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彼の憶測 ー1ー

 セレナと別れてから男子生徒寮に来たはいいものの、肝心のハルメートが何処にいるのかわからない。場所を聞いておくのを完全に忘れていた。

 そういえば、セレナの提案を意気揚々と切り捨てたときに彼は少し笑ったけれど、もしかしたらあれは「ハルメートの場所も知らないのによく断れるな」って笑みだったんじゃない?


 そうだとしたらやっぱり彼の性格は…………いや、自分のミスを彼のせいにするのは止めよう。


 仕方がない、ハルメートの部屋は手当たり次第で見つけるしかない。

 確か、ハルメートはミラと同じ2年生だった気がするからある程度の場所は絞り込める。あとは驚かれるのを覚悟で部屋の扉を叩きまくるしかないだろう。

 

 しかし私が叩いた扉の数のうち、三分の一くらいは返事がなく、他は外に出るのが怖いといったような感じで内側から「先生ですか?」と声が返ってくるのみだった。


 それならば好都合と、私は教師のふりをしていろんな部屋に向かって声を掛けた。そうして歩き回り、ようやく聞き覚えのある声が返ってきたので意を決し、相手に名を告げた。

 するとその部屋の扉がゆっくりと開かれ、中から目的の人物が現れた。


 それに安堵すると同時に、ハルメートの顔色もなんだか悪いように見えてまた不安が宿る。ハルメートって、攻略対象の中で一番色白なキャラだから、あとは照明とかの問題で青白く見えるだけだよね……?


「おや、目が覚めたんですね。良かったです」


 無表情のまま、そう告げられた。


 部屋に訪ねてきた理由を問われ、簡潔に話す。

 そういえば、どうして彼がルナのことをあんな風に問い詰めたのかも気になっていたから、ついでにそのことも聞いてみた。前にも思っていたけど、ハルメートは攻略対象である上にルナの身近にいたものだから、てっきり彼女の虜になっていると考えていたのに。


 まず彼からの返答は、ルナに対する懐疑心についてだった。


「初対面では興味深い話をする人だと思っていたんですが、次第に会話が噛み合わないことも増え、最終的には言ってないことまで言ったことにされるので少々辟易してました」

「その割には、ルナとよく一緒にいましたよね?こういうのもなんですが、あしらったりとかはしなかったんですか?」

「まあ、適度にはそうしてましたが、完全に距離を取る前に彼女のことを調べなければならなかったので」


 私は彼の発言に首を傾げた。

 調べるって……何について?


「彼女がペラペラと話す内容の中に、我がシュルビア家のしきたりを口にすることがありました。その話自体に何か重要性があるというわけでもないのですが……、どちらにしても他国の平民の方が知る由もないことです。つまり、それを知っていたということは——」

「ルナをスパイと疑っていたってことですか?」


 ハルメートはチラリと私を見た後、「そういうことです」と短く返答した。私はルナが攻略対象からスパイとして疑われていたことに少しだけ衝撃を受けつつも、前にアルノーも似たようなことを言っていたと思い出した。


 多分、ルナにそんな容疑が掛けられても調査は全て徒労に終わるだろうけど……それを私から説明するわけにもいかない。むしろ、私だって同じ容疑を掛けられる心配があるのだから、発言には十分注意しないと。


「あなたが私を訪ねて来た理由はもう一つありましたね」


 パッとこれまでの会話を切り上げるように、ハルメートは話題を変える。ルナのことは私の興味本位だったから、いい加減本題にいかないと。


「とある人から聞きました。今この学園で流行っている謎の病……あなたは、これはそもそも病気ではないと考えているみたいですね。その理由を教えてください」


 私がこう聞くと、ハルメートは顔を顰めた。

 あれ、なんか思った反応と違うな。


 彼は溜息をついたあと、ぶつぶつと何かを呟いた。


「全く……人が憶測だと言っているのに他人にベラベラと……」

「あの……?」


 ハルメートは私がいたことを思い出したかのように姿勢を正すと、ゴホンと咳払いを一つした。


「とある方と言っていますが、セレナ・オルディナリウスでしょう?あの人はあなたを巻き込んで一体何がしたいのか……」

「セレナのことを知っていたんですね」


 セレナは身分を偽ってこの学園に来ていたから、ハルメートは知らないと思っていたのに。それも他国の貴族であるハルメートがどうして知っていたんだろう。


「彼とは……、幼少期の頃に少しだけ付き合いがありましてね。今回もその流れでいろいろと話しかけられて、つい話してしまったというだけです。そんなに深く捉えないで下さい」

「でも、何か知っていることがあるから病ではないと疑っているんですよね?それについて教えて下さい!」

「何故そんな必死に?」

「アルノー様が苦しんでいるんです!それだけじゃない、私の大切な友人にもその病が罹ったらと思うと……」


 私の必死な様子に、彼は少しだけ逡巡する様子を見せるともう一度溜息をついて私と向き合った。


「そこまで言うのならお話しします。ですが、これはあくまでも根拠のない仮定の話で、空想にも近い話です。それでもいいのですか?」


 彼の言葉に、私は力強く頷いた。

 それを見たハルメートも小さく頷く。


「ならばお話しします。結論から言いますと、私は皆が病だと言っているこの現象、それは紫魔法によるものだと考えているのです」

 

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