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待望の学園祭 ー2ー

 会場に着くとすでにいくつかの席が埋まっていた。まだまだ開演までに時間はあるけど、良い席は先に取っておかないとすぐになくなってしまいそうだ。

 ……でも、良い席ってどこらへんになるんだろう。


 闘技場で演劇なんて見たことないし、そもそも闘技場にすら入ったことがない。見え方とか全然わからない。

 観客が座らないように指定された席もあるみたいだから、そこの近くに座らなければいいかな……?


 まぁ、適当に中間らへんの高さにいたら良いよね。


 しばらく席に座って待っていると、後からも人がたくさん入ってくる。流石にこの広い闘技場全ての席が埋まるほどの集客ではないが、それでも多い。

 

 近くの人をチラリと見て見るとパンフレットのようなものを持ちながら、友人同士で楽しげに話し合っている。

 どうやら彼女たちはアルノーを目当てとしているらしい。

 女子生徒だけでなく、男子生徒も結構いる。その人たちの会話の中に、時々マルリーやペーシュの名前が出てくる。


 どうやら私の友人たちは、学園内でとてつもない人気を有しているらしい。

 

 アルノーは“鐘“の攻略対象の一人だからまごうことなきイケメンだし、マルリーも可愛らしい容姿に加えて、一見高飛車風の性格だと思わせておいて面倒見の良さをよく見せるから、そのギャップで見事にファンを多く作っている。

 ペーシュは前に髪色がコンプレックスだと言っていて、やはり今でも周りの人間から遠巻きにされてしまうことはあるらしいが……誰もが認めるほどの美しい容姿と儚さを感じさせる佇まいに心奪われる者は少なくない。


 今思うと、私は中々のメンツと過ごしているものだ。

 

 

 考えに耽っていると、開演のブザーが鳴った。

 もちろん屋外公演のため、あたりが暗くなることはない。それでもやはりワクワクするのだから、この音響ってすごいよね。


 劇の内容はすでに知っている。

 どうやらアルノーたちの故郷であるサラヴァン王国で有名な『終わりの勇者』という童話を題材にしているらしい。長きに渡る人間と魔王との戦いに決着をつけたという青年の物語だ。


 この伝承が本当なのか作り物なのかはわからないけど、確かにこの世界って魔物がいるわりには魔王と言われる存在はいないんだよね。

 “鐘“に出てくるラスボスは魔王ではなく一人の少女だったし、主人公も別に勇者の末裔というような設定はなかった。でも、もしかしたらそういう裏設定とかはあったのかな?

 そしたらもっと“鐘”のことを好きになっていたんだけど。


 彼らの劇を見ていると、やはり勇者物のストーリーというのはどの世界でも話の主軸が似ているなと思う。

 とある青年が田舎の村で育って、大切な人を失って、仲間と出会って絆を深めて、最後に魔王との激闘し勝利する。

 王道的なストーリーだけれど、やはり話はとても面白いし、役者たちの演技はまるで本当に役本人みたいでついつい話にのめり込んでしまう。


 何しろ驚いたのは、勇者にお告げを告げる女神の役がペーシュだったことだ。

 女神が登場するとき、会場は眩い光に包まれていた。強いけれど優しさを感じる白い光は、いつもペーシュが私のちょっとした怪我を治してくれるときによく見るものである。

 どうやらこの光の演出は、ペーシュ自身で行なっているようだ。白魔法をただ治癒魔法として使うのではなく、光り輝く女神を演出するために使うとは驚いた。

 

 アルノーたちが考えた、魔法を劇に組み込む演出はこれだけではなかった。

 例えば、女神が手を上に掲げると頭上に青い球体が現れ、その中には風やら雷やらが吹き荒れている。どうやら魔王が暴れて世界が滅びる未来を暗示している、という演出らしい。

 あの青魔法はアルノーで、中に風やら雷やらを落としたりしているのは赤魔法を扱える人なのだろうか……。どちらかでも失敗すれば、劇が台無しどころか観客である私たちにも害が及びそうな演出だ。

 だからこそ何回も練習をしたのだろう。


 劇の一番の見どころである勇者と魔王との戦いは、それまでの演出と比べられないくらいの驚きがあった。

 なんと、追い詰められた魔王が巨大化したのだ。いわゆる第二形態というやつだろうか。魔王の大きさは闘技場の半分くらいの高さまで大きくなった。私の座っている席と同じくらい。どうやって大きくしたんだろう。


 最後に勇者は覚醒を果たして魔王を討った。世界を救った勇者は国を治める王となり舞台は終わった。





 劇が終わった後、観客たちは友人同士で感想を楽しそうに話しながら会場を後にした。一部の生徒はどこか悔しそうにしていたが、それは注目の的であったアルノーやマルリーが劇の役者として出てこなかったからだと思う。

 舞台には何人か黒いローブを着て魔法を使っている者がいた。多分彼らは、黒子みたいな役を担っていたのだろう。2人もそうだった。


 舞台が終わった後、ペーシュ達に会いに行こうか、それとも何か差し入れをした方がいいのか悩んだが、彼らは控え室で先ほどの演劇を評価したり、午後の部に向けての話し合いをしていたので、私はその場をそっと後にした。

 劇の感想を言うのは、学園祭が終わってからでもいいだろう。


 


 とりあえず今は、塩内さんの元へ。

 私のわがままを聞いてくれた彼に、協力しなければ。


 急ぎ足でメインストリートに戻っている途中、たくさんの人とすれ違った。みんな心から学園祭を楽しんでいるようで、笑顔が浮かんでいる。

 こうして考えると、4月と比べてミラの陰口を言う人は少なくなった気がする。今日が学園祭という特別な日だからなのかもしれないけど。

 

 これからも身体が丈夫になっていけば、緑魔法の身体強化を使わずとも生きていけるかもしれない。そうなったら、本気で魔法を使えるようになるだろう。

 そのとき、今までミラを見下していた人たちはどんな反応をするのだろうか。



 


『あ、あのお方は一体誰かしら?』

『とても素敵な方ね……』


 うんうん、と少し将来に夢を馳せながら走っていたら突然声が聞こえてきて、足を止めてしまった。

 何となく気になってしまい、声がした方向を見てみると何やら人だかりができている。


 もしかして、学園祭だから有名人が来ているのだろうか?

 

 顔を一目見ようかなと少し考えたが、この世界の有名な人を私がわかるわけないかと考え直し、その人だかりは無視することにした。




 メインストリートに戻ってきたのは、正午を少し過ぎた頃だった。

 途中、塩内さんに何か昼食を買ってきた方がいいのかなど考えていたせいで、少し予想していた時間より戻ってくるのが遅くなってしまったが、イベントの発生すると考えられる時間はもう少し先のはずだから大丈夫なはず――。


 と、思ったのに、塩内さんと別れた場所に戻ってきても彼の姿はなかった。もしかしてルナが店番しているところがここではなかったのかと思いメインストリート内をあちこち探したのだが、塩内さんどころかルナの姿さえ見つからない。


(ど、どこに行ったの?いなくなっているということは、すでにイベントが始まってしまって、塩内さんはルナを助けに行った?いやでもこんな明るい時間だとそもそもまだみんな物置小屋とか使うし……、でもどのくらい閉じ込められたとかの正確な時間はわからないし)


 こうなったら、考えても仕方がない――。

 まずは物置倉庫に行ってみるしかないだろう。

 


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