不気味な侵攻 (第三者視点)
今回の話は、保健室の先生がメインとなっています。
「オーティス様、急ぎ報告がございます」
「何だ」
報告があると言われたが、オーティスは顔を向けずにただペンを静かに走らせていた。その目の下には、うっすらと隈ができている。
「ミラお嬢様が……」
ピタリと、その名が出てきた途端に彼の指は止まった。
そして目を先ほどより少しだけ開いて、何かあったのかと問いかける。
「ミラお嬢様が、錯乱した生徒から腹部を刺されたと——」
ガタンッ!と大きな音を立てて椅子が後ろに倒れた。
オーティスが勢いよく立ち上がったせいだ。
「何故だ!ミラの容態は?!」
「それが、一命は取り留めたものの……意識はまだ戻っていないようです」
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アメシティーオーズ学園の保健室で、日々生徒の健康を見守るモーリスは1人の女子生徒を見つめながら静かに嘆いていた。
一体どうして、この子ばかり辛い目に遭うのだろうか……。
先ほどからずっとこんなことばかり考えている。
とある生徒から腹部を刺され、怪我を負った少女。その場にいた男子生徒が大声で白魔法使いを呼んでいたが、周囲の人間から名乗り出る者は何故かいなかったようだ。
結局、彼女の友人が駆け付けて治療を施したそうだが、それまでの間血は流れ続けていた。
傷は魔法で塞ぐことができても、血液を生成することはできない。最終的には、彼女の治癒能力に頼るかたちとなってしまった。
つまり、我々に出来ることはなかった。
だからか、彼女は設備が整った救護棟ではなく簡易的な治療道具とベッドがある保健室で経過が見られることになってしまったのだ。
仕方ない、仕方のないことなのかもしれない。
事実、今の救護棟は病床が足りない。よくわからない病が流行しているせいで、彼らは手一杯だ。
治療が試みれる者と、あとは患者次第の者となれば後者は後回しにされる。
私だって、すべての生徒の命が大事だ。優遇しろだなんて言わない。けれど、冷遇されるのも違うではないか。
——あのときだってそうだった。
学園の結界内に魔物が出現したと聞いたとき、モーリスの元に運ばれたのはやはり彼女だった。白を通り越して真っ青な顔色の彼女はこちらの呼びかけには答えず、荒い呼吸を繰り返しているだけだった。
外傷はなかった。魔物の襲撃と聞いていたから、大怪我をして運ばれてきたのかと考えていたのに、そうではないとすると一体どうして。
なんとか原因を突き止め、その生徒の容態が安定したとき、モーリスは心の底から安堵した。あのときばかりは、自分自身の心臓まで破裂してしまうのではないかと思うくらい緊迫していたのだ。
そして次に疑問がわく。
どうして公爵令嬢が魔法を使って体力を誤魔化す必要があるのか、と。
その生徒の腕は、驚くほどに細かった。
いろいろと勘繰って、最終的には学園長に直談判した。
彼女はきっと、公爵家で虐げられてきたに違いないと。
だから、一刻も早く彼女を救い出さなくてはいけないと。
けれど、学園長の応えは「待て」だった。
確証が無いから。万が一こちらの勘違いだった場合、その責任をどうとるのかと問われた。そして、そうこうしているうちに学園長の焦点が魔物の襲撃の方に集中してしまった。
あのときばかりは強行突破も辞さないと覚悟したが、結局は何もしなくても正解だったのかもしれない。一番危険だと考えていた夏休みの帰省も、彼女は学園へ戻ってきてくれたから。
(けれど今回のことに関しては違う!彼女は我々に助けを求めていた!)
何もできなかった自分が憎い——。
この子は私に悩みを打ち明けてくれたというのに。
そのとき、保健室の扉がノックされる。
弱々しい音だった。
「しつ、れいしま……あ、あの……少しだけ、休ませてください……」
モーリスはその男子生徒に見覚えがあった。ここ最近、彼はこうして何度も保健室を訪れるようになったからだ。
しかし、体調は以前よりも悪そうだ。
立ち上がり、その生徒の身体を支える。
そして空いているベッドまで彼を誘導した。
「今回も、いつものかい?」
「はい……喉が詰まっているような、締まるような……そんな感覚がずっとして、息苦しくて……」
「あまりにも酷いようなら——」
救護棟で診てもらおうと言いたかったが、今はそれが難しいことを思い出し、口を閉じる。
「は、早くなんとかしてください……、俺、もう苦しくて……」
モーリスも外部に助けを求めるべきなのか、と何度も悩んでいた。しかし同時に、アメシティーオーズ学園の医療体制は他の施設より万全だ。故に解決策が見つかるようにも思えない。
念のため、モーリスは知人に症例を説明し助言を求めたが、やはり有益な情報を得ることができなかったのである。
こんなときに頼りにしたい皇室からは、なんの返答もないそうだ……。
「失礼します!せ、先生!助けてください!この子が突然首が痛いって呻き出してッ……!」
ガラリと勢いよく開けられた先には、2人の女子生徒がいた。
一人はとても焦っていて。もう一人は首を抑えながら痛い痛いと呻いている。
痛がるその生徒の手をなんとか退け、患部を確認する。
けれどもやはり、そこには傷など何もないのだ。
(問題があるとすれば、内側になるが……)
口の中を覗いてみても、腫れなどは見つからない。
熱もなかった。
「君は彼女のご友人かな?」
「は、はい!」
「ここ最近、何か変わったことはあったかい?転んで首を打っていたとか」
「そ、そういうのはなかったはずです。でも、少し前から首周りが何か気になるとは言ってました……」
やはりだ……とモーリスは心の中で溜息をついた。
息苦しい、喉が痛いと訴える生徒たちは皆このような形で保健室に駆け込んでくる。
そういえば、これ以外にも他の症状を訴えてきた生徒がいた。その生徒は、何と言ってきただろうか。
「失礼します!!!」
また、慌ただしく扉が開かれる。
そして次に発せられた言葉は、またもや同じようなことだった。
新たな患者を見てモーリスは考える。
これは果たして、病と考えてもいいのだろうか――と。




