強引な断罪 ー1ー
油断していたと思う。
久しぶりに4人で過ごせたからか、
それとも皆が私を優しく受け止めてくれたからだろうか、
セレナが私のもとに来ることが無くなったからか、
ルナの一件をすっかり忘れていたからだろうか……。
『あの人です!彼女が、私の命を狙ったのです――!』
大声が響いた。
そこにいた大勢の生徒がその声に驚き、その主を見てザワザワと騒ぎだした。かくゆう私もそのうちの1人で、一体何が起きたのかと隣にいたペーシュとともに困惑していた。
しかし次第に人が中央を避けていき、人だかりのなかからこちらを指差す人影があらわになった。
「ミラ・スカーレットレイク公爵令嬢……っ!一体なぜなのですか?!なぜそんなにも私を疎まれるのでしょう……っ!」
「……は、?」
命を狙ったって……、私が?!
突然の名指しとあらぬ容疑に思考が止まってしまう。
「私は……今までミラ様から受けた数々の仕打ちに必死に耐えていました。けれどもう我慢するのはやめます!あなたにはきちんと罪を償ってほしいのです!」
「と、突然何を言っているのですか!ミラ様はそんなことなど一切しておりません!!」
唖然としている私の隣でペーシュが反論してくれた。
彼女の姿にこのまま呆けていてはダメだと自分を叱咤しようとしたが、突然強い衝撃が背後から伝わり、私はそのまま地面に倒れ込んでしまった。
「ミラ様ッ!!!!」
倒れ込んだ私は、そのまま上から何かに押さえつけられ動くことができなかった。肺が圧迫されて、息が苦しくなる。
ペーシュの悲鳴を上げるかのように、私の名を呼んでいた。
もう何が何だかわからない。
「お、おいルハーニ……!それはやり過ぎだろ……!」
「あ?こいつは犯罪者だぞ。それに俺のルナを殺そうとした重罪犯だ。ここで手加減する必要があるか?」
「だ、だけど……ッ!」
「黙ってろ。ルナは俺をナイトに選んだんだ。お前なんかお呼びじゃねえ、そこで指咥えて見てやがれ」
誰かが言い争っている声が聞こえるが、苦しくってそれどころではない。耳の奥がジンジンと熱を持ち始める。
(なに、ほんとに……ふざけないで)
「ミラ様から離れてください!」
「どけ!お前に用はねぇんだよ!」
「キャッ……!」
視界の端に、ペーシュが倒れ込むのが見えた。
その瞬間、私の頭からブチっと何かが切れるような音が聞こえた。
「ん……?」
異変に気付いたルハーニは、私を拘束する力を一瞬緩めた。それを見逃さなかった私は、身体を翻して起き上がり、赤魔法で風を起こして彼を吹き飛ばした。
「ペーシュに手を出すんじゃないわよ……」
ルハーニの体はそこそこ飛んでいったものの、たいした衝撃はなかったのか、彼はすぐに起き上がった。その額には青筋が浮かび上がっている。
「ハッ……!ようやく本性を現しやがったな!いいぜ、ぶっ飛ばしてやるよ!!」
ルハーニの周りに風が巻き起こる。彼の属性魔法は赤魔法だ。そして彼が考える攻撃のイメージは、風なのだろう。それを自身の身体の周りに巻き起こすことで、威圧しているつもりなんだ。
彼は拳ではなく、魔法で対決することを選んだ。そっちのほうが私にとっても都合がいい。
私はもう一度魔力を練り、ルハーニと同じように風を起こす。私にとって攻撃に最適なのは炎のイメージがあるんだけど、彼が風を起こすなら、私も同じように風で対抗する。
目の前の敵は口元に笑みを浮かべている。きっと、私の魔力量が少ないという噂を聞いたことがあるのだろう。私のことを取るに足らない相手だと思っている。
私は、今まで制限していた力を全て出し切るようなイメージで魔力を練る。もうこの身体は、緑魔法で補わなくてもいいくらい強くなっているのだ。だから今の私は、本気で魔法を放つことができる。彼のちっぽけな威圧と私の怒りの差を思い知らせることだってできるんだから。
次第に、周りにいた生徒たちが騒ぎだす。私の様子が今までと違っていることに気がついたのだろうか。
ルハーニも私のことを愕然とした目で見ている。
「お、まえ……何だ、その力は……?」
「ペーシュ、あなたは離れていて」
私はルハーニから目を逸らさずにそう言った。
ここにいる人たちの中で、彼女だけは絶対に傷付けたくない。
私はルハーニを思いっきり睨みつけて、手を前にかざした。
彼は少しだけたじろいだが、プライドが勝ったようで退くような真似はしなかった。すると、ルナがルハーニの隣に移動して彼と同じように私の前に立ちはだかった。
震える彼女の手には、スティックのような物が握られている。
(あれって……ルナ専用の武器だ。どうして今それを持っているの?)
「あなたがここで全てを壊すと言うのなら、私達がそれを食いとめるわ!」
芝居かかったようなセリフを叫んだ彼女に釣られて、アルノー以外の攻略対象達が一斉にルナの隣に並んだ。
その光景があまりにおかしかったため、私は馬鹿馬鹿しくなって魔法を収めた。
「嫌です。私達は会話ができるのですから、話し合いでの解決を望みます」




