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一変した日常 ー1ー

 気がついたら、私は暗闇の中にいた。

 真っ暗過ぎて、周りが見えない。自分のこともよく見えなかった。けれど、私はここに“いる”という感覚が確かにあった。


 ここにいると、何だか心細くなる。

 だけどなんだか、懐かしいような気もする。




『ーーあなたを見ていると、本当にイライラする』


 唐突に、誰かがそう言った。

 姿は見えないけれど、誰かが私のすぐそばにいる。

 その存在が放った言葉は、私に対するものだと直感した。


『一人でいいと言っておきながら、結局は心のどこかで誰かが助けてくれるのを待っている』


 声の主は、私に対して明確な敵意を持っていた。

 彼女の声を聞いていると、私の存在がギュウギュウと締め付けられるように苦しくなる。


『私、あなたのことが嫌いなの。いい加減、早く消えてくれない?』


 私だって、あなたのことが嫌い。

 私のことをそうやって傷つけるから。


『じゃあ、あなたは自分のことが好きなの?』


 …………………………。

 わからない。

 わからないけど、こんな私を想ってくれる人がいるから。


 心の中でそう呟けば、ペーシュの顔が静かに思い浮かんだ。

 ……あれ、そういえば私って今まで何してたんだっけ?


『本当にしぶといなぁ……。あと少しのはずなんだけど』


 一体何が?


『あなたを消し去るのが』


 ギュウッとまた締め付けられる。

 彼女が私を否定しようとするたび、私の存在は大いに傷つけられるのだ。



 この感覚を、私は覚えている。


 

『それじゃあ、さようなら……。どちらにしてももう会うこともないだろうから』

 

 待って!

 

 そこにいた存在が、私から離れていこうとしているような気がして慌てて声をかける。

 どうしてかわからないけど、彼女を行かせるのは絶対にダメ。


 けれども彼女は私の制止は無視して、何処かへいってしまった。

 彼女が離れた途端、世界がぐるぐると廻っているような感覚に襲われ、私はその渦へと呑まれてしまった。

 


 

————————————————

——————————————

————————



 目が覚めた。

 学園寮、見慣れた自分の部屋の天井が目に入ったから、いつもと同じ一日が始まったのかと思って大きく体を伸ばす。

 今、何時なんだろう。


 すごく長い時間眠り続けていたような気がする。

 もしかして、寝坊した……?


 その考えにドキッと胸がはねたが、次第に自分は何をやっているのだと冷静になる。

 そうだよ、私はルナにお腹を刺されたんだよ……。


 刃物で刺されたけどお腹は痛くないし、目覚めた場所が自分の部屋だったから忘れてた。

 しかしながら……、刺された箇所が痛くないのは白魔法による治療のおかげだとは思うけど、私が自室で寝ていたのは何故なのだろう。てっきり、救護棟か保健室のベッドで寝込んでいるかと思ったのに。

 

(ていうか……なんか静か過ぎない?)


 もしかして今、授業中?

 今日は何曜日なんだろう。スマホとかデジタル時計とか気の利いたものはここにはないから、今日の日付が全くわからない。

 窓の外を見るに季節に変わった様子はなく、そこまで月日が経っているようにも見えないけど……。


 とにかく私は何をするべきなんだろう。

 先生に会いに行って、目が覚めましたと報告するべきなのだろうか。それとも今から支度をして授業を受けに行くべき?

 いや、授業に行くのはないか。

 やっぱり先生の誰かに声をかけに行くべきだ。


 ベッドから下りて、最低限身だしなみを整える。

 寝癖だらけかと思ったけれど、意外とそんなことはなかった。


 扉を開けて廊下の様子を伺ってみるが、人の気配はしない。

 となると、やっぱり今は授業中なのね。


 廊下を歩きながら、途中で談話室に寄った。

 そこの壁にかかっている時計を確認すると、時刻は正午より少し前の時間を表していた。

 人がいないのも納得。


 こんな静かな場所を1人で歩いていると、なんだか取り残されたような感覚に陥る。でも、お腹を刺されて倒れた私を寮部屋のベッドに横にするなんて……少しだけ薄情じゃない?

 でも、保健室の先生や救護棟の人たちがそんなことをするようには思えないけど……。


 いや、ここはファンタジーの世界だ。

 ああいった傷はこの世界からするとむしろ当たり前で、魔法一つで治せるんだからそこまで重要視しないのかも。


 それよりも、ルナたちはどうなったんだろう。

 多分だけどあれ、殺害未遂として考えられるよなぁ。

 その前に冤罪で私のことを糾弾していたし、名誉毀損とか適応されるのかな?そこらへんの罪状はよくわからないけど、公爵令嬢という立ち位置に一応立っている私に対してのことだから、元メイド長のように、極刑になってしまったかも……。

 

 もし、もうすでに刑が下されていたら……、


「ミラ様!」

「……ッ!ペーシュ!!」


 私を呼ぶ声が聞こえて前を見る。そこには口を押さえ、目を潤ませたペーシュが立っていた。

 彼女の声を聞いたとき、なぜかわからないけどひどく安心した気持ちになった。もしかしたら、ペーシュの声が聞きたくて仕方がなかったのかもしれない。


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