いろんな可能性 ー1ー
学園祭が終わった。
私と塩内さんはルナの来訪を待った。けれども彼女は、あれから2週間が過ぎたあとも私たちのもとに訪れることはなかった。
もしかしたら私たちを探していたけど、学園が広くて見つからなかったのかも――という可能性を考慮し、彼女の様子を遠目から窺っていた。しかし、ルナはいつも通り過ごしていて私たちのことはすっかり忘れているようにも見えた。
もちろん塩内さんや私が彼女に近づくことはできない。彼女の周りは、常日頃……と言うわけでもないが、攻略対象たちがひっついていた。特にルハーニに見つかったら今度こそどんな目にあわされるかわからない以上、迂闊にルナに近づくことはできなかった。
そんな彼女の様子を見た塩内さんと私は、今後の行動について話し合った。
「彼女があの様子では、多分協力は得られそうにないですね」
「それなら……これからどうする?言っちまえばこのゲーム、俺たちで出来ることなんてもう無いだろ」
塩内さんの言うとおり、“鐘“は戦闘や冒険要素があるとはいえ本来は恋愛を中心としているゲームである。ゲームの主人公でないと、ストーリを進行しようにもすることはできない。
塩内さんは「ジーク」というゲームでは名前すら聞いたことのない人物になっている。私は悪役令嬢という重要ポジションにはなっているけど、本来はクリアを妨害する敵役だし……。
それに今まで起こった、ミラが起こすはずの嫌がらせイベントは私が何もしなくても発生している。そうなると、悪役令嬢ミラ・スカーレットレイクはストーリー進行上必要不可欠な存在というわけではなかったと考えられる。
学園祭でのイベントは本来の目的どおりに事は進まなかったけれど、収穫が何もなかったわけではない。
先ほども言った通り、私が何もしなくてもゲーム本来のイベントは起こるから、誰かが私の代わりに悪役として存在しているのではないかという疑問が出たからだ。
その存在がどこまでミラの代役として務めることになるのかはわからないが、必然的に考えるならラスボスまで担ってくれルのでは?
全て憶測だけど、現状なにも出来ることがなくなってしまったのなら他の可能性にも賭けてみるほうがいいだろう。
「塩内さん、私と一緒に魔法の練習しませんか?」
「練習?」
私は、さっき考えていたことを塩内さんに説明した。
つまり、これから先も私が何もしなくてもゲームの通りにイベントは発生すること。そして、私の代わりに他の誰かがラスボスとして出てくる可能性があること。
だから、その戦闘に備えて塩内さんも魔法を使って戦えるようにした方がいいのではないかという提案だ。
「確かに、前にあのルナが今までゲームをクリアできなかったと考えられる要因は、冒険編、つまり戦闘面で何かしらの原因があるんじゃないかと考えたが……」
「まぁ、本来“鐘“のクリア目標って、イケメン達を攻略して恋人になることなんですけどね。そこに戦闘要素が加わって、ラスボスを倒さないとエンディングにはいけないって感じになってますけど」
「その敵がいなかったら、そもそも学園編とやらでゲームは終わっていたってことか?」
「幸せな2人を妨害するような存在がなければ、ハッピーエンドまっしぐらだったとは思います」
「それじゃあ、その妨害してくるミラが高橋さんになった時点でもうハッピーエンドじゃないか」
「そうともいかないみたいですよ。現に今のルナは、いろんな人からよくは思われてないようです。ゲームのミラが行っていた嫌がらせが発生している時点で変わらないと思います」
「そもそも、イケメンの兄ちゃんとルナが恋人になって幸せになったらクリアなのか?それならわざわざ2人には冒険なんて行ってもらわずとも、危険から遠いところで幸せに暮らしてもらうってことでハッピーエンドにならないか?」
「う、うーん……どうなんでしょうか……」
冒険編は恋仲になった攻略対象の祖国に異常現象が発生してしまい、それを解決するために始まるストーリーだった。この時点で、特に男性側のほうは自分の国が危機に陥ってるのだから無視するわけにはいかないだろう。
そしてゲームの主人公の性格は、優しく勇気ある少女。彼女自身も、そんな事態を無視するような子ではなかった。
「しかし、ゲームの進行がそのような道筋になっている以上他の行動を取っても仕方がないのでは?」
「たしかになぁ……。あーッ、くそッ!もっとわかりやすいクリア方法はないのかよ?!」
塩内さんは頭を掻きむしって、唸り声を上げた。
私が余計な説明を加えたせいで、彼を混乱させてしまったのかもしれない。
「まずはシンプルに考えてみましょう!えっと、私たちが今することはとりあえず様子見で、あとは来たるラスボス戦に向けて魔法の技術を磨きましょう!」
「……ああ、そうだな。後はルナに恨みを持っていそうな人を探しておこう」
「え?」
「高橋さんの言うとおりに、誰かが本来のミラのようにラスボスとして出てくる可能性がある。それなら今からラスボスになりえそうな奴を探して、そいつの事を知っておくのも必要だ」
「た、確かに……」
ソイツについては俺が調べてみる、と塩内さんは言った。
そうして私たちは、定期的に話し合う機会を設けて解散した。今後は学園祭前のように彼と頻繁に会うこと少なくなるだろう。
そのことも相まって私は、塩内さんには内緒で他の調べ物をすることにした。




