彼の夢
「ここまで付き合っていただき、ありがとうございます」
あれから少しだけ調べてみたのだが、アルノーが話してくれたこと以上の収穫はなく今回はこれで解散となった。
進展はあったようでなかったような気がする。
秋が終わり冬の訪れを感じる季節になった今、日が落ちるのが格段に早くなった。
私たちはゆっくり寮へ向かいながら、話していた。
「アルノー様は他にも調べ物をしていらっしゃいましたが、何を調べていたのですか?」
「ん?あぁ、僕の卒業に向けての最終課題に関する資料を集めていたんだよ。少しわからないことがあってね」
「え!そんな忙しい時期なのに私に付き合ってくれたんですか?!」
「いいんだよ。僕だって図書室に用事があったし、少し煮詰まっていたから息抜きにもなったから」
アルノーが言った卒業に向けた最終課題とは、前の世界にもあった大学の卒業論文のようなもので、アメシティーオーズ学園生活の集大成となる課題だ。多くの生徒は成長した自身の魔法を披露するらしいのだが、レポートを作成して提出する生徒も少なくないらしい。
アルノーの口振から、彼は魔法の実技ではなくレポート作成を選択したらしい。
「よろしければ、アルノー様の課題のテーマをお聞きしてもいいでしょうか?」
「もちろん。僕はこの学園の歴史をテーマにしたんだ」
「学園って……アメシティーオーズ学園?なんというか、意外ですね」
テーマ設定は自由だから全く問題はないと思うのだが、珍しい着眼点だなと素直に思ってしまう。さっきの大学の卒論を例に考えると、自分が通っていた大学の創設とかを調べるってことでしょ?
多くの人はなかなかテーマ選びで選択しないと思うけど……。
それにアルノーは魔法に優れたサラヴァン王国の王子だから、てっきり魔法を披露するのかと思っていた。
「はじめはね……というより、四年生になるまで魔法をただ披露すればいいと思ってたんだよ。けど、君たちに出会えてその考えが変わったんだ」
私が心の中で考えていた疑問に答えるように、アルノーが話し始めた。
「知っての通り、僕はどうしようもない人間だった。でも、ミラの叱咤を受けて周りに目を向けるようになってから様々なことがわかったんだ。今まで惰性に過ごしていた日々を心の底から惜しいと思うほどに……」
「お兄様……」
「アメシティーオーズ学園は、本当にいい学舎だね。これからの未来を背負う僕たちは、ここでいろんな国の人と交流することができる。文化や歴史を学べるだけじゃない。その国に住んでいる人たちと友人になれるんだから」
アルノーは優しい眼差しで、私とペーシュを見た。
「――今、とある国同士で戦争の勃発が予見されているんだ。長い歴史の中で、もうなんど人間たちは争い続けているのだろうね」
戦争……やっぱりこの世界でも起こるんだ……。
あたりまえだと思いつつも、前世で憧れだった世界の事情を知って少し悲しくなる。
「僕はこの負の連鎖を止めたい」
アルノーは、はっきりとした口調でそう言った。マルリーはそんな兄を見て力強く頷く。
「私もお兄様のお力になって見せます」
「ありがとうマルリー。僕たち兄妹で力を合わせれば、きっとこの願いは叶えられるよ」
手を取り合う兄妹は、途方もない目標を達成しようと決意をあらわにした。
人間が争うをやめる日が果たしてくるのだろうか。
しかし2人を前にそのようなことを言うのは野暮である。
「争いを……止める……」
「……?ペーシュ、どうしたの?」
「い、いえ、何でもありません!素晴らしいお考えに、感銘を受けてしまって……」
「あはは、ありがとう。僕がこう思えるようになったのも、みんなのおかげだよ」
「さぁ、もう戻りましょう。少し風が冷たくなってきたから、このままだとみんな風邪をひいてしまうわ」




