とりあえずの作戦 ー1ー
それから謎の共同戦線を張った私たちは、出来る限りこの世界のことを把握するために情報共有をした。
「時間のループについて、何か心当たりがあると言ってたな。どういうことだ?」
「ループするのは今年の4月から再来年の3月頃と言ってましたよね。それは多分ですけど、”鐘”のストーリの始まりと終わりの時期だからだと思います」
ちなみに塩内さんには、“鐘“がThe sound of the bellの略称であることをすでに伝えている。そしたら彼は、わかりやすいなと言って笑っていた。
「この前、このゲームには学園編と冒険編があると伝えましたよね。冒険編の正確な時間経過がよくわかってはいないのですが、ストーリの終わり頃が3月くらいだったかと」
「そもそも、そのゲームはどういったストーリーなんだ?」
とりあえず簡潔にゲームのストーリーを塩内さんに話した。真剣にストーリのあらすじを聞いてきた彼の表情は、次第に険しくなっていき最終的には頭を抱えて小さく唸っていた。
「それ、俺たちがクリアしようと思ってクリアできるものなのか?」
「まぁ無理でしょうね。私たちはゲームの主人公じゃありませんし、敵として出てくる悪役令嬢が私のことなので、余計に無理だと思います」
「ハァ?!ミラって子はラスボスだったのか?!」
「そうです。塩内さんが気にかけていたミラは“鐘“のラスボスでした。そして私はそのラスボスのミラ・スカーレットレイクになってしまった。ちなみに今の私は悪役令嬢としての動きとか一切やっていませんので、悪役令嬢と言っていいのか……」
「頭がこんがらがるじゃねぇか……。しかしそれだと、すでに計画が破綻してないか?」
「でも私は、塩内さんが言っていた“ゲームを終わらせれば何かが起こる”ってことは十分あり得ると思うんです。そのためにはもう少し情報が欲しいところですね。これまでのループで何か気になることでもありましたか?」
「気になることって言ってもなぁ……」
塩内さんはうーんと言いながら考え込んだ。
私としても、彼の話の中で気になることがある。
もちろんそれはルナのこと。彼女は見るからに私たちと同じ転生者で、おそらく“鐘”をプレイしたことある人だ。彼女は私と同じく今回の世界から転生したのか、それとも塩内さんみたいに何回かのループを体験しているかによって、話が色々と変わってくる。
「あなたが茶髪の嬢ちゃんと言っていた、彼女の様子はどうですか?今回と前回で何か変わったこととかありますか?」
「あー、あの嬢ちゃんか……。あの子に関しては、正直あんまり見てなかったな。あの子も少し変わった子だとは思ったが……」
それはどういう意味だろうか。
「もっと詳しく教えてください」
「うーん……。なんだか周りに興味がなさそうな印象を受けたな。言っちまえば、ミラと少し似ていた……かもしれないな。普段は大人しいが、急に芝居が始まったかのように振る舞うっていうか……」
絶妙に判断しづらい情報がきた。
それって結局、どっちなの?
“あのルナ“が今回から転生してきた人間だとすると、前回はゲームのルナということになる。ゲーム内のルナは明るく優しい性格の子だった。そんな子が「周りに無関心そう」なんて評価をもらうはずがない。
けれど、恐らく塩内さんが経験したループ内でのミラは彼の話からするに本物のミラだったと思う。そのミラと行動が似ていたってことは……今回のルナが一概に転生してきた人とは言えないかもしれない。
例えば、この世界が本当にゲームの世界で、シナリオ通りに進むようにゲームの主要キャラは行動を制限されているとか?
……いや、やっぱり違うな。だって主要キャラの行動が制限されるとなると、アルノーの行動が説明つかなくなる。それにルナの言動はゲームキャラとしてはありえないものばかりだ。
「その口振りからすると、あの茶髪の嬢ちゃんが“鐘”の主人公ってことか?」
「……はい」
「なるほどな、納得したぜ。しかしそうなるとなんで今まではダメだったんだろうな」
「今まで?」
「さっき教えてもらったストーリーから察するに、学園編まではルナって子も順調に進んでいたと思うんだ。冒険編のことまでは流石に知らないんだが、もしかしてここでいつも上手くいっていないのか?」
つまり2回あるミラとの戦闘の中で、1回目の学園編では上手く倒すことができたが、2回目の冒険編でのラスボス戦はいつも負けているということ?
……もしかして、あのルナが攻略対象全員の好感度を上げているのって、ラスボスのミラが倒せないからなのだろうか。ステータスが自分より次に高い攻略対象を全員揃えて戦闘したら勝てると思って本来はないはずの逆ハーレムを無理矢理やろうとしている?
(この憶測で彼女の行動全てに納得できるわけじゃないけど……ありえなくはない)
冒険編での戦闘メンバーは、攻略対象の一人と主人公、そしてお助けキャラとして他の属性魔法を補うサブキャラがパーティーに入る。サブキャラと言っても、普通に強いキャラだったからそこまで足を引っ張るとかはなかったけど、やはり主要キャラと比べるとステータスは劣っている。
いっそのこと攻略対象のキャラたちだけでラスボスに挑みたいと、“鐘“のプレイヤーたちからよく言われていたのだ。
やはり、ルナとは一度きちんと話してみたほうがいいかもしれない。もし彼女がこの世界のループから抜け出したくてあの行動をとっていたのなら、私達のことを話せば一緒に協力をしてくれるかも。
万が一彼女が転生者ではなかったら、今後のことについてまた考える必要があるだろう。
(この世界にそんな秘密があったなら、もっと早く彼女に接触してたのに……)
悔やむのは後にして、ひとまず今まで頭の中で考えたことを塩内さんに話してみると彼も賛同してくれた。
「できるだけ早い方がいいだろう。一緒に行くか?」
「……私は、ルナさんに避けられているみたいなので、塩内さんにお話しするのを任せたいですね」
私がそう伝えると、塩内さんは快く了承してくれた。
その日はこれで解散となった。
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もしルナと接触することができたら、塩内さんが私に召集をかけてくれることになっていたのだが、1週間経っても塩内さんから連絡が来ることはなかった。
ようやく彼から召集がかかったかと思うと、げっそりとした表情で肩を落としているものだから何かトラブルが起こったのではないかと直感的に感じ取ってしまった。
「駄目だ……あの嬢ちゃん、全然捕まんねぇ……」
塩内さんの話によると、ルナの行動が読めなさ過ぎていつもどこにいるのかが全くわからないらしい。
アメシティーオーズ学園って広いからね……。
一応私が覚えている限りの知識を伝えたのだが、それは攻略対象の出現スポットなので明確にいうとルナが出現する場所ではない。それに……生身の人間の行動をゲームと同じと考えていいのかも疑わしい。
一応塩内さんも何回かは奇跡的に彼女の姿を見かけてはいるのだが、そのときは必ず攻略対象と一緒にいるため話しかけようとすると彼らから牽制されるとのことだった。
授業終わりを狙って待ち伏せをしてみても教師に見つかり、サボりと思われて説教を受けたのだという。
「ったく、どうしたらいいんだ?」
私が彼女に話しかけてみる……のは、もちろんながら難しいだろう。ルナ自身が私のことを避けているのは今も変わらない。
もし狙うとするなら、ルナがどこにいるのかわかっていて、できれば一人でいるタイミングだけど――。
「……学園祭で接近してみるのはどうでしょうか」




