強引な断罪 ー2ー
「………………え?」
私の態度が一変したので、ルナ達だけではなく、その場にいた全員がポカンとしていた。
「どうやらあなた達は勘違いをしているようです。私は嫌がらせなんてしておりません」
「そ、そんなはずありません!言い逃れなんてしないでください!!」
「ではまず、どうして私を疑っているのか。その理由をお聞かせください」
「え、そんなの……今まで通り、の、ことだから……」
「うるせぇ!お前がルナの教科書を破いたり、物を隠したりしたんだろ?!」
しどろもどろになってまともな回答が返ってこないルナと、ずっと私が悪いと大声で叫び続けるルハーニ。
「それに俺はこの目で見ている!学園祭のとき、ルナを第二体育館に閉じ込めて男をけしかけ、危害を加えようとしていたところをな!」
その前に俺が彼女を助け出したんだ!とルハーニは自慢げに話している。
そんな彼の姿に苛立ちを感じるが……それ以上に焦った。
まさか今ここで、学園祭のイベントについて触れられるなんて思わなかった。
私たちのやりとりを興味津々で眺めている野次馬たちは、ルハーニの言葉を聞いてざわつき始める。彼の言葉を真に受けて、私のことを睨んでくる人だってでてきた。
全く……ルハーニの言葉をすぐに信じるなんて純粋すぎじゃない?それともこれが人望の差とかいうのだろうか。そしたらここの人たちは見る目がなさすぎる。あんな暴力男のことを信じるなんて。
けれどこの状況は少し不味い……。
確かに第二体育館での私たちの姿は、ルナに危害を加えようとしていたと誤解されても仕方のないものだった。
でも、ルハーニが私たちの話に耳を傾けてくれる人だったら、誤解は解けたはず。
そうなると、今ここでルナが私のことを糾弾しようとしているのは、本気で嫌がらせの犯人が私だと考えている……ということになる?
なんだか芝居がかったセリフも言っているくらいだし、もしかしたら私の中身が悪役令嬢じゃないってこともあのとき伝わらなかったのかも。
それにしたって、こんなに人がたくさんいる場所で責めようとするなんて……。
(……でもおかしいな、ゲームにこんなイベントはなかったはず)
私が覚えている限りの記憶では、学園編でのミラの最後の姿は結構呆気ないものだった。一応戦闘イベントはあるのだが、多分これは冒険編の導入のためのチュートリアルみたいなものだったのだろう。
だって、主人公と攻略対象だけの2人パーティで倒せたから。
そしてその戦闘に主人公たちが勝利すると、ミラはその現場を教師に見られて連行される。そしてモノローグで簡潔にミラは罪に問われ国外追放になったと明かされただけだった。
あまりにもミラの処遇がサラッと流されて過ぎていて、それが断罪イベントだとは思えなかった。
するとやはり、これは何か別のイベント……?
そしたらこのイベントの流れは完全にわからない。
そもそもイベントなのかどうかすらもわからない!
「黙ってるってことは、やっぱり図星なんだな?」
ルハーニはこちらを嘲笑っている。
さて、この状況をどう切り抜けるべきだろうか。
「まぁ、お前がなんと言おうがこっちにはその証人がいるんだよ。言い逃れなんてさせねぇぞ」
「証人……?」
「おい!こっちに来い!」
自分の後方に向かって、怒鳴るように吠えるルハーニ。その場にいた全員が、彼の視線と同じところに眼を向けた。
「————ッ!」
証人と言われ呼び出されたその人は、ジーク・ギルシリ——塩内さん——だった。
塩内さんは、その大きな身体を縮こませるようにして私たちの元へ歩いてくる。目をウロウロと彷徨わせて、私のことを一切見ようとしない。
「こいつが全部白状した。学園祭での件も、これまでの件も……そしてルナの命を狙ったのも、全部お前からの命令だったってな」
「なッ!」
「あ、俺は……」
彼がそんなことを言うはずがない。
なんだかオドオドしているし、もしかしたらルナ達に脅されているのかもしれない。
「しお……ジークさん!そんな人たちの言いなりになる必要はないんです!」
「は?!お前がこいつを唆してたんだろ?!」
「……お、俺は、その……」
「こんな話の通じない人たちの言うことなんて、」
「違うんだ!!」
突然、塩内さんが大声を出す。
「ぜ、全部……本当だ!俺は、俺はミラ・スカーレットレイクに命令されて、彼女に危害を加えたんだ!」
意を決して出されたその言葉は、私にとって何よりも残酷な言葉だった。
「え………………?し、塩内さん?」
先ほどまでの様子とは打って変わって、彼は私のことを睨みつけるように見つめている。なぜ彼がそんな目で私のことを見ているのかがわからなくて、視界が一瞬だけ白くなった。
「騙されてたんだ!!ルナが教えてくれたんだ!今まで出鱈目なことを言って、俺を惑わせていた!そうなんだよな?!」
何故かルナに同意を求める塩内さん。ルナはそんな彼に対し、頷いている。
「……ええ、そうです。あなたはこの悪役令嬢に騙されていたんです」
「な、何を言っているんですか?!塩内さんが私にいじめの主犯だと疑われているから気を付けろと教えてくれたんじゃないですか!」
「あ、あれは……」
「やめて下さい!これ以上彼のことを追い詰めないで!」
ルナは塩内さんを庇うように前に出る。
そんな彼女の姿を見た周りの生徒たちは、少し感心したように息を漏らした。
なんなのこの茶番劇は……!
ワナワナと拳を振るわせるが、これ以上冷静さを欠いてはいけない。ここで焦ったり怒って声を荒げたりすると、かえって彼らのドツボにハマってしまう。
「……あなた達がそのつもりなら、徹底的に洗い出しましょう。ジークさん、あなたは私からどんなことを言われて、彼女を閉じ込めたのですか?」
「あ、ええと……」
「大丈夫、よく思い出して!どんなことを言われていても、それはあなたにしかわからないことなんだから!」
つまり捏造し放題ってことね。
そりゃ私は最初からそんなこと言ってないんだから。
「そ、そうだな……えっと、“あの子がムカつくから閉じ込めてきて”……って感じ、だったかな」
「……………………」
何そのセリフは?!
もう少しマシな言い回しはなかったのだろうか。
(でも、嘘をつくにしても詳細までは話し合ってなさそうね)
「それであなたが直接ルナに話しかけにいき、体育館まで連れて行ったということですね?」
「いや、それは……」
「私に話しかけてきたのはこの人ではありませんでした!他の生徒から呼び出されて第二体育館に閉じ込められたところ、その中にジークさんとスカーレットレイク嬢が待ち構えていたんです」
「では、あなたを呼び出したという生徒達もここに連れてきてください」
「え……?」
「証人は多い方がいいでしょう?」
ルナは少しだけ焦ったように周囲を見渡している。
周囲の生徒達は、やけに強気な私に少しだけ疑問を抱いているようだ。果たして本当に私がルナを貶めようとしていたのかと、それとも何か策があって言い逃れをしようとしているのかと……勝手に憶測している。
「そんなことしていいの……?あんたにとっては自分の首を絞めることになるんじゃ、」
「別にいいんです。私はその人達にも聞きたいことがありますから」
ルナは知っている。自分を体育館に閉じ込めた犯人——エアリス・ベイリーのことを。その人も私に対して敵対意識を持っていることを。
だからここにエアリスを呼び出しても、彼女はルナと同じように私に濡れ衣を着させる可能性が高い。というか、確実にルナと塩内さんの証言に乗っかるだろう。そしたら私が犯人だっていう証言者が増えて、より立場は悪くなるに決まっている。
でも同時に、ルナもエアリスのことを嫌っている。
だから彼女はエアリス・ベイリーに近付かないし、ましてや私を貶めるために協力関係を築くなんてことはしていないだろう。
塩内さんとは少しだけ話を合わせてきたかもしれないけど、突然第三者が加わったら何を言い出すかわからない。コミュニケーションが取りずらい相手だと、辻褄合わせも咄嗟にはできなくなってくる。
私としては、そっちの方が大変都合が良い。
まぁ、この場にエアリス・ベイリーがいるかはわからないけど……。
(でもこうなってしまった以上、ここで誤解を解かないと——)
「さっきからごちゃごちゃと五月蝿えな。お前がやったって言う証人が既にこっちにはいるんだ。お前が何言ったってもう無駄だ」
「ならもっと確かな証拠をご提示ください。私が主犯だっていう揺るぎない証拠を」
「だから俺とこの男がさっきから言って、」
「——あの、私からも一ついいでしょうか」




