杜撰な計画の結果 ー2ー
妙に楽しそうに私たちを脅す彼の姿に、怒りが込み上げてくる。
(私を疑うの理由が……噂?!こいつ、国を担う立場とか言うなら、もっとちゃんと調べてから私のことを疑いなさいよ!)
そう言ってやりたいけど、ルハーニが怒り狂って殴りに来たら嫌だし、でも黙っているままだと本当に冤罪でこの学園から追い出されてしまうかもしれない。
「ま、待って、ルハーニ……!」
どうしようどうしようと思考を巡らしていたら、ルナが声をあげ、怒り狂っていたルハーニの腕にしがみついた。
「……なんで止めるんだ、ルナ」
「私は大丈夫だから!それより早く戻ろ?これからが商売の勝負所なんでしょ?」
まだ怒りを落ち着かせることができないルハーニの手を強引に引っ張り、ルナたちはメインストリートの方へと去って行く。
第二体育館にはボロボロになった私たちだけが残された。
「塩内さん、塩内さんッ……!」
そばで倒れている彼の体を揺らしながら、名前を呼ぶ。彼の顔を見るだけでは、彼の意識があるのかわからないのだ。それほどまでにひどく腫れ上がっている。
「ぐ、……ッウ……」
微かに彼が呻いて、手を震わした。
「塩内さん!」
彼は身体を起こし、顔をゆっくりと左右に振った。どうやら、ルハーニ達がまだいるのかを確認しているみたいだった。
「いってぇ……、少し意識が飛んだ……。あ、高橋さん、2人はどこに行った?」
「彼らは多分、メインストリートに戻ったんだと思います」
「そうか……。結局、今回のは失敗に終わったのか?」
「……ひとまず移動しましょう。じきに他の人達がやってきます。立てますか?」
私達はニ人でよろよろと互いを支え合いながら、人の通りが少ない場所へと移動した。
私は塩内さんの傷を少しでも軽いものにするために、白魔法を使って彼の治療に挑んだ。けれども私自身も負傷しているため、あまり上手く魔法を使うことができなかった。
それでも塩内さんは感嘆したかのような声を上げて、私のことをじっと見ていた。
「おぉ……すごいな、これが魔法ってやつか。ずいぶん便利な力だ。この力があれば病院とかいらないんじゃないか?」
「病気まで治せるわけじゃないんですよ。それに今の私では、少し腫れを引かせることくらいしかできません」
「いいや、いいや。さっきよりはだいぶ痛みもマシになった。ありがとな」
「後で保健室に行ってください。頭とか打っていたら大変です」
「多分これなら、平気だろ。それより俺が意識を飛ばしていた間、何があったのか教えてくれないか?」
私は彼の治療をやめ、先ほどあったルナとルハーニのことについて説明した。
「それはつまり、ルナが俺たちのことを庇ってくれた……のか?」
「どうなんでしょうか……」
確かにルハーニを止めてくれたのは助かった。これで私たちが学園から追い出されるようなことが起きなければ、彼女が彼を宥めてくれたということになるだろう。
ルナにはまだたくさん伝えたいことがあったのに、必要最低限の本当に最低限くらいしか事情を説明できなかった。
「しばらくは、私たちからルナさんに話しかけに行くのは無理そうですね。彼女の方から私たちに接触してきてくれれば良いのですが……」
「希望はまだあるってことか。…………だが、もし彼女が来てくれなかったら?」
「必要最低限でしたが、伝えられたいことは伝えられたはず。もしルナさんが塩内さんのように世界のループを経験しているとしたら、そしてそのループから抜け出したいと考えているのなら、私たちに協力してくれる可能性は高いと思います。……来てくれなかった時は、ループのことを知らないか、あるいは……」
あるいは……何が考えられる?
正直言って、“あのルナ”が世界のループを知らないという可能性は低いのではないかと思う。そう考える理由は今更だけど、今までの彼女の行動がそれを物語っているからだ。
筆記試験が学年一位、そして魔法実技試験では高威力な魔法反応を水晶に映し出してみせた。筆記はともかく実技の方は、魔法の扱いに慣れていないとあんなに強く水晶を光らすことはできないとマルリーが言っていた。
つまり彼女は、高度な魔法の扱いにすでに慣れるくらいにこの世界で過ごしている……。
「もし彼女が来てくれなかったら、もう協力を仰ぐのはやめましょう。どちらにしても、ルハーニ・アザルという攻略対象に目をつけられてしまったので、しばらくは近づかないほうがいいと思います」
こうなってしまったのは、私の責任。
ちゃんと塩内さんにイベントが発生する場所を説明していなかったせい。
私がわがままを言ってルナから目を離したせい。
ループから抜け出したくて塩内さんの協力をするって言っていたのに、このザマである。
塩内さんは、さぞや私に失望しているだろう。
それとも怒っているか。
おそるおそる顔を上げて、今塩内さんがどんな表情をしているのかを確かめた。
しかし、私の予想とは違い彼は真剣な表情をしていて何か考え込んでいた。そして小さな唸ったあと、口を開いた。
「なぁ、高橋さんがこっちの世界に来たときの日本の西暦と日付けを覚えてるか?」
「え、あ、えぇと……」
突然の質問に、言葉が詰まってしまった。
私がこっちに来たときの……日付?
しかも、前の世界の……。
「え、えっと……あまり自信はないんですが、……2020年の、って、ええ?!」
ここまで言ったとき、塩内さんが私の肩をものすごい勢いで掴んできた。
「やっぱりだ!俺が覚えている日付も、2020年の7月3日なんだ!」
塩内さんは、嬉しそうに私の肩をバシバシと叩いている。
「ちょ、い、痛いです!傷はまだ痛むので!」
私が声を上げると、塩内さんは「おお、悪い」と全く反省するそぶりも見せず、ずっと嬉しそうに笑っている。
「どうしたんですか?突然……」
「気がつかないか?俺はすでに5回以上はこの世界のループを体験している。普通に時間が経っているとしたら、10年以上は元の世界も時間が過ぎてるはずなんだ。そして高橋さんは、今回はじめてこの世界に来た。にもかかわらず、俺が来たときと高橋さんが来たときの日本の日付は全く進んでない!つまり、この世界でどれだけ時間が経っていても、元の世界は時間が進んでないんだ!」
塩内さんは興奮を隠さないまま、矢継ぎ早にそう話した。
「確か、こんな昔話があったよな……。亀を助けて竜宮城へ行くやつ、あれだ!あれと逆の現象が起きてるんだよ!」
亀を助けてって、浦島太郎の話だよね。海の世界と陸の世界の時間の進み方が違くて、最終的に浦島太郎は一人ぼっちで取り残されていたっていうお話……。
それと逆のことが起きてるって……時間の進み方がこの世界だとすごく遅いってこと?
「これなら安心だ!焦る必要はない!」
塩内さんはすっかり安心しきったように笑っている。彼は元の世界に帰りたいって言っていたし、もしさっきの仮説が本当なら急ぐ必要がなくなるのも当たり前だ。
……彼の言っていることが間違っているという確証はないけど……。
(それは流石に都合良過ぎない……?)




