彼の憶測 ー3ー
そういえば……と、思い出した。
ラスボス戦のミラとの戦いは、ハルメートのルートが一番手こずった。
攻撃に特化した赤魔法が使えるルハーニ・アザルに、自身を強化して相手に大きな物理ダメージを与えられるフランツ・ドゥルマ。
アルノーは攻撃関連で強いところはないが、そのかわり防御力を桁違いにあげられる。だから後はサポートメンバーでちまちま攻撃していればよかった。
となると、紫魔法を使うハルメートができることは何だっただろうか。ラスボス戦でのミラは、弱体化など通じない。だって、その頃のミラの身体はそもそもとしてデバフだらけだったんだ。何もかも捨てる覚悟で主人公の命を狙ってきたんだから、これ以上失うものもなかったんだろう。
(まぁ、流石に何も効かないってなったらハルメートの体面が保たれないので、全く効果がなかった訳じゃないけど……)
どっちかというと、彼のターンはアイテム使用に費やしていたほうが効率が良かった。
…………これ以上こんなことを考えていたら、ハルメートに殺されそうだな。
「本当だったら、あなたのご友人であるサラヴァン王国第二王子のお力をお借りしたかったんですがね」
サラヴァン王国の第二王子って、アルノーのことじゃないか。彼の力を借りたいってことは、もしかしてアルノーの能力についてだろうか。
確かに他人のオーラを見ることができるアルノーなら、犯人は簡単に見つかるかもしれない。本当に紫魔法が原因だったらだけど。
「あなたは彼の力についてご存知なのですか?」
「はい、知っています。前に教えていただきました」
「どのくらい前に?」
「えっと……学園に魔物が出たって騒ぎがあった少し後くらいです」
「あぁ……そういえば、あなたも当事者でしたね」
ハルメートは、考え込んでいる。
「その、アルノー様の体調はそこまで悪いのですか?」
「詳しくはわかりませんが、良くはないことは確かです」
「そう、ですよね……もし彼が無事だったら……、」
「いえ、協力については既に前から断られていました」
「え……?!」
断られたって、こんな一大事になっているのに?それに、これまでの話を聞いていた私からすると、断る理由があるように思えない。
体調不良を訴える人達がいつ頃から現れていたのかはわからないけど、それでも……。
「正直言って、断られた理由がわかりません」
「………………」
でもそれは仕方ないことだ、とハルメートは溢した。
「あの、紫魔法だったらそれを解く方法もあるんですよね?」
「ええ、ありますよ。ですが今回の場合は、それで対抗できないようです」
「対抗できない……って、どうしてですか?」
「紫魔法による状態異常を解くには、その効果を解除する薬草を食べるか、状態異常を解消できる白魔法使いに頼み込むかです。ですが、あまりにも強すぎる紫魔法だと上手くいかないことがあるのです。そうなると、あとは時間の経過を待つだけになります」
「時間って……、でもそんなに長く続くものではないのでしょう?」
「本来ならばそうですね。ですが、相手がどのくらいいるのかもわかりませんし、どのくらいの頻度で魔法を使ってきているのかもわかりません。呑気に効果が切れるまでなんて言っていたら、死人が出るでしょうね」
死人って、苦しみも全部錯覚によるものなのに……?
「ーー人は思い込みで死ぬことができるのです。それに当の本人からしたら痛みは本物ですからね」
考えが顔に出ていたのか、ハルメートは真剣な顔で諭すようにこう言ってきた。
「それならば、どうしたら紫魔法の効果を消せるのか私に教えてください!白魔法ならば私だって使えます!もしかしたらその効果を消せるかも……!」
「残念ですが、それは私にはわかりません。私は白魔法を使えませんから」
そうか、それならばペーシュに聞いてみよう。彼女ならそういう魔法のことを何か教えてくれるかもしれない。
だって、だってゲームのときはどうしていた?パーティーメンバーに状態異常が現れたら、主人公の魔法で……ボタン一つで解消できていた。
紫魔法の効果に、強いも弱いもなかった。
毒は毒、鈍足は鈍足、目眩しは目眩し。
ただそれだけだった。
アイテムも魔法も……効かないなんてことはなかった。
「私の話を信じてくれるのはいいのですが、確証がないので事実だと思い込まないでくださいね」
彼の言葉にハッとする。
そうだ、まだ紫魔法が原因であると決まったわけじゃなかった。本当に未知の病の可能性だってあるし、病気でも、魔法でもないという可能性だってある。
(何でこの世界って、こんな訳のわからないことばかり起きるの……?)
時間のループとか、よくわからない病とか……知らないことばかり起きる。
どうしよう……あと一年待って、巻き戻りを待つべき?そうしたら、もう一回初めからやり直して、これから起こることを誰かに説明して事前に防ぐとか……。
いや、冷静になれ。
私一人がそんなこと言ったって、誰が信じてくれるんだ。
それに、私がこれまでループの原因を突き止めようとしていたのは、みんなとの思い出を無かったことにしたくなかったから。それだけは譲ることができない。
(でも………………)
このまま何もわからないまま時間を無駄に過ごした結果、アルノーが苦しみ悶えて死んでしまったら……。
そしたら、マルリーの精神は間違いなく壊れてしまう。
そんな2人を見たくない。
「あの、すみませんがそろそろ退出していただけると有り難いです。私も少し休みたいので」
「あ……、ごめんなさい……。大分長い時間お邪魔してしまいましたね」
「…………知りたいことは知れましたか?」
「ええ、まぁ……」
私は静かに扉を開け、ハルメートの部屋から出ていった。
いつもならば、日が沈めば廊下に明かりがつく。
けれども今はそれの切り替えすら忘れられているのか、暗いままだった。
(寒い……)
窓の外を見れば、雪が降っていた。
雪が降る夜って、何でかわからないけど空が明るく見えるのよね。光が反射しているからなのかな。
(…………今日はもう、部屋に戻ろう)




