疑惑 ー1ー
アメシティオーズ学園では、5月下旬に中間試験がある。
勉強に対するモチベーションは魔法よりは高くはないが、だからといって適当にこなすわけにもいかないので、しばらくは魔法の勉強ではなく普通にテスト勉強をした。
前世の自分、高橋奈々として考えてみるとテストというものがひどく懐かしいもののように感じる。
そして今回の中間試験は、ゲームの中では主人公ルナが初めて受けるテストだ。
ここでのテスト結果は、普通にプレイをすると、大抵は真ん中の順位かそれより下くらい。ここからのスタートを経て、ルナの成長を他者にも見せていくためである。
ただし、この中間試験を受ける前に学力全振りでステータスを上げていくと、上位の成績を収めることができる。この方法をとると、「勉強頑張った!」というセリフは聞けるけどそれ以外が何もできていないので、もちろん攻略対象との関係値は更地のままだ。
この前、私は攻略対象のうちの1人フランツと一緒にルナがデートしているのを目撃している。つまりルナは学力より恋愛をとっていて、多分フランツ攻略に力を入れているのだろう。
“The sound of the bell ”――私は“鐘”と呼んでいる――には逆ハーレムルートはない。
だからルナの成績は、下位だろうと読んでいたのだが――。
『嘘でしょ……あの平民が学年トップなんて……』
『カンニングでもしたのでは……?』
『ありえない……』
他の貴族たちはザワザワと騒ぎながら、掲示板に貼られた今回の中間試験の結果を見ていた。
それを見て私も愕然とする。
「すごいです……。ルナ様はとても優秀な方なのですね」
隣で一緒に結果を見に来ていたペーシュが感心してそう呟いた。
すごいことだけど……この時期から学年トップなんて本来ならありえないことだ。まぁでも、あくまでゲーム進行のシステム的にそうであっただけで、現実がこのようになる可能性だってあるか。
現に私が前世を思い出したことだって、ゲーム上はありえないことなんだし。
「彼女を見習わなくてはなりませんね」
「そうは言っても、ペーシュ様だって学年順位5位ではないですか」
「ふふ、それはミラ様が教えてくださった“語呂合わせ“という勉強法のおかげです」
私の成績は……まあ、そこまでひどくもなかった。
今はルナのことが少し気になる。
他の生徒に詰められていたことや、恋愛ストーリの早い攻略。それに加えてテストも難なくこなすステータスの高さ。
あまり関わりたくないと思ってたけど、場合によっては面倒なことになりそうな予感がする…………。
中間試験が終わったので、いつものように魔法の練習をしようと思ったら、ペーシュがしばらくは図書委員の仕事があるので一緒に過ごすことができなくなるそうだ。
なんでも、返却処理チェックというものをしなくてはいけないらしい。図書室にある全ての蔵書を対象に、返却処理がきちんとできているか確認しなくてはいけないらしく、図書委員の人達は総出で取り組むとのことだ。
ペーシュは割り振られた分はすでに確認を終えているのだが、その仕事の早さゆえか、追加で仕事を任されたのだという。なんでも、図書委員のうちの1人が休学しているらしく、人手が足らないらしい。
これからしばらく、ペーシュと一緒に過ごせないことに残念な気持ちになる。
しかし返却処理チェックというものは、図書委員の人たちにとってとても重要な仕事らしく、これを絶対に完了させなければいけないのだという。「自分の仕事は終わったので、やりません」は通じないらしい。
ペーシュなら、絶対にそんなことは言わないけど、
そこで私は、ペーシュと一緒に過ごせないのなら、1人で過ごす時間を有効活用しようと考えたのだ。
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現在私は、ルナの尾行を追っている。はじめは1人で魔法の勉強しようと思ったのだが、どうせならルナについて少し調査をしようと思った。
ペーシュがいる前でこのようなことはできないし、ゲームと同じように因縁づけていると思われるのも嫌だ。この1週間はペーシュに気付かれずにルナの動向を知るチャンスだ。もしかしたら、ルナがゲームではあり得ないような攻略を見つけて、ステータスを上げているのかもしれない。もしそうだったら、私も真似をすれば幾分かの成長ができるではないだろうか!?と考えて尾行することにした。
そうして3日が経った。
その間、ルナはステータスをあげるようなことを何もしてないことがわかった。
細かにいうと魅力上げのような行動はしていたのだが、学力や体力を上げるようなことは全くしていない。
大体の時間は攻略対象と共に過ごし、放課後に街へお出かけデートをしていた。そのおかげで攻略対象である男性たちからの好感度は、本来のゲーム進行よりも高い。
加えてわかったことは、ルナはほとんどの時間を色々な男性と過ごしているため、他の女性からの妬みが凄まじいことになっている。
まぁ、攻略対象は他国の王子様や公爵家の御令息ばかりなので、身分を気にしている人からすれば、ルナが無礼者として見えるだろう。
(しかしこうして考えると主人公って玉の輿だったんだ
な……)
そして他にも気になることがあった。ルナを見ているといつも目が合う人がいるのだ。
最近のルナはとある人を一点集中で攻略をしているようなのだが、その様子を私と同様に物陰から見ている人がいる。
攻略されている男性の名前をどうにか思い出すことができたのだが、物陰から見ている人はその男性に関わりのある人なのだろうか。
その攻略対象の名前はアルノー=イヴァン・カプール。こんなくそ長い名前を自力で思い出せるわけがなく、周りにいた人たちが勝手に言っていたのを「そんなんいたな」で思い出した。
アルノーは、魔法技術に優れた国の第二王子だ。
そんな国出身の王子様なので、もちろん彼も魔法を扱うのが上手く、魔力量もチート級の主人公と肩を並べられるくらいだ。
アルノーの属性魔法は青魔法。彼の育成が上限突破すると味方全体に超強い結界を張ることができるので、結構心強かった。
見た目は紫がかった暗めの髪色にメガネキャラ、そして無表情である。
誰がどう見たってクールキャラだと思うし、私もそう思っていた。
(ゲームパッケージの表絵ではメガネクイってやってたしね)
だけど関係を進めていくと、彼の裏の顔がわかる。
クールキャラ好きな人には賛否両論だったけど、その裏の顔に関しては私はどうでもよかった。
今気になるのは、ルナとアルノーの様子を睨みつけるように見ているあの女の子だ。
アルノールートにそんなキャラがいたか全く覚えていなかったので、始めはモブキャラかと思ったが、そうでもないらしい。
最近では目が合うたびに私のことも睨んでくるから、そろそろ顔を覚えられたのかもしれない。
ルナのことについてはまだ全然わからないが、厄介なことにも巻き込まれたくないので、そろそろ教室へ戻ろう。
「ちょっとそこの貴方!」
聞こえないふり、聞こえないふり……。
「そこの貴方よ!背が低くてマスタードみたいな髪色をした貴方!この私を無視しようなんていい度胸しているわ!」
どうやらダメみたいだった。
周りの生徒の視線が痛く、どう見てもみんな私を見ているから知らんぷりはできないだろう。
「なんでしょうか」
「まぁ、なんて礼儀のなっていない人なのかしら!この私に話しかけられたらまずはお辞儀をするものよ!」
この傲慢そうな口調の女の子、さっき私のことを背が低いと言っていたが、今私とほぼ目線が合っている。つまりミラと同じくらいの身長というわけだが、なんというか、一部の人からえらい受けそうな見た目をしている。
黒檀のような色をした髪を赤いリボンでサイドに結んだ、いわゆるツインテールというかわいらしい髪形に加えて、猫目のように吊り上がった大きなピンクの瞳。
高飛車ロリッ子キャラか、ミラと少しキャラ被りしていないか……?
「これは失礼しました……ところで貴女様のお名前をお聞きしてもよろしいでしょうか」
「この私のことを知らないなんてッ……ふん、まぁいいわ教えてあげる。わたくしはサラヴァン王国の第一王女マルリー=ラザウェラ・カプールよ。覚えておきなさい」
「それで王女様は私に何の御用でしょうか」
「ちょっと!本当に礼儀がなっていないわ!わたくしから名乗らせた挙句、貴方は何も言わないつもり?!」
「申し訳ありません。私の名前は」
「まぁ、そんなことはどうでもいいのだけれど」
可愛くない子だこと……!
名乗れと自分で行ったのに、発言を被せてくるなんて。高橋奈々としての精神年齢で考えると、この子より10歳以上年上であるが、大人げなくなってしまいそうだ。
しかし貴族とやらの礼儀がよくわからない。
それとなくぺーシュに聞いてみようかな。
「ちょっと聞いていますの?!」
「え?」
「貴方って本当にッ…………とにかく!今日の放課後私に付き合いなさい!」
王女サマはそれだけ言うと、ふんッと言ってどこかに行ってしまった。
後ろ姿を見るだけでもプンプンと怒っているのがわかる。
これは間違いなく、面倒ごとに巻き込まれたな!うん。




