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無くなって欲しくない今 ー3ー

今回の話は、途中で視点が変わります。

 ペーシュの呼びかけに、慌てて意識を戻す。

 そんな私の様子を心配がったペーシュは、いつものように体調を気遣ってくれた。

 少しだけ疲れただけだというと、ペーシュは微笑んだ。


「それなら寮に戻った後、疲れによく効くハーブティーを淹れますね。私のおすすめなんです」

「2人とも何しているの?ほら、花火が上がっちゃうわよ!」


 マルリーとアルノーは席を立ち、既にテラスの際に移動して花火が上がるのを待っていた。ペーシュが私の手を優しく引いて彼らの元へ行こうと私を誘う。私は彼女の手を握り、席を立った。


 その瞬間、空がパッと明るくなる。


 大きな花火が、夜空に大きく咲いてパラパラと音を立てて消えていった。


「あ!さっきの花火を見逃してしまったわ!」


 私たちの方向を向いていたマルリーが、悔しそうに声を上げる。アルノーが苦笑いをして、花火はまだまだ打ち上がるよと声をかけている。


 アルノーの言った通り花火は次々と打ち上がる。色とりどりの花火が夜空を飾って、幻想的な景色を作り出していた。

 そんな光景に対してみんなは、ワッと歓声をあげたり、見惚れて言葉を失ったりして楽しんでいるようだった。

 

 あぁ、綺麗だなぁ……。








「ーーーーーーーーーーー」


「……?、なにかおっしゃいました?」


 ペーシュの一言に兄妹もこちらを見る。

 こんな光景は今まで見たことがなかったから、つい口に感動がでてしまったと答えれば、3人は笑った。

 その笑顔を見ながら、思う。

 

 何事もなければいい。

 よくわからないゲームの主人公との対立も。

 ループとかいう現象も。


 私の願いは一つだけなんだから。

 




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【学園長視点】





「い、今何とーー?」


 思わず自分の耳を疑ってしまう。

 目の前の相手から出た言葉がそれほど信じられなかった。

 こんな無礼な態度をしたにも関わらず、彼はにこやかに笑って先ほどの言葉を繰り返した。


「だから、僕も一時期この学園の生徒になるよ」


 何度聞いても意味がわからなかった。何故あの話からそんな結論を出したのだろうか。


「一体何故、」

「学園長の要請も込みで、僕もこの学園で気になることがあったからちょうどいいかなと思ってね」

「それはつまり、個人のついでであると?」

「まさか!アメシティーオーズ学園の危機は、我がオルデナ帝国の危機と同じこと。確かーー、結界内に魔物が出たんだって?」


 その言葉に少しだけ眉間に皺がよる。

 「その話はいつから出ていたものだと思うのですか」と問い詰めたかった。彼の言う通り、学園長である私が皇室へ人員の派遣を頼んだのは事実。だか、要請したのはもう数ヶ月も前のことだ。


 今年の6月に発生したホワイトウルフ襲撃事件。しかも魔物が出現した場所は、学園が張っている結界の中だった。その当時から調査を進めていたが、不可解なことが多過ぎて我々だけでは対処できなかった。だから皇室に要請を出したというのに、彼らは何も応えてくれなかった。


「その件についてだけど、目撃されたのは本当に魔物だったのかな?」

「ーー?!」


 怒りに震え、何を言えばよいのかと思考していると彼は突然そう言った。思わず目を見開く。

 まさか、魔物ではなかったというのかーー?


「学園でも独自で調査していたみたいだったから知っていると思うけど、何も魔物が目撃されたのはこの学園だけではなかったよね?少なくともオルデナ帝国領周辺でも、本来なら生息しないはずの魔物の目撃情報が上げられた」

「……そうです。ですから我々達は手を組むべきだと、」

「手を組むって言い方もおかしいよね。もともとアメシティーオーズ学園はオルデナ帝国の管轄下でしょ?」


(そう言うならば、何故我々の要請を長らく無視していたのだーー?!)


「それで話を戻すけど、魔物が目撃されているわりには負傷者はおらず後日の調査では姿さえ発見されない。それってすごく不思議だよね」

「怪我人は確かにいなかったようですがーー」


 死者はいるらしい。

 けれど不思議なことに死体には傷がなかったのだという。


「…………殿下はこの件についてどうお考えなのですか?」

「ん?僕が?……そうだなぁ、みんな幻覚でも見てたんじゃない?」


 あっけらかんとそういう殿下に溜息が出そうになる。

 そんな馬鹿な話があるだろうか。百歩譲って他者に鮮明な魔物の幻を見せることができたとしても、それで人の命が奪えると?


 彼の態度にようやく理解する。

 きっと皇室は、もともと我々に手を貸すつもりなどなかったのだと。


「どうやら私は皇室の手を煩わせてしまったようですな。それならばもう結構でございます」

「?どうしてそうなるの?」

「殿下の態度を見ていればわかります」


 わざわざご足労いただきありがとうございましたと頭を下げるが、彼は動かない。それどころか、自身が学園に編入するにあたっていくつかの秘密事項を守ってほしいと条件を提示してくる。


 全く会話ができない。


(ーーならば、こちらも彼を利用するしかない。どちらにせよ皇太子がここに来るということは、幾らかの護衛をつけてくるだろう)


 側近たちから皇帝の耳に話がいくかもしれない。

 今この学園に渦巻く、摩訶不思議な現象のことが。


 しかし、一方で彼がこの学園に来たもう一つの理由も気になる。ホワイトウルフ襲撃の件でないのだとしたら……一体なんなのだろうか。

 

 一つだけ、頭の中で思い浮かぶことはある。

 





「それじゃあ、よろしく頼むね」

「……承知しました。セレナ・オルデナリウス皇太子殿下」


 

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