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それは手がかりか?

 数日後——。


「それで?ようやく私たちを頼ったと思ったら、調べ物に付き合ってくれだなんて」


 一体何を考えているのかしらとマルリーがこぼす。

 その声には気付かないまま、私はアルノーの話を夢中で聞いていた。





 アメシティーオーズ学園にある大きな図書館。私はここに何度お世話になったことだろうか。


 ペーシュに話を打ち解けた後、私はマルリーとアルノーにも同じ話をすることにした。もちろん、私が自傷行為をしたことはペーシュにもお願いして内緒にしている。

 聞いてて楽しい話ではないし、そこまで話す必要もないと考えたからだ。


 話を聞いてくれたマルリーは、全ての元凶とも言える元メイド長に対して怒ってくれたし、アルノーは合宿訓練のときに私に対して言った言葉を深く悔いていた。

 話した内容はほとんどミラの生い立ちに関する話で、言ってしまえば私とは関係のないことではあったが、彼らがこうして怒ったり悔やんだりしてくれることで、なんだかミラが救われた気がして嬉しかった。


 こうして彼らの反応を見た私は、一つ思ったことがある。

 現状、私が抱える全ての事情を話すことが難しいことには変わりないが、だからといって全て隠す必要もないということもわかった。

 いつか全てを話す時が来るかもしれないし、来ないかもしれない。大切なのは1人で抱えこんで潰れないようにすること。


 だから私は、彼らが協力してくれるというなら、とことん付き合ってもらおうと考えたのだ。


 私が前に考えた、この世界がループするもう一つの仮説。

 この世界には時間を巻き戻すような魔法や道具があって、誰かがそれを使っているのではないかということ。

 塩内さんの仮説は、ゲームというシステムが働く世界に瀕死となった私たちの魂が迷い込んでしまったと考えた上で、ゲームをクリアすることで元いた世界に帰れるのではないかというものだった。

 私の考えは彼のとは違い、やはり私たちは死んでこの世界に転生したのだと考えている。だから、この世界がループする原因はこの世界の原理に基づくものである。

 魔法が存在する世界ならば、そういうものの類が関係していると疑っているのだ。


 早い話、彼らに「時間を戻すような魔法や道具はあるのか」と聞いてみたのだ。

 ペーシュとマルリーは首を傾げたが、アルノーは心当たりがあるかもしれないと言って、一緒に調べようと提案した。

 

 そういった経緯で、私たちはみんなで図書室の学習コーナーまで足を運んだのだった。

 しかし、唯一心当たりがあると言ったアルノーは「探し物をしてくる」と一旦姿を消し、そしてすぐに一冊の絵本を手にして戻ってきた。


「これはなんの本ですか?」

「不死になった魔術師が作り出したと云われる、魔法具について書かれた絵本だよ」

「まぁ!とても懐かしいですね。幼い頃よく読み聞かせてもらったお話だわ。けっこう有名なおとぎ話よ。ペーシュは知ってる?」

「いいえ、そのようなお話はあまり詳しくなくて……」

「あら、そうなのね。国によって違うのかしら」


 私は、アルノーから絵本を受け取るとパラパラとページをめくってその話を読んでみた。

 死者の魂を閉じ込めるカンテラ……、見た者のあり得たかもしれない現在を映し出す鏡……、“時間を巻き戻す水晶“!


「これ……!」


 その文字を見た途端、私は鳥肌が立つのを感じた。


「で、でもこれって実在するんですか?」

「作り話だから、本当にあるとは思えないわ」

「いいや、もしかしたらそうではないかもしれないんだよ」


 マルリーがさすがに実在はしないのではないかと言ったが、それをアルノーが否定した。その声があまりにもはっきりとしたものであったため、私たちは一斉にアルノーの顔を見る。


「今から約1000年ほど前に、アウレリオン帝国という国が存在していたと云われていてね。その国が所有していた秘宝の中に、この水晶があったと記している書物があるんだ」

「え……!」

「ここの図書室に、その書物を複写した本をこの前見つけてね……あった、これだ」


 アルノーは本棚を一瞥すると、すぐに目的の本を見つけそれを手に取った。

 その本のタイトルは『悲劇のアウレリオン帝国』と書かれていた。


「この本によると、アウレリオン帝国は当時世界で一番名を馳せた帝国だったといわれている。宝物庫には世にも珍しい宝がたくさん保管されていたらしいんだ」

「ではその中に水晶があったと?」


 しかし1000年前って……そんなに昔の話をどうしたらいいのだろうか。仮に本当に水晶がその帝国にあったからといって、探しに行こうと簡単には言えない年月が経ってしまっている。

 まさに伝説の魔法具だ。


「アウレリオン帝国は一体どこにあったのでしょうか」

「うーん……実はよくわからないんだよね。いくつかの歴史書にはその存在が記されてるけど、戦争によって残った書物は僅か。それに水晶について書かれているものはこれだけなんだ」

「アルノー様は、本当にこういった物が存在すると思いますか?時間を戻すなんて――」

「よく聞いてくれたね!この魔法具たちの存在を否定する人たちは多いんだけど、僕は本当に実在したと思ってるんだ!とくに鏡については一番可能性が高いと思っててね、その鏡だけ他の絵本で大々的に描かれてるんだ。噂ではそれを実際に見たことがあるといっている人たちが度々いるんだけど……」


 突然、アルノーのテンションが上がり、彼は嬉しそうに伝承の魔法具について語り始めた。早口でたまに何を言っているかわからないが、彼にとってこの話題は大好物らしい。

 私と同じくペーシュもアルノーの変わりように驚いていたが、マルリーは1人だけそういえば……と悠長に過去を思い出しているようだった。


「忘れていたけど、アルノーお兄様って昔からこの手の話が大好きなの。その鏡の絵本の話も昔からよく聞かされてたわ」

「どんなお話なんですか?」

「ちょ、ちょっと2人とも、アルノー様を止めてください!」


 それから30分ほど経って、ようやくアルノーの話が終わった。最後のほうに至ってはもう彼を止めることも諦めてしまい、むしろ人ってあんなに早口で休みなく喋れるものなのかと感心してしまうほどであった。


「ごめん……こういう話が昔から大好きで、つい熱くなっちゃったよ」


 アルノーは恥ずかしそうに笑っている。多分彼は、前の世界でいう都市伝説とかそういった類の話が好きなのだろう。

 しかし、時を戻すような魔法具が存在するかもしれないということが判明したが、その存在はおとぎ話のように不確かな物で、探すことも難しいだろう――ということが今回わかった。


 私はもう一度、3つの魔法具について書かれた絵本を読んでみる。


 “時戻しの水晶――今を否定し、あり得ぬ望みを叶える魔法の道具。しかしその代償に、己の魂の一部を損なう――“


 絵本には、死を克服した魔術師がその水晶を抱え上げるような絵が描かれている。彼は――いや彼女か?――はどうしてこのような魔法具たちを作り出したのだろうか。


(“魂の一部”……?)

 

「それで?知りたかったことは知れたの?」


 マルリーが絵本を覗き込みながらそう言った。

 彼女の顔には、“こんなことを知ってどうするのだ”とありありと書かれている。


「……もしもの話なんですけど、もしこの道具を使って何回も時間を巻き戻している人がいるとしたら、どうしたら止められると思いますか?」

「やけに具体的ね……。でも、最終的には何もしなくてもいいんじゃないかしら?」

「え、どうしてですか?」

「だって、繰り返すたびに代償を支払わなければいけないのでしょう?使用者の魂が無くなるのを待てばいいんじゃないかしら?」


 確かに……ッ!

 でもそれだと結局は複数回のループは必須になるから、今回の時間軸で解決すると決まったわけではない。

 

 この前塩内さんが5回くらいループを体験していると言っていたから、最低5回は繰り返しているとして…… だいたい一回分でどのくらいの魂が代償となるのだろうか。

 一部ってどのくらい?というか、魂という大きな代償を支払うことが書かれているのに、そんなに何回も、ループするくらい使ってもいいの?


(うーん、有力な情報ではあるけど、結局は私がどうにかできるような話ではないなぁ……)


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