いろんな可能性 ー2ー
この世界がループする理由、それはここがゲームの世界だから。プログラムによって決められた条件をクリアしなければ決められたエンディングまで辿り着けないように、この世界もそんな仕組みが適用されている。
私たちはそう仮説を立てた。
あまりにも超次元的な理由だから深く考えていなかったけれど、もしかしたら私たちは、“それがどうして起こったのか”ということも考えなくてはいけなかったのではないだろうか。
(まぁ……塩内さんにこんなことを言っても、「そんなこと考える必要があるのか?」とか言われそうだけど)
この世界は私がもともといた地球とは違って魔法というものが存在する世界だ。元の世界の常識を覆すようなことが起こっても、あまり不思議ではない。
そう考えると、“ゲームだから”とか思わなくてもいいのかもしれない。誰かが時間を巻き戻す魔法を使っているからという、最も単純な仮説も浮かび上がる。
そうすると、何度も時間を巻き戻すことになっても、何かをやり直したいと考えている人がこの世界にいる――ということになる?
その人物を身近な人で考えるなら………………、
…………情報が無さすぎて、いろんな可能性について考えてしまう。はやく原因を突き止めなければいけないのに、空回ってばかりで何も進まない、わからない。
今だって、塩内さんに内緒で他の調べ物をしてみようと判断したが、結局は図書室でそれっぽい文献を探しているくらいだ。本当にこのままでいいのだろうか……。
(何か、そういう感じの記述が載った本が見つかればいいんだけど……)
それか、専門家に話を聞いてみるとか。
でもなんて聞いたらいいのだろうか。
「………………うーん」
「何かお困りですか、レディ」
静かな場所で突然声をかけられる。図書室でペーシュから声をかけられた時のようなデジャヴを感じた。少しだけ驚いたけど、それは表面に出さずに何事もなかったかのように振り返った。
そこに立っていたのは、学園の制服を見に纏った美しい青年だった。
「驚かせてしまいましたか?申し訳ありません」
その男子生徒はニコリと笑いながらそう言った。
その笑顔を見て、(あ、この人のこと苦手かも)と失礼ながら思ってしまった。
彼の見目は、まるで絵本に出てくるような王子様のようだ。そんな彼が微笑んだのなら、思わず見惚れてしまいそうなくらい美しい外見をしているのに――薄気味悪く感じてしまうのは何故だろうか。
「何か?」
しまった、思ったより冷たい声が出てしまった。
しかし相手方は私の態度に気分を害することはなく、ずっとニコニコしたまま私に話しかけてくる。
「いえ、図書室で古書ばかり読みあさっているレディが珍しくて、つい話しかけてみたくなっただけです」
「……少し、昔のことに興味があっただけです」
世界を巻き戻すような魔法が果たしてこの世界に存在するのか調べるために、片っ端から図書室にあった本を読んでいた。いつも読んでいる本ではなく、伝承とかで時間を巻き戻すような話があるのかもしれないと考え、一番初めに古書コーナーを調べていただけだ。
怪しい男子生徒は、そんな私のことが気になったようだ。
もしかすると目の前の男子生徒も昔の時代に興味があり、たまたま調べものをしていた私を見つけて、同士が見つかったと思い話しかけてきたのかもしれない。
もしかすると、こういう話に詳しい人なのかも。
「あなたもこういう分野に興味があるのですか?」
「そうですね……私としてはそこまで興味があるというわけではないのですが」
じゃあなおさら、何故私に話しかけてきたのか。
私はいよいよ不信感を隠すことができず、眉をひそめてしまった。しかし彼はそんな私とは対照的に、もう堪えきれないといったようにクスクスと笑いだした。
「な、なんですかいきなり!」
「あははッ!ごめんよ!僕の微笑みを受けてそんな顔した人は初めてだったからさ。思わず笑ってしまっただけなんだ。そんなに怒らせるつもりはなかったんだよ」
……どういうこと?
まさか彼は、私が笑顔一つで絆されるとでも思っていたのだろうか。
確かにこのくらいの容姿を持って生まれてたら自惚れるのも仕方がないのかもしれないけど、けど…………、
ダメだ。
なんでかわからないけど私、この人のことが嫌いだ。
男子生徒はしばらく肩を揺らしながら笑っていたが、一息ついて次第に笑いを収めていった。大声でゲラゲラ笑っていたわけではないが、静かな図書室だとどんな音でもいつもより大きく聞こえるような気がして、男子生徒が笑っている間は気が気ではなかった。
この人から離れようと思ったのだが、立ち位置が悪かった。
(ハァ、この人邪魔なのよね。おかげでここから逃げられない……。わざわざこんな隅っこで調べ物なんかするんじゃなかった)
多分そんなに時間は経っていないんだろうけど、なんだかこの人と話してから疲れを感じてしまい、私は近くにあった椅子に座った。
すると何故か男子生徒も私の隣に座ってくる。
内心近寄らないで欲しいと思ったので、何故隣に来るんですかと聞いた。
「僕は君と少し話がしたいんだ」
「私は話したくないです」
冷たくそう言い放っても、やはり相手は楽しそうに笑っている。変人……にしか思えない。
「君は僕のこと覚えてない?僕たちは前に会ったことがあるんだよ」
「え……?」
唐突に投げかけられた質問に目を見開いてしまう。「会ったことがある」と言われても、こんな変人に見覚えはない。一度会ったら普通に怪しい人物なので忘れないと思うんだけど。
もしかして私がまだミラになっていない昔のことを聞いているのだろうか。そうだったら、流石にわからない。
「ごめんなさい。あなたが誰なのかわかりません」
男子生徒は小さく肩をすくめた。しかしその表情には落ち込んでいる様子はない。なんだか、口調も仕草も始めよりだいぶ軽くなっている気がする。
「まぁ、それは仕方のないことなのかもね。ここできちんと挨拶をするよ。今後君とは仲良くやっていくつもりだからね」
「は、ぁ……?」
彼はスッと立ち上がり、ひざまずいて私の手を取った。
あまりに自然な動きだったから、私はすぐに反応することができなかった。
唖然とする私に、男子生徒はにこやかにこう言い放った。
「僕はオルデナ帝国の第一皇子、セレナ・オルディナリウス。愛しき我が婚約者殿、どうかこれから末長くよろしくね」
「……?は、ハァァァァァ?!!!!!!!!!!!」




