合宿訓練 ー1ー
綺麗な星たちがきらめく夜空の下で、遠い目をしながら焚火を眺めている。
木の葉がかすかに揺れる音と共に兄妹たちの会話が聞こえてくる。その内容に辟易しながら、帰りたいなぁと切実に思った。
マルリーが私に持ち出した話は、彼女が兄と共に所属している乗馬同好会の合宿訓練への参加だった。
そもそもこの学園にそんなものがあったんだという感じで、乗馬で合宿訓練?と疑問に思った。
しかし話をよく聞いてみると、そういう同好会があってもおかしくはないかもしれないと考えさせられた。
まず、この世界で主流となる交通手段は馬である。
他にも手段はあるにはあるが、多くの貴族にとって馬を乗りこなすことは必須であると言える。
もし遠征にでも行くときは、数日かかることもあるのだ。
その道中に、険しい道や山を何回も超える必要が出てくるため、この同好会ではそういったことに慣れるために合宿訓練を行うらしい。
”それなら、私が参加しなくても他の人がたくさん参加しそうですけど……”
”それがいなかったから貴方に頼んだのよ”
今回の合宿に参加したのは私とマルリーを含め5人。
乗馬同好会には加入している生徒の人数はもっといるのだが、合宿は険しい訓練が多いと噂になっているようで参加者は少ないとのことだった。
このままでは合宿訓練自体がなくなるため、同好会の人でなくともいいから参加者を募っていたらしい。
”馬……私多分乗れないです”
”なんですって……?では手ほどきをしてあげるからついてらっしゃい!”
それから2週間、休み時間や放課後に休日まで使ってスパルタ特訓が行われた。
”本当に乗り慣れていないのね。姿勢がまるでなっていないわ”
”もう、無理です……他の人に頼んでください……”
”いいから練習しなさい!”
合宿当日までには何とか形になったが、険しい道のりについていける気がしませんと言うと、マルリーはそもそも今回の合宿では新入生に合わせた訓練にするつもりだったと言った。
それならそうと明言しておけば、参加者は多かったんじゃないだろうか。
”というか、今回の合宿でルナさんとお兄さんの仲をどう引き離すのですか?”
”そんなの決まってるわ!説得よ!”
”……え?”
夜の就寝時間を使って、マルリーは兄を説得するつもりらしい。
私には、他の生徒に気取られないように誤魔化しとけと言われたが、他の参加者は疲れからすでに就寝している。私も寝たかったが、彼女たちの会話が気になって寝られずにいる。
説得しても無駄だったから、貴方のお兄様はルナと離れられていないんじゃないかと言ったが、逃げられないようにすればいいと自信たっぷりに言っていた。
「聞く耳もたない相手に説教したって、意味ないと思うけど……」
マルリーとアルノーは、テントから少し離れた場所で口論している。
あの様子では、きっと駄目だろうな。
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ーーー
次の日の正午。私たちは合宿で行く折り返し地点まで移動して、後は学園へまでの道を戻るだけとなった。
途中、土砂崩れが起こっていたらしく道が崩れていて、他の道を進むか引き返すかで生徒たちの意見が割れた。しかしマルリーの機転によりその問題はすぐさま解決し、概ね想定内の時間で移動することができている。帰りも同じ道を行くだけだから、安心していいだろう。
昨夜はかなり言い争ったのか、今日のマルリーとアルノーの仲には若干の険悪な雰囲気があった。しかしそれを表に出すようなことはしていなかった。それゆえか、他の生徒にはバレていない。
問題は今夜。
今日が合宿最終日のため、マルリーにとっての兄を説得する最後の機会だ。
めげずに今日も話に行ったようだが、大丈夫だろうか。
(マルリーってリーダーシップがあるけど、アルノーは人の上に立つのがあんまり得意そうじゃないのよね。今日だってほとんど号令は妹に任せて、自分は必要最低限の声掛けくらいしかしてなかったし……)
合宿の間、アルノーが笑っているところを一回も見ていない。微笑すらなかった。
けれど、ある意味その姿はゲームの彼そのものだ。アルノーは、始めのうちは主人公に全く心を開こうとしなかったから。
きっかけさえ作れれば、後は簡単に好感度を上げることができるのだが、このきっかけを作るには、学力を結構上げる必要がある。
一定数の学力レベルになると、図書室でとある童話を主人公が見つけ、それを読んでいたときにアルノーから声をかけられるのだ。
なんでそのイベントを起こすのに学力が必要なのか、という質問に対しては、多分図書室に行く習慣が付いたからとでも思っておこう。
彼らが出会った経緯はこんな感じだ。
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何となく気になった童話を、昼休みに中庭のベンチで呼んでいたルナは、ふと通りすがりの男性の、思わず声に出してしまったような気の抜けた声を聞く。
『あ、それ……』
『……?私のことですか?』
『あぁいや、君のことではなくて、君の持っている本が少し気になったんだ』
『この本ですか?不思議なお話ですよね!』
『急に声をかけてしまい申し訳ない。それでは』
『あ……』(不思議な人だなぁ)
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後に、その童話はアルノーが幼い頃によく読んでいた本であったということが彼の発言から分かる。
その童話の内容は、プレイヤーにも表示されていたけど私にはよくわからなかった。
『いいからッ!僕のことはもうほっといてくれ!』
アルノーの怒った声が聞こえてきた。
慌ててテント内を見たが、誰も起きなかったようである。
それにホッとしたが、あの2人のことも気になる。多分だけど、話をしていくうちにだんだんと拗れてしまったのだろう。
少し嫌な予感がする。
持ち場を離れるなとマルリーから言われていたが、少しだけ様子を見に行ってみよう。




