微かな疑惑を探りに ー1ー
部屋に戻ったら知らない女性の人が中にいた。
その女性は、私の姿を見て大きく目を見開いたあと、今まで何処にいたのだと物凄い形相で怒り出した。
何でも、ベッドで寝ているはずの私がいなくなっていて大層驚いたそうだ。
どうやらその女性は、救護棟に勤めている看護師らしい。
その女性は毎日決まった時間に私の様子を見に来てくれていたらしいが、私が勝手に出歩いていたものだから、それが彼女の逆鱗に触れてしまったようだ。
何でも、「すぐに体を動かさず、安静にしていろ」「目が覚めたのならこちらに知らせろ」みたいなことを言われた。
正直言って反論したい気持ちはあったが、髪を乱雑にひとまとめにし、やつれた顔で説教されたら何も言い返すことができなかった。
彼女たちが忙しいことは、今日一日話を聞いただけでもわかっていることだから。
(そんなに忙しいのに、こうやって私にも時間を割いてくれていたんだろうな……)
お説教が終わった後は、問診や簡単な触診をすることになった。それが終わると、問題はなさそうだが一度救護棟に来てほしいと言われたのだった。しかし、本当なら今すぐもしくは明日にでも来てほしいとのことだったが、それは難しいらしい。
その理由も、もちろん分かっている。
私としてはもう問題がないのだから、検診になど行かなくても平気だと伝えたが、看護師は渋い顔をする。しかし現状できないことは変わりがないのだから、一度先生と相談して日程を組むから、それまでは絶対に安静にしていなさいと何度も言われた。
女性が足早に歩いて行くのを見送ったあと、心の中で彼女に向かって謝罪をする。
残念ながら、その指示を守る気が全くないからだ。
明日は、アルノーに会いに行く。
翌朝、扉をノックする音で目が覚める。
重い瞼を擦りながら扉を開けると、そこには保健室の先生が立っていた。彼は「体の具合はどうだい?」と確認すると、その次に私に対して謝罪をした。
「魔法で治ったとはいえ、被害に遭った君を自室に押し込むようなことをして済まなかったね。随分驚いたことだろう」
「何も事情がわからないときは驚きましたけど、友人からいろいろ聞いたので……」
……あ、ここまで言ったら、ペーシュが部屋を抜け出していたことがバレちゃうかも。
「えーっと、」
「いや、いいんだよ。君の状況を考えれば無理もない。何も知らない状態で部屋に一人で横にされていたら、私だって歩き回ってしまうからね。置き手紙でも用意していればよかったね」
……どうやら、昨日の看護師さんから何かを聞いていたみたい。そしてそれで、先ほどの私の発言をいいように解釈してくれたようだ。
「ただ、もう知っての通りこの学園は不測の事態に陥っているから、今後は必要最低限の外出以外は控えてね」
グッと言葉が詰まる。
昨日もそうだが、その約束は破る気満々なので、心配してくれている彼らに対して心が痛む。
保健室の先生から食事の時間などを教わった後、彼は私の部屋から出ていった。廊下から足音がスタスタスタと、素早いスピードで遠ざかって行く。
その音が完全に聞こえなくなったのを確認してから、私は静かに扉を開ける。そして近くに誰もいないことを確認すると、自分の体を部屋の外に出した。
(まず最初に、マルリーの部屋に行く。ペーシュが伝えてくれたとは思うけど、まずは彼女に無事に目が覚めたよって伝えに行こう)
そして次は、アルノーの部屋がどこか彼女に聞く。
マルリーのことだから、絶対にアルノーの部屋の場所が何処だか知っているはず。これはもはや確信である。
(問題は……アルノーが私と会ってくれるかどうか……)
ペーシュの話では、彼は体調を崩してから部屋に篭りっぱなしのようだ。多分感染症の疑いがあるから、アルノーはマルリーやペーシュに病を移すことを懸念して2人に会わないのだろう。
その可能性も捨て去ることは未だできていないけど、むしろ彼の前では“違う”と断言しよう。そうしたら、彼は私に会ってくれるかもしれない。
アルノーには聞きたいことがある。
ハルメートが話していた紫魔法のことと、彼への協力を拒んだこと。
特に後者は、何だか引っかかるのだ。




