一変した日常 ー2ー
「お部屋にいらっしゃらなかったので驚きました……!一体いつお目覚めに?身体のどこか痛むところなどありませんか?気持ちが悪いところなどもありませんか?」
「わ、私はもう平気だから、心配しないで。それより、今は授業中ではないの?」
「今は、その……、休講中なんです」
困ったようにペーシュは眉を下げる。
考えてみれば、学園内であんなことが起きてしまったんだから、休講にもなるか。
「そうなんだ……、それじゃあ私ってどのくらい寝てた?」
「2週間くらいです……。お目覚めになって本当に良かったです……。身体の方は大丈夫ですか?」
「大丈夫、もう寝込むのには慣れたようなものよ」
「慣れないでください」
2週間か、結構寝てたな。
その割には身体は普通に動く。寝たきりって、期間によっては筋力が落ちて歩けなくなるっていうけど、そこまでではなかったのだろうか。
「臨時で休講になったってことは、みんな遊びに行っているの?全然人の気配がしないし……」
「…………!」
「あ、別に遊びにいこうかなって言ってるわけじゃないのよ!ただちょっと気になっただけで、」
「ミラ様、実は——」
ペーシュが驚いた顔をするから、てっきり休みになったことをいいことに私が遊びに行こうとしていると勘違いさせちゃったかと思って訂正した。けれどペーシュは神妙な面持ちのまま、口を開いた。
休講になったのは、ルナが騒動を起こしたせいではない。
それもあるかもしれないが、もっと大きな問題がこの学園では巻き起こっているのだという。
「原因不明の病——?」
「そうです。今、学園内では病が流行っています。以前から体調不良を訴えていた人がいたらしいのですが、それが重症化していて……。そして、その人数も増えているそうです」
それって、感染する病ってこと?
確かにこの世界にとって脅威的なのって病だよね。怪我はすぐに治せることができるけど、病気に対する治療法は前の世界より発展していないだろう。
原因不明とのことだったけど、症状とか聞いてみたら私でもわかったりするのだろうか……?
「それって、どんな病なの?」
「症状としては、息苦しさがよくあるそうです。あとは首が痛いとか、身体が熱い?とか……」
やばい、思い当たるのが風邪しかない。
私に医療知識があったら、もっと思い当たる病も出てくるのかもしれないけど、全くわからん。
「その……風邪とかではないの?」
「どうやら、違うらしいのです。咳が出たり、喉が腫れていたり、熱があるというわけでもなく、ただその人がそういった訴えをしているだけらしいんです」
「みんな同じ症状が出ているのよね……、それなのに原因もわからなければ治療法もわからないと……」
「あ、いえ。どうやら一人にそれぞれの症状が出ているらしいのです。首が痛いという人もいれば、息苦しいという人もいるといった感じです」
「え、それなのに同じ病だってわかったの?」
「そう、らしいですね……私もよくわからなくて、」
「そ、そうよね!とにかくペーシュが何ともないのだったら良かった。マルリーやアルノー様も大丈夫なの?」
「……………………」
不意にペーシュが黙る。その表情は悲しそうで、それだけで嫌な予感が過った。
「もしかして、2人は罹っているの?」
「マルリー様はお元気です……、でも、アルノー様が……」
まさか、アルノーが?
ルナに追い詰められたとき、彼は私のことを助けてくれた。私がルナに刺されたとき、彼は必死に私の名前を呼んでくれて……そんな彼が、原因不明の病に罹った……?
「アルノー様の容態は?!」
「救護棟に入院するほどではないと……ただ、人に感染する病かどうかわからない以上、私やマルリー様にも会われないので、今の容態がどうかわからないのです」
「そんな……」
「それで、マルリー様もとても憔悴して……」
あんなにアルノーのことを大切に想っているんだから、落ち込むに決まっている。当の本人は自分と会おうとしてくれなくて、容態が良いのか悪いのかもわからないのだから辛いに決まってる。
「でも!ミラ様の意識が戻ったのだから、マルリー様も安心なさると思います。本当はミラ様の様子を見てからマルリー様のご様子を伺おうと思ったのですが、今から一緒に行きませんか?」
「ごめんなさい……そうしたいのは山々なんだけど、まずは先生の誰かに意識が戻ったってことを伝えに行きたい……。そして、この前のことがどうなったか話を聞きたいの」
「あ……そうですよね、申し訳ありません」
「絶対に会いに行くわ、マルリーにも、アルノーにも。……でも、こんなことを聞くのもアレなんだけど、今って出歩いても平気なの?」
人から人に感染するって考えられてるんだったら、みんな部屋にいなさいって言われていそうだけど、そうじゃないのかな。でももしそんな指示が出されていたら、ペーシュがそれを破るはずがないし……。
しかし、私の発言にペーシュはモジモジとし始めた。
「もしかして……ペーシュ、こっそり抜け出していたの?」
「は、はい……マルリー様とミラ様の様子が気になってしまい……。病床が足りず、ミラ様が寮部屋に移動したと聞いたときには、いても立ってもいられずそのまま飛び出してしまいました……」
それに自分自身、一人で誰とも会えずにジッとしていると気が触れてしまいそうだったとペーシュはこぼす。
どうやら、ペーシュの他にも不安で友人の部屋に行ってしまう生徒がいたそうだ。
「定期的に、先生が声掛けに来てくれます。でも、その時間以外は基本的に一人で過ごすので……」
まぁ、よくわからない病が流行っていて不安になるのも、特に貴族のご令嬢ご子息なんて“一人”が慣れていないだろう。仕方がないと言ってしまえばそれまでだが、本当に感染症だった場合は生徒自らから自分の首を絞めている。
と言いたいけれど、ペーシュがそうしていたのなら絶対にこれは言わない。
「まぁ、部屋を抜け出すチャンスはたくさんあるってことね。現に今、こうやって私も出歩いちゃったくらいだし」
「そうですね、先生たちも忙しいようであまり声掛けに来ないときもあります」
「じゃあやっぱり、何かあったら自分から行かなくちゃいけないってことか」
ペーシュはそのままマルリーの部屋に行くというので、彼女に伝言を託す。
私はそのまま、問題の学園に向かって行った。




