二学期の始まり ー2ー
アルノーのそばにいるのは、ルナだ。
共同スペースにいた人たちが楽しそうに会話をしているなかで、彼女の声がひときわ大きく響いた。周りの人たちはその声に驚いて、アルノーたちを見ている。
しかし、ルナはそんなことを気にせず、アルノーにずっと何かを言っているようだ。反対にアルノーは周りの視線が気になっているのか、心底困ったような顔をしている。彼が優しく彼女の身体を押しのけても、ルナはそれに負けじと身体を密着させた。
ここにマルリーがいたら、すぐにあの場所へ飛び込んでいって兄をルナから遠ざけていただろう。けれどその頼もしい妹はこの場にいない。アルノーが困っているから、私が助けに行くべきだと思うけど……。できることならルナと顔を合わせたくないんだよね。いろんな意味で。
(でもアルノーを放っておくことはできないし……)
仕方がないから、まずは人混みに紛れながら彼らの近くまで行ってみよう。
こそこそ近付いていると、周囲を気にしていたアルノーが私のことを見つけたみたいだ。アルノーは私の姿を見て、最初はホッとしたような表情になったが、ルナが自分の腕に巻き付いている現状を思い出してすぐに顔面蒼白になった。
もしかして、私が誤解するって思ったのかな。そんなに彼の中で胸ぐらを掴まれたのが尾を引いているのか。
彼に向かってジェスチャーを送ってみた。
しかしルナが離れなくてどうしようもできないらしい。
仕方ない……アルノーは私に気が付いてしまったので、見て見ぬ振りが完全にできなくなってしまった。とにかく一か八かの作戦で彼らを引き離すしかない。
「少し話したいだけなの……だから」
「お話しているところ失礼いたします。カプール殿下に伝言があり、お声かけさせていただきました。乗馬同好会の顧問である教師が殿下をお呼びです」
彼らに近づいた後、バッとお辞儀をして顔を下にしながら話しかける。顔さえ見られなければ、バレないのではないかと思った苦肉の策だ。
頼む!バレるな!と心の中で念じながらひそかに人差し指を動かして、アルノーに合図を送った。それをきちんと理解してくれた彼は、私の咄嗟の嘘に合わせて返事をした後、ルナの手を解きその場を去って行った。
よし、そしたら私もすぐに退散しよう。そうしよう。
「……は?ねぇちょっとあんたまさか」
まぁ、バレますよね。
しかし私の足は止まらない。
急いでアルノーの後を追っていった。
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そんなやり取りを二学期が始まる前にしてしまったからだろうか。今後一切関わりたくないと願ったその人物は、とうとう私の前に現れて、話しかけてきたのだ。
ここ最近なんだか後をつけられているような気がして振り返ると、そこには絶対彼女がいる。いつぞやの私みたいに物陰からじっとこちらを見てきてはこちらに接近しようとするので、その都度人混みに紛れて身を隠すようにしていた。
しかし、今回だけは逃げることができなかった。むしろ逃げることすらさせないような彼女の動きにあっという間に捕まり、人気のないところに連れてこられたのだ。あまりの熟練な動きに、言葉すら出てこなかったくらいであった。
「ねえ、何のつもり?」
一番初めに言われたのはこの言葉だった。「何のつもり?」と言われても、「何が?」としか言えない。
「……もしかして、私の行動は許せないってこと?」
全く話が見えてこない私は首を傾げるしかなく、そしてそんな私を見た彼女から言われた言葉はより意味不明なものであった。
「……あの、」
「邪魔しないでよね。別に、このくらいいでしょ?」
何か言おうとしても、また意味不明なことを言われて遮られてしまった。ルナは言いたかったことは言い切ったのか、「……私を止めても無駄だから」と言い放って去っていった。取り残された私は、何が起きたのかさえわからなくて、そのまま教室へと戻っていった。
本当に、何がしたかったんだろう……。




