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唐突なお話 ー4ー


「とりあえず話を戻すぞ。俺はこの世界を繰り返している中で、どうにかこのループを抜け出してこの世界から抜け出せないかと考えていた。だが、基本何をしても巻き戻るから周りの様子を観察していたんだ。そしたらこの学園ではいつも同じ時間同じ場所でミラという女の子が傷害事件を起こし、罪人として裁かれることがわかったんだ」


 だから初対面で「自分の身の振り方を省みろ」と忠告されたのか。彼はミラが断罪されるところを実際に見ていたのね。


「今回のループでミラに話しかけようと思ったのは、単純に可哀想だと思ったからなんだ。あの子が周りの人間から非難されるのはそれ相応の過ちを犯したからだが、多くの人間から責め立てられるのも見てられなくてな。それに未来のことを知っているなら、過ちを犯す前に止めさせられるだろ?」

「……随分、気にかけていたみたいですね」

「まぁ……、下の娘と少し似てるってものもあるけどな」

「下の娘って――塩内さんおいくつだったんですか?」

「確か、45とかだったな」


 目の前の人が思ったより年上で驚いた。


「けど、前のミラはとにかく不思議な子だったよ。普段は驚くほどに大人しい子なのに、あの茶髪の嬢ちゃんと会った時だけ人が変わったようにつっかかっていたなぁ。俺は遠くから見ていただけだったんだが……とりあえずは今回は話しかけようかと思って――――」


 塩内さんの話を聞いて、私はようやくこの世界に来てから少し感じていた違和感に気が付いた。

 そうだ、ゲームの中のミラは気が強く高飛車な少女だった。印象だけで言うと、マルリーと少し近いだろう。気にくわないものをすべて排除してしまうような勢いがあったのに、私がミラとなったときに見た記憶の中の彼女は、ゲームとは全く違う静かな女の子だった。

 

 あれ、でも高飛車な性格になったのは主人公と出会ってからなんだっけ?

 主人公だけが自分と同じ平民だから、強く当たってもいいと考えたから、ゲームでは主人公の前でだけ偉そうにしていた……のかな?


「――んで、今回が初めてじゃないかと思ったということだ」

「え、あ、あぁ……」


 自分の考えに夢中で、途中から彼の話を聞いていなかった。


「それでさっきの空き時間で高橋さんが言っていたことをいろいろと考えていたんだが……ここはサウンドなんとかって名前のゲームの中なんだよな?」

「は、はい、間違いはないかと思います。あのゲームと似たような世界でそこで出てきたキャラクターの名前もちらほら聞いてますから」

「俺はその、恋愛シミュレーションとか乙女ゲーム?とか詳しくないんだが、とにかくゲームの世界に今いるってことはわかった。なら、そのゲームをクリアすればここから抜け出せるんじゃないか?」

「クリア?」

「なんで世界が巻き戻るのかをずっと考えていたんだが、この世界が実はゲームの世界だったとなれば説明がつく!ゲームっつうのは、クリアするまで終われないってもんだろ?そしてクリアしたらゲームは終わる。つまりそのとき俺たちは解放されるってことじゃないか?!」

「い、いや待ってください!元の世界に戻るも何も、私たちは死んでしまったではないですか!」

「それについても考えたんだが、よくわからなくないか?もしかしたら、死んだと思っているだけで病院とかで意識不明になって、魂だけここに迷い込んだとか」

「え……?でも……」


 でも、塩内さんの言っていることも一理あるかもしれない。よく考えたら、階段から落ちた記憶だけで死んだ実感があったわけではない。あの状況なら死んでいるだろうな、くらいの感覚だった。

 けれどそれを聞いたからって、すぐに「確かに私って元の世界で生きていていたのかも」と考えることはできない。特に塩内さんの話を聞いている限り、トラックに轢かれた――どういう状況で轢かれたのかはわからないけど――なら、ほぼ生存の可能性は見込めないと思ってしまうけど……。


「俺は……こんなところにいる訳にはいかないんだ。まだ、俺が家族を支えていかなくちゃいけない。ずっと、悔やんでるんだ。なんであのときって……」


 塩内さんは俯いながら、そう呟いた。

 ……彼は、元の世界に戻りたいんだ。


「だから、高橋さんにも協力してほしいんだ!あんただって、元の世界に戻りたいだろ?!」

「私、は……」


 私は、すでにこの世界で生きていくことを受け入れている。魔法が使えるってことが嬉しすぎて、戻りたいとか何も考えていなかった。

 もし、本当に彼の言う通りに実は死んでいなくて、病院でずっと寝たきりの状態で意識だけこっちの世界に来ていただけだとしたら?

 ――――そんなの、最悪だ。


 塩内さんの言っていることが正しかったら、ゲームをクリアしたとき私たちは強制的にこの世界から追い出されてしまうのだろうか。


 ここがもし本当に“ゲームの世界“だったとして、ここで生きている人たちは実は本当に生きている人たちじゃなくて……コンピュータとかだったとしたら……。


(……まさか、あんなに“生きてる“のに)


「高橋さんは、そう思わないのか……?」


 元の世界に戻りたいと言わない私に、塩内さんはありえないとでも言いたげな声色でそう言った。家族のもとに帰りたがっている彼からしたら、考えられないことなのだろう。


「どうしてだ……」

「私は、すでに前の世界で死んでしまったのだと思っていました。それを受け入れている時点で、すでに未練は無かったんだと思います。それに……この世界には、私の大切な人たちがいます。だから私は、帰りたくない、です……」


 塩内さんは、小さく唸った。予想とは違った答えが返ってきて、困っているようだった。


「…………わかってないんだ。ここがどんなところか。こんな頭がおかしくなるような世界にいたいなんて思うはずがない……何回だって繰り返すんだぞ。自分が何をしたって、それこそ……死んだって……」


 塩内さんからすれば、私が帰りたいと即答しないことは理解できないことなのかもしれない。でも、私からすれば魔法が使える世界から出たいと思うなんて――と考えてしまう。

 

 私からしたら、あっちは何もない世界だから。


「……ごめんなさい、私はそれでもここにいたいんです。この世界には、私が望んでいたことで溢れているから……」


 塩内さんは嘘だろと呟いた。


「でも!だからこそ、私も世界のループを止める方法を知りたいです!もし時間が巻き戻ってしまうなら、私が今まで築き上げてきたものも無かったことになってしまう……それだけは嫌なんです!」


 私がそう告げると、塩内さんは面を食らったような表情をした。そしてその後、うーんと悩み出す。

 わかってる。塩内さんの仮説では、ゲームクリアすることによって元の世界に戻れるというもの。

 これが正しかった場合、私の望みは叶えられなくなる。


 でも、だからといって私がこのまま何もせずにいるわけにはいられない。彼の言っていることが全て正しいと判断できない今なら、世界のループを止めるという一点で協力すればいいのではないだろうか。

 

「どっちにしろ、俺より高橋さんのほうがこの世界には詳しい。だから俺としては手を貸してほしいが、最後の最後でやっぱり戻りたくないとか言って邪魔するようなら――」

「そんなことはしません。どちらにせよ“今”が無くなってしまうなら、私は何もかも潔く諦めます」

「……わかった。それなら、よろしく頼む」

「はい。早速ですが、世界の巻き戻りの時期について心当たりがあるんです」

 

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