杜撰な計画の結果 ー1ー
メインストリートから姿を消した塩内さんとルナの行方を必死に探していたら、何か言い争うような声が聞こえた。確信があったわけではないけど、直感的に塩内さんじゃないかと思って急いでその声の元へ駆け寄った。
彼らを探しながら必死に考えていた。
もし本当に、“今”イベントが起こったのだとしたら、一体誰がそんなことをしたんだろうって。
この学園には体育館が二つある。学園祭当日はそのうちの一つである第二体育館と呼ばれる場所が、物置小屋のような役割を果たしているのだ。
広く、そしてあまり目立たない場所にあるため、学園祭のような行事が行われるときにはいろんなものを置く場所にちょうどいい。そんな場所がゲーム内のイベントでは、ミラによって悪用されてしまう。
この場所は、学園祭が盛り上がっている朝や昼頃は、仕入れなどを必要とする人たちが多く出入りしている。
しかし夕方ごろになって客足が控えめになる頃になったら、残りの荷物のほとんどは物置から出してしまうため、この物置小屋に戻ってくる人は少なくなる。
ミラは多分、この時間帯を狙ってルナを閉じ込めたんだと思う。
(……でもこれって、よく考えたら共犯者が必要だ)
人が少なくなる時間帯を狙って閉じ込めようなんて、偶然でできるはずがない。イベントの大まかな流れは覚えているけど、こういう細かなところまでは忘れてしまっている。
もどかしさを感じつつも、目的地まで辿り着いた。
荒い呼吸をなんとか吸い込み、第二体育館の扉に手をかける。そしてその勢いのまま扉を開けた。
一番初めに目に入った光景。
塩内さんがルナの口を手で塞ぎ、涙目になっている彼女。
「な、何やってるんですか塩内さん!」
他の人が彼の姿を見たら、なんと考えるだろうか。
いや私でさえ一瞬、警察に通報しなくちゃと考えてしまったくらいだ。
(……やっぱり、彼を一人にするんじゃなかった)
元の世界帰りたいと話していた彼に、どこが手段を選ばないという危うさを前に感じていたのに……。そして今までの出来事からもゲームと全く同じ流れでイベントが起こるわけではないと薄々わかっていたのに……全部私のせいじゃないか。
ひとまず塩内さんから事情を聞いた。
とある女子生徒たちから声をかけられ、ここに連れてこられたこと。そしてルナもおそらく彼女たちから呼び出しを受け、彼女と一緒にここに閉じ込められたこと。
よくわからないけど、悪役令嬢の代役は彼女たちであったのだろう。
……そして恐らく、塩内さんがこの第二体育館をイベントが発生する場所ーーつまり物置小屋だと知らなかったこともわかった。
「多分、これがイベントのことです」
「な、なんだって?だってここ……」
あ〜もう、私のアホ!普通物置小屋なんて言われたらもっと小さな建物を想像するに決まってる!
「……てっきり、別の場所かと」
「ここは本来体育館なのですが、学園祭のときだけは物置小屋として使われるらしいんです。すみません、小屋って言い方がよくなかったですね……」
「…………」
「それに、――やっぱり私が何もしていなくても、イベントは起こるみたいですね」
…………いろいろなことが起こって現実逃避したくなるが、起きてしまったことは仕方がない。
とりあえずルナには誠意を示して謝罪をして、私たちの話を聞いてもらうために懇願するしかないと思ったのだが、今日は厄日か、それすらも上手くいかなかった。
ルナはあまりの衝撃にパニックになってしまったのか、こちらの話も聞かずに矢継ぎ早に喋っていた。しまいには、なぜか今回の事件は私の仕業だと叫んで、とても会話できる様子ではなかった。
「ちょっと待ってくれ!今ゲームって言ったか?!」
「あ、あんたは話しかけてこないで!」
「ほんとに話を聞いてくれ!嬢ちゃんもこの世界の人じゃないんだろ?!日本とか、そんな言葉を知ってるんじゃないのか?!」
突然、塩内さんが嬉しそうに声を上げた。
ルナが“ゲーム“という単語を口に出したからだと思う。その言葉以前に、彼女の口調はどう考えてもこの世界のことを知っている人の口調だ。
ルナも私たちと同じく、前の世界の記憶があるという確信を得ることができたーー。
塩内さんもそう思ったのだろう、話を聞かないルナに強引に自分の話を進める彼、現場は少し騒がしい。
それでも、話が進むなら多少塩内さんの勢いのまま彼女に話しかけてもいいのかもしれないと思ったとき、塩内さんの身体が吹っ飛んでいった。
――え?、と思ったときには、彼の苦しそうな呻き声とそして何かが殴られるような鈍い音がして、理解が追いつかなかった。
顔を向ける。
塩内さんの上に誰か跨っていて、何度も何度も何度も彼の顔を殴り続けている。
「や、やめてください!」
ようやく我にかえり、咄嗟にその人の腕に掴みかって塩内さんを殴るその手を止めようとした。けれども塩内さんの顔が赤黒く腫れ上がっているを見て、思わず私の身体が固まってしまった。
止められたことに腹を立てたのか、塩内さんに襲いかかっていた人は標的私を変えた。
ギラリと光る彼の鋭い目に睨まれて、ようやくその野蛮人がルハーニ・アザルだということに気がついた。
(今彼が来るの……?!)
避ける間もない速さで、ルハーニは私の胸ぐらを力強く掴み上げ、ギリギリと締め付けた。持ち上げられているせいで息苦しいし、突然の浮遊感と不安定さに“怖い“と純粋に感じた。
「ミラ・スカーレットレイク、だな?お前のことは知ってるぞ。学園の問題児って言われてる碌でもないやつだってな」
「グッ、……うぅ、」
「お前、もしかしてこの前ルナの教科書を破った犯人か?お前だって言う噂、よく聞くぞ」
息苦しさから足をバタバタと動かすが、拘束が解ける気がしない。
「ち、違いますッ……!」
「じゃあこれはなんだ?なんでルナがここにいて、お前らが取り囲んでいる?ルナの様子から見てだいぶ怖がってたみたいだし、言い逃れできると思ってんのか?」
「は、話を……」
「ふん、俺のルナに手を出したんだ。覚悟はできてんだろうな?」
ルハーニがそう言った途端、私の身体は塩内さんに向かって勢いよく投げ出された。私も痛かったし、塩内さんはその比にならないぐらい痛いだろう。
ここ最近、体を投げられることが多い気がする。
「ここでお前らを殴り倒してもいいが……俺も国を担う立場ってもんがあるからな。その立場を大いに使わせてもらう。お前らが二度と学園に来れないよう、ルナの前に現れないようにきちんとした処置を学園に仰ごうじゃないか」




