表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

95/100

微かな疑惑を探りに ー2ー

 一年生の寮部屋が並ぶ廊下を歩きながら、ルナのことを思い出す。そういえば、彼女は何処にいるのだろうか。


(いや、そうか……多分彼女は救護棟にいるのか)


 セレナから彼女の容態が悪いことは聞いていた。

 救護棟に忍び込むのは恐らく無理だろう。




 

 そうこう考えながら、マルリーの部屋の前までくる。

 部屋の中は驚くほど静かだった。


 ノックをして、小さな声でマルリーに声をかける。

 すると中から、ガタッと音がして扉が勢いよく開かれた。


「ミラ……ッ!」

「マルリッ……ぐ!」


 ドンっとお腹に強い衝撃を感じて、一瞬だけ息が止まった。

 まさかあのマルリーが私に抱きついてくるとは考えられなかった。一体何がぶつかったのかと困惑し、そしてマルリーが抱きついてきたと理解して、それにも困惑した。


 でも、一瞬だけ見えた彼女の顔がその行動の意味を伝える。


「ミラ……、本当に無事で良かった……」

「はい、ご心配をおかけしました」


 マルリーは私の胸に顔を押し付けたまま、離れようとしなかった。息を押し殺すように静かに泣いていて、多分だけれどすぐに顔を上げられないのだろう。

 

 マルリーの気持ちが落ち着くまでじっとしていたいが、流石に部屋の扉を開けた状態でこうしているわけにもいかない。せめて、私の体を全部彼女の部屋の中に入れさせてもらおう。


 そう思って口を開こうとしたとき、彼女の体が震える。


「ミラ、あのね……アルノーお兄様が苦しんでいるのに、私は何もできないの……。私は、どうしたらいいの?カルゼインお兄様がいなくなって、アルノーお兄様までいなくなってしまったら……、私は……」


 小さく吐き出されたその言葉から、彼女が感じている不安が垣間見えた。ペーシュから話は聞いていたけど、本当にギリギリの状態で過ごしていたんだろう。


 何とかマルリーを部屋の中に誘導し、彼女が泣き止むまで待った。その間に私が彼女へ掛けられる言葉はなく、ただ黙ってマルリーの背中をさすることしかできなかった。


 やがて、いくらか落ち着いた彼女は顔を上げるとそっぽを向き、「後ろを向いていなさい」と言う。発言の意図がわかった私はすぐにそれに従った。


「…………もういいわよ」


 少しだけ鼻声の彼女から、振り向いていいと許可が下りた。

 マルリーの顔はまだ赤いけれど、いつもの彼女と同じような表情だ。先ほどの暗い顔より、いくらかスッキリしているように見える。


「ちょっと、取り乱していたわ……」

「私も前にそんな姿をマルリーに見せていたので、これでお揃いですね」

「あ、あそこまで泣いていないわ!」


 ワッと反論するその姿に、いつものマルリーが帰ってきたと安堵する。


「それで?一体何をしに来たのかしら?」

「ペーシュから話を聞いて、マルリーの様子を見に来たんです」

「あの子ったら……また部屋を抜け出していたのね。この前も見つかったら大変よって言ったのに」


 まるで子を心配する母親のようなセリフに、思わず笑ってしまう。それを見逃さなかったマルリーは、キッと私に鋭い眼光を飛ばしてくる。


「何を笑っているの?大体、あなただってこんな所にいてはいけないのよ!」

「私の体はもう平気ですから」

「そんなわけないじゃない!気を失っていたからわからなかったとは思うけど、あの時のあなたは……ほ、ほんとに……っ!」


 彼女の声が詰まり、そしてまた目が充血していく。


「…………すみません」

「全く、あなたは一度反省しなさい!一度どころか、今までのこと全部反省しなさい!私たちに心配かけすぎなのよ!——って、何笑っているのよ!?」

「まさかこんなにも心配してくれるなんて、思っていなかったので」

「あ、あなた私のこと一体なんだと、」

「マルリーたちに出会うまで、こんな風に誰かから気にかけられることなんて、なかったので」

「!」


 マルリーは口を閉ざした。

 そのかわり、目で何かを訴えかけているようだったけれど、鈍い私には彼女が何を伝えたいのかわからなかった。


 もう少し話していたいけれど、もうそろそろ本題に行こう。


「マルリー様にお聞きしたいことがあります」

「な、何……?」

「アルノー様のお部屋の場所を教えて下さい。」

「!、お兄様に会いに行くのね!それなら私も一緒に行くわ!」


 マルリーは先ほどの様子とは打って変わり、前のめりになった。


 アルノーに会いたがっていた彼女なら、絶対にそう言うと思っていた。けど、マルリーを連れて行けばアルノーは私と会ってくれないかもしれない。体に不調をきたすその原因がはっきりとわからない以上、病である可能性を捨てきれないからアルノーは妹を自身から遠ざけている。

 

 もちろん私にも会ってくれない可能性がある。だから“これは病ではないかもしれない”と彼の前で言うつもりだった。もしマルリーが私の隣にいてその発言を聞いたとき、彼女は希望を抱いてしまうかもしれない。反対に、別の不安にも駆られるかもしれない。どちらにしても、私の発言で彼女の精神が大きく揺れてしまう可能性がある。


 でも、絶対に彼女は連れて行かないと決めていたわけでもなかった。マルリーは紫魔法の使い手だから、ハルメートと同じく何かわかることがあるかもしれない。


 アルノーには、だいぶ負担をかけてしまう。

 彼からしたら、体調が悪くて辛いのに話を聞こうと私が押しかけようとしている。友人や妹を気遣い、あえて遠ざけているのに結局はその気遣いを無視されているから。


 私の意思を優先するか、彼の意思を尊重するか……。


「何もぐずぐずしているの?早く行くわよ!言っておくけど、私は口頭では説明しないわ!あなたが私についてくるのよ!」


 絶対に私を置いて行かせないという、強い意思を感じる。

 

(やっぱり、マルリーには敵わないな……)




 


「それより、ペーシュには叱っていたけどマルリー様も部屋を抜け出すんですね」

「あの子は頻度が問題なのよ!ほぼ毎日私の部屋に来てたんだから!それと、あなただって私のこと言えないのよ!」

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ