私の愚かな過去 ー1ー
【注意】
今回の話には自傷行為を連想させる描写があります。
苦手な方はご注意ください。
この世界には、どうしてスマホや録音機が無いのだろうか。
前の世界にあった文明が、ここまで恋しくなるとは思わなかった。
あらぬ噂をかけられた今、無実を証明するのに一番手っ取り早いのは真犯人を暴くこと。つまりルナを虐めている生徒を私が見つけ出すことだけど、それがまた難しい。
例えばルナが虐められている現場を見つけたとして、その目撃者が私しかいなかった場合、私が「あの人がルナさんを虐めていました」と声を上げても、誰も信じてはくれないだろう。
そしたらこの世界って、他にどんな手段で真実を証明したらいいのか。
わかりやすいのは多くの人にいじめの現場を目撃してもらうこと。できれば犯人が、ルナのことをどう思っているのか嬉々として語ってくれていたら最高。本心で言ってるなって一目でわかったら、誰も疑いようが無いから。
言ってしまえば、それ以外は全部私の仕業って思われそう。
これほどまでに人望がないと何が何でも私のせいって考えられそうで、頭痛がしてくる。考えすぎだろうか。
それに私の悩みはこれだけじゃない。
もっと大きな悩みはループのこと。本当なら、こんな噂話は無視したいくらいなのに……。
「ミラ様、お待たせ致しました」
「!、ペーシュ……」
そうだ、今日は久しぶりに魔法の練習をしようって約束してたんだった。
最近は何かと練習ができていなかったし、いろんなことを考え過ぎて気が滅入ってしまいそうだったから、気分転換も兼ねてって。
(あんなに憧れだった魔法が使えるってのに、練習をサボっていたなんて勿体無い)
今日の魔法練習は、ペーシュと2人きり。
今の私は噂を払拭するために、一人行動は避けなければならない。だから、そんな私にいつも付き合ってくれるペーシュには、心の底から感謝している。
なんだかんだペーシュと2人きりで過ごすことも久し振りなので、この状況が少し嬉しかったりする。
「なんだかお疲れのようですが……」
「平気。確かにちょっとだけ疲れてるのかもしれないけど、倒れるまではいかないから」
「………………」
ペーシュは何か言いたげな様子だったが、私は早速練習を始めた。そうだ、今日はこの気持ちを吹き飛ばすためにも、豪快に赤魔法を使おう。
目標に向かって、ドカンと一撃。続けてもう一撃。
それを何度か繰り返す。
多少気持ちはスッキリしたが、その反動か身体がズシリと重くなるような感覚がした。
ふーッと息を吐くとペーシュが私にお菓子を渡してくれる。
なんだかこのやりとりも懐かしい。
「ミラ様は……どうして急に魔法の練習をそこまでこなすようになったのですか?」
無心でお菓子を頬張っていると、ペーシュが突然そう問いかけてきた。口の中に食べ物が入っていたのですぐに返答はできず、慌てて飲み込む。
そして同時に、どうしてそんなことを聞くのだろうと疑問に思った。
もしかするとさっきまでの私の態度は傍目から見るとすごい乱暴で、ペーシュがそんな私を見て居心地の悪さを感じていたとか?それで、なんとか話題を絞り出そうと……?
やだ、ペーシュをそんな気持ちにさせていたなんて!
「えっと、そうね……。やっぱり、魔法が使えるなら使いこなせるようになりたいって思ってたから、かな。昔から魔法が使えるようになるのが夢だったから、」
ペーシュを不安な気持ちにさせていたかもしれないという罪悪感から、焦って自分が何を言っているのかがわからなくなる。最後の方は、完全に高橋奈々としての願望を口にしてしまった気がする。
いや、それが全てで魔法の練習をしているのだから何も間違ってはいないけど、魔法が使えるのは当たり前であって……。
「えっと、つまり――使いこなしたいの!ほら、私ってこんな力を持っていたじゃない?この力があれば皆んなが私のことを認めてくれるかもしれないし――」
自分で喋りながら、なんで私はこんなに焦っているのだろうかと心の中で思った。
わけもわからず早口になる私に、ペーシュが驚いたようで少しだけ目を見開いていた。
「突然こんなことを聞いてしまってすみません。少しだけミラ様のお心変わりが気になっただけなんです。一年生の頃のミラ様はあまり魔法には関心がなかったように思われて――」
私も以前、ミラの自室にあった新品同然の教科書を見て、彼女はあまり勉学に励んでいなかったのではないかと思ったことがある。こうしてペーシュにも言われるくらいなのだから、やっぱりそうだったんだろう。
多分ミラのモチベーションが低かったのも、そもそも魔法が満足に使うことができなかったのも仕方がないことなんだけど、それは他人からは知り得ないことだ。
だから、落ちこぼれ同然だった人が突然やる気を出して魔法の練習をし始めたことには誰もが驚いたのかもしれない。ペーシュが、私にそう尋ねてくるのにも頷ける。
実際は心変わりどころか、中身丸ごと別人になってしまったんだけどね。
しかしこのようなことを質問したということは、ペーシュは一年生の頃のミラを知っていたんだ。
「昔の私って……ペーシュから見るとどんな感じだった?」
「…………正直に申し上げると、いつもとてもお辛そうにしていました……。今思えば、ご自身の体力を緑魔法で補わなければならなかったのだから当然だと思います。申し訳ありません……もっと早く、私があなたに声をかけられていたら……」
「どうしてペーシュが謝るの?あなたのせいなんかじゃこれっぽっちもないのに」
やっぱりペーシュって、優し過ぎる。
自分には関係のないことなのに、何がなんでも自分の責任だと考えてしまうなんて……ここまでいくと、彼女の性格を“優しい”の一言で片付けていいものなのかしら。
「私は、もう大丈夫なの。あなたのような信頼できる人たちに出会えたから――」
「ミラ様……」
堪えきれなくなった涙をとめどなく流すペーシュの頬に、そっとハンカチをあてる。ペーシュは小さな声で申し訳ありませんと言うが、私からすればようやく年上らしいことができたと思うくらいだ。
むしろ、今はその涙が私にとっては暖かい。
「少し冷えてきたから、今日はもう寮に戻りましょう」
ペーシュの気持ちが落ち着いてきた頃を見計ってそう声をかけ、立ちあがろうとした。
もうすっかり秋めいてきて、風も冷たい。
けれどもペーシュは私と同じようにベンチから立ち上がらず、代わりに私の袖を軽く引っ張るのだった。
「ペーシュ……?大丈夫?」
「――ミラ様、私は……ミラ様が他者に弱みを見せない人であることを知っています。ですが、そんなあなたが今何かにお悩みになっていることも知っています。この前お話してくださった、ルナさんに関する噂のことだけではありません。それよりもっと大きなお悩みを抱えているのではないですか……?」
涙を拭うのも忘れ、ペーシュが私を見上げている。
その表情は悲しそうで、何かを懇願しているようであった。
「と、突然どうしたの?そんな悩みなんて……」
無いことも、ないけど――と心の中でこぼす。
確かに厄介でどうしたらいいのかわからないことだらけだけど、不思議と私はそこまで追い詰められているわけでは無いのだ。一緒に問題を解決しようと協力する仲間もいるし、何より私の心の支えである友人たちがいるんだから、辛くてどうしようもない、なんてことはないのだ。
むしろペーシュの方にこそ何か悩みがあるのではないかと考え、そう聞こうとした。
しかし私が質問する前に、ペーシュが掴んでいた私の袖をそっと捲り、私の手首をあらわにした。
「………………え」
そこには傷があった。
赤黒い線が、横に数本刻まれている。
身に覚えはなかったが、以前の私がよくつくった傷だった。
幼い頃の私がやっていた、どうしようもなく愚かな行為の証だった。
【お知らせ】
本日より投稿を再開致します。
長い間投稿できず、大変申し訳ありませんでした。
今後ともよろしくお願いいたします。
投稿停止中、「現状を打破する方法を考えろ ー2ー」の改稿を行いました。




