厄介ごとは続く ー2ー
セレナはずっと笑顔を絶やさないまま、私を婚約者に選んだ理由を話した。あまりにも空っぽすぎる理由に、驚きを通り越して呆れてしまいそうだ。
「でも君って社交界で結構言われててさ、平民とか魔力がないとか性格が暗いとか……だから当時、周りの人間は全く承諾してくれなくてさ」
目の前にその悪評を言われていた本人がいるというのに、セレナは気遣う様子もなく、むしろ笑いながらそう話した。別に“私“は実際にその噂とは関係ないが、セレナはそんなことは知らないはずだ。配慮のかけらもない彼の態度にちょっとだけイラッとしながら、続きの話を促した。
「でも僕としては気が合わない相手との生活は支障しかきたさないってわかってるからさ、埒があかなくてこう宣言しちゃったんだよね。最初に婚約者候補を辞退した人を婚約者として迎えますって」
いやいやいや、それはおかしい。
なんで辞退した人を婚約者として迎え入れるんだ。消極的すぎる人を迎え入れてもダメでしょ。
ふつうに次期皇妃の座をかけたバトルロワイヤルで優勝した人を迎え入れた方が良くない?血気盛んな人達なんでしょ?国のために尽力してくれるんじゃない?
私を巻き込まないで。
「婚約者候補から降りる人って何らかの理由で自分が皇妃になれないと判断したからってことですよね?それこそ病気や怪我とかだったらどうしたんですか?」
「そこはちゃんと調べるつもりだったよ。まぁ、君が一人目だったことには変わりないけどね」
「さっきも言いましたが、私は婚約者候補だったことも知らないし、知らなかったから辞退すらもしてません。私が辞退したとあなたが聞いたのは何か手違いなどがあったからでは?」
「君が婚約者候補を辞退すると報せがあったのは、今年の8月ごろ。約2ヶ月くらい前のことだね。今まで君が何も知らなかったということは、スカーレットレイク公爵の独断だろうね」
「………………」
つまり、公爵が勝手にミラを婚約者候補に推薦して、勝手に取り下げたってこと?でも、もしかしたらミラが幼少期の頃には少なからずこのような話は聞いていたかもしれないから、勝手に推薦したという点についてはまだわからない。
……いや、こんなことはどうでもいいか。
「お断りします。私に務まりません。きちんと国を担うという意思のある人を婚約者にしてください」
「そんなに畏まらなくても、僕一人でもこの国の管理は務まるよ。君は何もしなくていいっていうか、だから気が強い子は嫌なんだけどね」
「…………色々言いたいことはあるんですが、とにかくお断りします」
これ以上あなたと話していたくないと言外に含ませ、私はこの場を立ち去ろうとした。
「しかし本当に驚いたよ。どうして君はそこまで変わったの?」
聞こえてきた言葉に驚き、振り返ってセレナの方を見た。
セレナは相変わらずの笑顔で、そしてひらひらと手を横に振っていただけだった。
セレナに対する不信感と、そして新たな厄介事の予感を感じ、内心辟易としながら私はその場を立ち去った。
後日、あの時の予感はやはり的中していたのだと頭を悩ませることになった。
あれからセレナは、私をお茶に誘ったりデートに誘ったりとわかりやすいアプローチをしてくるようになった。
彼の行動は誰がどう見ても意中の相手を振り向かせようとするもので、私の友人たちだけでなく学園全体の生徒が注目していた。
なぜならセレナは、噂の留学生……。
もともと彼は自分の身分を偽り、オルデナ帝国の皇太子としてではなく、名も知られぬような辺境の地から来た王子様と言われているのだ。
生徒たちは――とくに女子生徒たちは――突然現れた眉目秀麗な留学生に興味津々である。そしてその編入生の関心を集めている私に対して、嫉妬するのだった。
私は、とにかくこの状況が嫌で嫌で仕方がなかった。
以前はミラを見下す多生徒から嫌な視線を受けたり陰口を言われることがあったが、ルナの振る舞いが注目されるにつれて鳴りを潜めていた。
しかし今の私の状況は、皆が羨望する男性から言い寄られている人。とくにミラを見下していた人たちからしたら格下だと思っていた人が、自分を差し置いてイケメンから言い寄られてるなんて気に食わないのだろう。
どうしたらいいものか、私は頭を抱えた。
セレナは私が何をしていようが誰といようが毎回話しかけてくる。マルリーはそんな私たちを白い目で見てくるし、ペーシュは少し顔を赤くしながら“頑張ってください!“と応援してくれる。
二人には、彼と交際する気は断じてないとはっきり伝えている。でも、セレナの態度が初対面時とは打って変わり、他国の者であるが故、慣れぬ言語をカタコトで発しながら誠実に愛を伝えてくるという白々しい演技をしてくるのだ。
そんな演技を純粋なペーシュは信じきっている。
(まさかこんな演技までしてくるなんて……ッ!)
もちろん彼がこの帝国出身であることに加えて、中身は話の通じない変人であることを知っている私は、その演技にイライラするだけだった。




