【小噺】学園祭で贈り物探し (ペーシュ視点)
「まったくもう!ミラってば、どこに行ってしまったのかしら!」
マルリー様が周囲を見渡しながら、ミラ様の姿を探している。一見怒っているように見えるけど、どちらかというと彼女は焦っているのだろう。なぜなら、このままだと学園祭が終わってしまうから。まだ時間はあるけれど、この時間は永遠に続くわけではない。
年に一度の学園祭。
本当ならミラ様もご一緒に、4人でこの時間を過ごしたかった。けれど彼女は、まだ自分が不安だからと今回の学園祭は観覧を中心にすると仰った。
それならばミラ様とご一緒に……と私ははじめ、お二人の誘いを断ろうとした。けれど、去年夢見た友人と一緒にグループ活動をするという願いを前に私の態度が露骨だったのか、ミラ様は「私のことは気にしなくていい」と背中を押してくださった。
マルリー様とアルノー様に誘われて私が挑んだのは、演劇。始めは私にこんな大役なんて務まらないと怖気付いてしまったけど、2人だけでなく他の方々からも推薦を受けて私は女神様の役を務めることになった。
魔王の手により荒廃していく世界を憂いて、ただ切実に世界の平和を願う女神様。あなた様のように気高く美しくはありませんが、そのお気持ちは一緒であると思います。
だから私は、演技でありながらも心の底からそう願いながら、役をまっとうした。
そしたらその想いが通じたのか、私の演技はとても素晴らしかったとマルリー様からお褒めいただけたのだ。今日はマルリー様を見るだけで、その時のことを思い出して頬が熱くなる。
(おそらくだけれど、ミラ様も私たちの演劇をご覧になってくれたはず……)
烏滸がましいと頭の中ではわかっているけれど、やっぱり心の奥底ではミラ様からもお褒めいただきたいと思ってしまう。
それに、あと微かな時間であったとしても学園祭が終わるまではミラ様と一緒にいたい。
そうして私たちは、アメシティオーズ学園のメインストリートまで歩き回った。
けれどもここにも、彼女の姿はない……。
「おや、これは素晴らしいスカーフだね」
途方に暮れるなか、アルノー様が唐突にそう言った。
彼の視線の先には、露店に並べられた美しい商品達がいた。先ほどの発言を顧みるに、彼はその中でもネッカチーフに心を惹かれたらしい。
アルノー様は露店に近付き、それを手に取る。
後ろの方でマルリー様が「お兄様?」と少しだけ咎めるような声色を出したが、結局彼が気になるものは彼女も気になるようでマルリー様も加わってしまった。
「その色なら……こっちのほうが……」
「そっちもいいね……でも、……」
私も始めは後ろのほうでミラ様のお姿を探していたけれど、次第にお二人の会話が気になってしまい、結果的に私たちは露店巡りへと路線変更してしまったのだ。
そういえば、前にミラ様はあまり衣服類は持っていないと仰っていた。
ふと、目についたそれ。
とても上質なシルクで作られた手袋。
さらりとした肌触りがとても心地良い。
(ミラ様にとても良く似合いそう……)
いえでもそうすると、こちらの色の方が良いのではないか?
これもいいかも。
こっちは?
でもこれも……。
…………………………。
「ペーシュ、何か見つけたの?」
「マ、マルリー様!」
「あら、素敵な手袋ね」
マルリー様は私が見ていた露店にやってきて、そしていろいろと商品を吟味し始めた。たまに「アルノーお兄様に似合いそうなものは……」と呟いている。
そんな彼女の姿を微笑ましく思いながら、どのような贈り物をしようかと悩む姿に親近感を覚え、勝手ながらにも勇気をもらえた。
もう一度、真剣に考えてみる。
品物は上物だから、きっと気に入ってくださるはず。
あとは色やデザイン……。
「そんなに悩んでるってことは、もしかしてプレゼント用?」
マルリー様が声をひそめてそう尋ねてきた。
その声色はなんだか楽しそう。
パッと彼女の顔を見ると、見透かしたように私のことを見ていた。この様子だと、相手が誰なのかも気が付いておられるのだろう。
「そうね……ミラならこういう色とか似合いそうじゃない?」
マルリー様が手にとったのは手袋ではなく帽子だった。
ラベンダーを思い起こすような鮮やかな紫色の帽子は、確かにミラ様によく似合うだろう。
マルリー様はしばらくその帽子を見つめたあと、何も言わずにお金を店員に差し出した。綺麗に包装された紙袋を受け取り、そのまま少しだけ俯いている。
「マルリー様?」
「こ、これは……当てつけよ!当てつけ!ここにミラがいないのが悪いのよ!あなたがいない間、私たちだけで楽しんでしまったわよって遠回しに伝えるのよ!」
まだ何も言っていないのに、突然捲し立てるそのお姿に胸がキュンとする。言い訳をしていてもミラ様のことを想って買ったのだとすぐにわかってしまう。
マルリー様がその色を買うなら、私はこの色しよう。
淡い黄色の手袋。
小さなミモザの刺繍が施してあって、とっても可愛い。
多分……ミラ様も気に入ってくれるはず。
『イラッシャイ!イラッシャイ!』
「きゃぁ!」
突然、甲高い声が耳元付近から聞こえてきた。
マルリー様は声をあげたが、私は驚きすぎてしまって、声さえ上げることができなかった。
「一体何の声…………この鳥かしら?」
目の前には赤いオウムがいた。
オウムは鳥籠の中で、愉快そうに体を揺らしている。
手袋ばかり見ていて、全く気が付かなかった……。
『イラッシャイ!イラッシャイ!』
もう一度オウムが元気よくしゃべった。
今まで生きてきた中で、鳥がしゃべるという現象を見たことがなかった私はなんだか感動してしまって、その鳥をまじまじと眺めた。
「あ、2人とも!ここにいたんだね」
アルノー様がいつの間にか戻ってきていた。
腕に紙袋を抱え、嬉しそうな顔をしている。
「おや?これはオウムじゃないか!しかも赤いオウムだなんて、さすがジャナサール王国が主催している市場なだけあるね!」
「赤いオウムに何か由来でもあるのですか?」
アルノー様のお言葉にそう質問すると、彼は私の方を振り返り、キラキラした瞳で見てくるのだった。
「そうなんだよ!実はジャナサール王国にとって赤いオウムは国の顔とも言っていい存在でね!なんでも3代目に王位を継いだナディーラ女王が赤いオウムを飼っていたらしいんだけどね、そのペットのオウムは彼女に度々預言を告げていたという言い伝えがあって――」
……なんだか、いつもよりアルノー様が生き生きとしているというか、はしゃいでいらっしゃる?
「国に起こる災害を告げて、国民を守ったというとても素晴らしい鳥だったんだ!こうして実際に見てみるととっても美しい毛並みだね!女王様が飼っていたんだから、伝説となったオウムの毛並みはもっと綺麗だったんだろうなぁ……」
アルノー様の気迫に少しだけ押されてしまうが、彼の熱弁のおかげでオウムがジャナサール王国にとってどんな存在であるかを知ることができた。もしかしたらアルノー様は、こういうお話が好きなのかもしれない。
「あ、そうだわ!もしかしたらミラはあそこにいるんじゃないかしら?」
突然マルリー様が声を上げる。
その言葉にアルノー様の意識が逸れ、オウム伝説は幕を閉じた。
心の中でちょっとだけホッとしながら、ミラ様探しを再開し始めたお二人の後を追おうとした。
『シュウエン、シュウエン、モウスグ!』
………………………え?
さっきのオウムがまた何か喋ったような気がして振り返る。
けれどもカゴの中の鳥は首を傾げているだけで、変わった様子は何もなかった。
(聞き間違いかしら?)
マルリー様が呼んでいる。
私は急いで彼女の元へ駆けて行った。




