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【小噺】3年ぶりの帰郷 ー2ー (アルノー視点)


「今でこそ、この国は平和そのものだが、かつてはそうではなかった。特に私のお祖父様……先先代は各国で発生する争いに巻き込まれぬよう、そしてこれ以上世界が混乱に陥らぬよう常に気を張り巡らせていた。なんせお祖父様の前の代は、積極的に戦いに参加するような先祖ばかりだったからな」


 先先代の話は僕も知っている。

 僕にとって曽祖父にあたるその人は、この国では平和の象徴として称えられている。


「私の父は、お祖父様のことをとても尊敬していてね。随分若い頃から後を引き継ぐ覚悟をしていたそうなんだ。だか、私が覚えている父の姿は、彼の頭の上にのせられた王冠に押しつぶされそうになっていて、最終的には鬱になってしまったんだ」


 少しだけ、驚いた。

 先代の……僕のお祖父様は、僕が生まれる前に亡くなっていたということは知っていた。当時はそんなに気にしていたことではなかったけれど、精神的に追い詰められていたのなら病気が原因ではなかったのかもしれない。


「そんな父の姿を見てから、私は、玉座が呪われた椅子に見えた。そのうち自身の国に積み重なる問題だって嫌でも理解するようになり、それを押し付けられる未来に鬱屈とした思いを抱えるようになった」

「…………逃げたいと、考えたことは?」

「私には兄弟がいなかった。何より、そう考える前に色々と置いていくことができないものも増えていたからな」


 ハハハと父上が笑い、僕の頭を乱暴に撫でた。

 そして彼は、窓の外に広がる遠い景色を見つめた。


「子どもができて、真っ先に“お前たちを苦しめるものを無くしたい”と思った。全てを取り除くことは決してできないが、せめて私たちが抱えている問題を全て押し付けることがないように……と」


 何より私が考えていたように、いつかの子孫たちに“先祖たちは何をしていたんだ”と言われたくないからな!と父上は口角を上げながら言った。

 父上はそうして笑っていたが、一呼吸おいて真剣な眼差しで僕を見つめた。


「どの時代に、どのような環境で生まれてくるかなど我々は選ぶことはできなかった。これから誕生する命もそうだ。全ての人間は生まれた瞬間から祝福と業を与えられる。これは決して逃れられることができない運命だ」

「では……僕が今まで考えていたことは、許されないことだったのですね……」

「いいや、そんなことはない。大切なのは運命とどう向き合っていくかだ。目を逸らすことも、受け止めることも一つの方法だ。だが忘れてはならないことは、自分とは無関係だと考えないことだ」


 無関係……そんなことを考えたことはなかったはずだ。

 むしろ国王になるのが嫌だと考えていたからこそ、その運命をずっと見つめていたと思っていたのだけれど……。


 でも、僕はそれならなんと言っていた?

 僕の代わりはマルリーでも大丈夫だからって……それは、そもそも僕でなくても、僕じゃないほうがって……考えていたから……。僕がやる必要はないって考えていた……から。


(……………………)


「業を背負わされた子どもは、やがて大人へと成長し先祖が残した問題を扱う当事者となる。そして今度は、自分たちの子どもに業と祝福を与える立場になるんだ。歴史はこうやって繰り返される」


 重い息を吐き出す音が聞こえた。

 父上か、母上か。

 そしてスウッと息を吸い込む音も聞こえた。


「――――だから、アルノーは立派だ!さっきも言ったが、私がお前くらいの歳の頃は、自分の役目とかそんなことを一つも言ったことがないからな!」

「あなたったら、全く……」


 張り詰めていた空気が、パチンと弾けるように明るくなった。そういえば、僕はずっと母上に抱えられていたような気がする。流石にこの歳になって、母の腕に抱かれ続けるというのは恥ずかし過ぎる。

 

 それにどう考えてもこの状況は、幼い子どもが親に慰められている場面じゃないか。本当に、情けないや……。

 ……情けないけど、心の中は温かい。


「今回の話をアルノーがどう受け止めるかはお前次第だが、王ではなく親としての助言だ。特に王族である我々は、行動の一つ一つに大きな責任が発生する。自分の行動には、常に関心を持っておきなさい」

「…………はい」





 さて、そろそろアルノーも休んだほうがいいだろうと父上が言った。母上は涙で顔が濡れてしまっているようで、顔を隠しながらいそいそと部屋へ戻って行った。


「アルノー?お前はまだ戻らないのか?」


 それでも席を立たない僕を見て、父上が心配そうにしている。

 

 僕は、この部屋の周辺に人がいないかと耳をすませ、物音が聞こえないことを確認してから口を開いた。


「実は……父上にもう一つ聞きたいことがあります」


 僕がサラヴァン王国に帰ってきた理由は、もう一つあった。

 主たる目的は、両親に僕の近況を話すことだったが……それとは別に重要なこと。重要だと僕が考えていること。


「父上は、黒いオーラについて何か知っていますか?」

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