって表現すればいいのかわからないけど……」
「それは複数人が魔法を使っていて、それでオーラが混ざって見えるとかそういう感じではないんですか?」
「複数人?うーん、そういう感じじゃないな。本当に何と言ったらいいかな。胸がざわつく、みたいな感じに近いんだ」
うーん、全然わからない。
その感覚はアルノーだけしかわからないかも。
「……今まで感じたことがないって、その廃教会から発せられるオーラが、ですか?」
先ほどまで怒っていたマルリーが、唐突にそう言った。
「いや、正確に言うとそれより前から感じたことはある」
「それはいつからですか?」
「……………………」
突然の兄妹のやりとりに、私は混乱する。
アルノーだけでなく、マルリーも何か知っているようだけどそれが何なのか私にはわからない。
「…………、もしかしてあのときお父様に話されていた、」
「マルリー、まさかあの話を聞いていたの?!」
驚くアルノーと、黙って頷くマルリー。
いや待って、本当に何の話をしているの?
(やばい、何でアルノーがこんなに驚いているのかもわからないし、あんなに怒っていたマルリーが急に静かになった理由もわからない……完全に置いてかれた)
しばらく2人は黙っていたが、やがてマルリーが口を開いた。
その間、私は2人の会話を理解しようと先ほどまでの話の内容を思い起こしながら、話の流れを整理していた。
「……お兄様がお一人で解決しようとする理由が何となくわかりましたわ」
(え……?!今の話の流れでどうしてそうなった??)




