唐突なお話し ー2ー
昼休みになり、私は男子生徒から言われた噴水のところまでやってきた。
ペーシュ達に不審な様子の男子生徒に話しかけられたと一応相談しておいた。3人は怪しいから行かないほうがいいのではないかと言ってくれたのだが、気になるものは気になるのでとりあえず行くと伝えた。
”いい?危険だと思ったらすぐに声を出して助けを求めなさい!”
”僕たちも乗馬同好会の集まりが終わったらすぐにそっちに行くから”
”私も、図書委員の仕事が片付いたらすぐに行きます!”
彼らが私のことを大分心配してくれているということが伝わってくるのだが、実際の年齢的には私が一番年上なのである。それなのにまるで初めてのお使いをする我が子を心配する、親のような態度をとる彼らに申し訳なさと不甲斐なさが一気に押し寄せてくる。
嬉しいのだけれども。
私が約束した場所まで着いたときには、すでに件の男子生徒がそこにいた。彼は噴水の縁に腰かけていて、その姿は疲れている……というよりもくたびれているように見えた。
「あの、お持たせしました」
「!お、来てくれたのか」
私が声をかけると、パッとこちらを向いて嬉しそうに彼は笑った。その姿がゴールドンさんと少し似ているなと思ってしまう。だから彼に対して怪しいと思いつつも、直感的に大丈夫だと考えたのだろうか。
「それでお話とは何でしょうか」
「あ、あぁ……」
早く本題に入って欲しくて私の方から話を振ると、彼はまた挙動不審になり、手を握ったり頭を搔いたりとソワソワしだした。何か話し辛いことでもあるのだろうか。
「今から言うことは嬢ちゃんにとって信じられないことだと思うが……聞いて欲しい。将来あんたは人を傷つけて、犯罪者になっちまう。今からでも自分の身の振り方を考えた方がいい」
「…………え?」
意を決した彼から出てきた言葉は、私にとって一瞬理解を要する物だった。何て言った?犯罪者になる?
「突然こんなことを言われて、驚くのも無理ない!でも本当のことなんだ。あの女の子に関わっていると――、いや、誰かを傷つけるとそれ相応のことが自分に返ってくる。だから、人を傷つけることはやめた方がいい」
状況が掴めていない私に対して、彼は次々と何かを言ってくる。まるで説教をされているみたいだ。
「ちょっと待ってください!私が――何?犯罪者になるって、なんで、」
この人の発言はおかしい。
いま私は、初対面の人に突然犯罪者予備軍になると差別的なことを言われて怒っているわけではない。彼の態度から揶揄おうとして言っているわけではないことはわかる。
それに、ミラ・スカーレットレイクに対してそう言っているのならば彼のいう通りだ。
“あの女の子“が、ルナのことを指しているのだとしたら。
私が、本編のミラならば。
――けど、なんでそんなことを知っているの?
「あなたは……誰ですか?なんでそんなことを私に言うのですか?」
「お、俺は、俺の名前は――――。…………ッ信じられないかもしれないけど、俺はこの目で見てきた。お嬢ちゃんが取り返しのつかないことをしちまって、罪人として裁かれるところをな。でも、今なら間に合う!馬鹿なことは絶対にしちゃ――」
「ちょ、ちょっと待ってください!そんでもって、もう少し詳しく話してください!」
変に熱の入った彼に対してこちらも同じように声を出すとようやく彼は落ち着きを取り戻してくれたらしく、私を置いてけぼりにしていろいろと話すのはやめてくれた。
しかし私が大声を出したことによって人通りの多い噴水広場では注目を集めてしまったため、やむなく場所を変えることにしたのだ。
いつもの中庭に移動し、再度説明してもらおうと男子生徒に質問した。
彼の名前を先程は聞けなかったので、もう一度聞いてみると小さな声で「……ジーク、」と返ってきた。大分意気消沈しているらしく、そんなに強く言ってしまったかなと思ったが、どうやら彼は自分の名前の時だけしどろもどろになるみたいだ。
「それで、なんで貴方が将来私が罪人になるってことを知っているのですか?」
「ッ!まさか嬢ちゃんも記憶があるのか?!」
彼の発言に、やっぱりと思った。
どう考えても、あんなことを言う人がいたらその人はゲームの知識がある転生者しかありえない。
「あなたも転生者なんですか?日本という言葉に聞き覚えがありますか?」
「ッ、あぁ!聞き覚えなんてものじゃねぇ、タコができるくらい聞いた言葉だ!――――俺が、ずっと聞きたかった言葉の一つだ……」
彼はそう言うと涙を流して、感極まったように泣き始めてしまった。
泣いてしまっては話もできないので、私は彼が落ち着くのを待った。
しかしこんな身近に私と同じような転生者がいるなんて、転生って結構起こりうる現象なのだろうか?
やがて幾分か落ち着いた彼は、鼻水をズビズビとすすりながら話し始めた。
まず、自身を「塩内武男」と改めて名乗った。そしてできればこっちの名前で呼んで欲しいとも告げてきた。彼は、ここが前世の世界にあったゲームの世界だということを知らなかったらしく、突然知らない場所にやってきて、知らない人物として周りの人間に扱われることが精神的にも辛かったと言った。
「突然ここにやってきたって……どうしてここに来たのかわからないってことですか?」
「身に覚えは、ある。さっき嬢ちゃんから転生って言われて確信づいた。俺が憶えている前世の最後の記憶は、トラックに轢かれる寸前の記憶だ」
「え、」
「どうしても早く家に帰らなくちゃいけなくて、普段車通りの少ない場所だったから左右確認せずとび出したら、あっという間に轢かれたよ。トラックのライトがやけに眩しいって思っていたら、知らない場所で目が覚めたって感じだ」
「…………」
「嬢ちゃんは……?」
「私は急いで階段を駆け降りていたら、そのまま滑り落ちたって感じですね。そしたら学園の学生寮で、同じように階段から落ちたところから突然始まって、この身体の記憶を頼りに何とか頑張って生活していました。でも元々この世界について知っていることもあったので、意外と順応していたっていうか友人もできてなにかと楽しんでいましたね」
「そりゃ逞しいなぁ。俺は混乱しっぱなしで、周りの人間にも始めは頭がおかしい奴って思われたな。なんにもわからなかったし……はじめのうちは、自分に何が起こったのかも理解できなかった」
確かに、私は奇跡的にゲームの世界だって気が付いたけど、何にも知らない人からしたら驚くどころじゃないよね。私の場合、ここがゲームの世界だって受け入れてはいたけど、自分のことを高橋奈々ではなくてミラ自身とも思い込んでいたわけだし、多少は混乱していたのかも……?
「どうにかして、この身体の兄ちゃんの名前とかこの学校のこととかを聞きだしたよ。魔法が使えるなんて、最初は信じられなかった。使い方とか今もよくわからないけどな」
「私も必死に勉強しました。日常生活についても、この身体の記憶を頼りにしてなんとか無事に過ごせましたね」
「記憶を頼りに?そんなの、どうやってやるんだ?」
「え?どうって……自然と頭の中に……」
確かに、どうやっていたんだろう。今まではこんなことを考えなくても自然とミラの記憶が頭の中によみがえった。
でも今はどんなに思い返そうとしてもそれができない。
頭の中で、ミラの記憶、ミラの記憶と何度も唱えてみても何にも起こらない。今まで自然とできていたのに、突然彼女の記憶を見ることができなくなっていた。
(あれ?ど、どうして?)
「そういやこれについても聞きたいんだった。お嬢ちゃんはこれで何回目だ?このおかしな状況をいい加減抜け出したいんだ」
混乱している私に、彼が意味がよく分からない質問をしてきた。
「何回目って……?」
「もう俺も、5か6回くらい繰り返していて、いい加減頭がおかしくなりそうだったんだ。だから仲間を見つけられて安心したよ」
「――――え?それ、どういうことですか……?」
彼から言われた言葉が全く理解できなくて、聞き返した。
相手はそんな私の様子に驚いたようで、一瞬不意を突かれたような表情をしたが、「知らなかったのか……」と呟くと、神妙な面持ちでこう言った。
「この世界は同じ時間を繰り返しし続けるトチ狂った世界なんだ。今年の4月から、再来年の3月ごろまでの約2年の間を、永遠にな……」




