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強引な断罪 ー3ー

 言い争う私たちに、一人の生徒が声を上げた。

 野次馬の中からではない、私たちのだいぶ近くからその声は聞こえた。


「ハルメート……?」


 ルナが困惑の声を上げる。

 彼女のそばに立っていた、もう一人の攻略対象だ。


(今ここで攻略対象が声を上げるってことは……また何かイチャモンをつけられるってこと?)


 うんざりとした気持ちになったが、逃げるわけにもいかない。気を引き締めてハルメートやらの対面しようとしたが、驚いたことに彼は私ではなくルナと向き合っていた。


「これまでのやりとりを見て、やはり私の考えを優先しようと思いまして——」


 突然の行動についていけない私たち。

 ルナの表情を見るに、これは彼女にとって想定外の行動なんだろうけど……。


「おい!お前は黙ってろ!」


 ルハーニが怒鳴り声をあげたが、ハルメートは毅然とした態度を崩さずにいる。

 

 そんな彼に苛立ったのか、ルハーニは相手の胸ぐらを掴もうとした。


 しかしその手は大きく空回る……どころか、ルハーニの身体がまるで糸がプツンと切れた人形のようにドサっと下に倒れてしまった。

 そんな姿に、周囲で小さな悲鳴が上がる。


「ご安心下さい、私の魔法で眠らせただけです。このままではいつまでも話が進まないので」


 ハルメートの手がうっすらと紫色に光っていた。

 そうだ、彼の属性魔法は紫だった。


「どうしてルハーニを攻撃するの?!」

「別にそんな意図はありませんよ。彼も眠っているだけなので」

「でもルハーニは、大切な攻撃キャラなのに……!」

「仰っている意味がよくわかりませんが、ここでは触れないでおきましょう」


 ルナは顔を真っ赤にして怒っているが、ハルメートは気にせず己が好きなようにしている。


(なんか、対応が冷めてるような……)



 

『これは一体、なんの真似?』

「ア、アルノー!来てくれたのね!」


 ハルメートの行動に困惑する私たちのもとにアルノーがやって来た。アルノーの表情は、誰がどうみても怒っているとわかるくらい険しかった。

 私を含め周囲の人たちはそんな彼の様子に少しだけ気圧されていたのだが、ルナだけは嬉しそうにしていた。


 しかしアルノーはそんな彼女を睨みつけている。


「何を勘違いしているんだい?僕はミラが変な言いがかりをつけられていると聞いてここに来たんだ。断じて君のためなんかじゃない」

「なッ、どうしてよ!あんたがいないとタンク役がいなくなっちゃうじゃない!」


 取り乱すルナに対してアルノーはため息を吐く。

 話が通じないとでも言いたげだ。


「大体、何で2人がミラを庇うのよ!」

「ミラは僕の大切な友人だ。それに、彼女の潔白を僕は知っている」

「私はあくまでも中立です。まだはっきりとわかっていないことも多いので」


 中立……まさかルナの隣にいた攻略対象からそんな言葉が出てくるなんて思わなかった。そしたら、ハルメートは私のことを完全に疑っているわけではないのか。


 その割には以前私のことを睨みつけていたような気がするけど、もしかして私の思い違いだったのだろうか。


 ハルメートは咳払いを一つして、ルナを相手に話し始めた。


「まずお話を整理しますと、この前あなたは私に“実は二学期に入ってから私は嫌がらせを受けていて、そしてついに命まで狙われた”と仰ってしましたよね?」


 ルナは黙っていたが、ハルメートは気にせず話を続けた。


「しかしそこで実行犯——つまりそこにいるジーク・ギルシリ卿を説得し、彼からスカーレットレイク嬢が嫌がらせの主犯格であると教えてもらった、と」


 間違いないですねと問う彼に、ルナは拳を振るわせて吼えるように「そうよ!」と答えた。最早ヤケクソなのかもしれないが、それにしても随分本性を現すのが早いというか……その姿を是非ルハーニに見て欲しかった。


「あなたが嫌がらせを受けていたことは知っています……とある調査をしていたので。ですから、嫌がらせがあったこと自体は納得しているのですが、どうしてここでスカーレットレイク嬢の名が上がるのか、私には理解できない」

「どうしてよ!証人(ジーク)がそう言ったんだから、」

「彼が嘘をついていると言う可能性は?」


 その言葉にルナがわざとらしく顔を手で覆い、悲しそうな声を出した。


「彼はとっても震えていたのよ。身分を盾に脅されたって、その姿が演技だったとはとても、」

「では、他の者にもそのように?」

「え……?」


 私を嫌がらせの主犯格だと言い掛かりをつけたはきたが、ルナが被害を受けているのも事実だ。陰口は一学期からも言われていたけど、最近は転ばさせられたり階段から突き落とされそうにも——って普通に傷害事件だな。

 実際に見たわけではないけど、怪我をつくって保健室によく来るようになったって保健室の先生も言っていた。


 まぁつまり、ルナは自分に危害を加えている人の姿を見れる状況だったわけだ。


「本人がいる前でこのような発言をするのは大変失礼なのですが、そもそもスカーレットレイク嬢が脅したからといって、それに従う人がいるのでしょうか?」

「は……?」

「彼女も、貴方と似たような境遇でしょう?」


 ハルメートの言いたいことはなんとなく分かる。

 ミラ・スカーレットレイクの元々の評価は、元平民。魔力が少なく碌な魔法も使えない落ちこぼれだ。つまりは多くの人から侮られ、蔑まされた存在。

 仮に私が本当に誰かを脅し、ルナに危害を加えるように命令しても殆どの人は従わないだろう。むしろその発言を逆手にとられてより追い詰められるに決まっている。


 まぁ、何もしなくても好き勝手言われるけどね。


「そ、そんなのわからないじゃない……」

「ええ、だからスカーレットレイク嬢の提案はとても理にかなっています。彼女に脅されて貴方に危害を加えたと他に証言する人がいるなら、連れて来てください。その人の家柄やスカーレットレイク嬢との関係性、どのように脅されたかなど全て聞き出して徹底的に調べましょう」


 ルナは見るからに焦っていた。

 そして沈みかけた船にのっかかってしまった塩内さんも、同じく絶望したようにルナを見ていた。


(……何があって、彼はルナの肩を持ったのだろうか)


「僕も賛成だ。ついでに君には聞きたいことがあるからね」

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