二学期の始まり ー1ー
『どうして誰も愛してくれないの?』
そりゃ、人生なんてそんなものよ。
全人類から愛されるなんて、そんなのあるわけない。
本当はね、みんな他人のことなんてどうでもいいの。
『どうして私はみんなから嫌われるの?』
その時々って感じだと思うけど……あなたの場合だと、確かに理由もなく嫌われてるって感じもするけど。でも、世の中には自分が何もしてなくても勝手に嫌ってくる人もいるんだから、そういうときは気にしないようにしなくちゃダメ。
『どうして私は……みんなから憎まれたの?』
まぁ、これについてはあなたにも非がある。
ただ憎いって理由だけで人に危害を加えるなんて、今まであなたに非道いことをしてきた人たちと同じことをしているじゃない。
それにあの子はこの世界の主人公だから、そんな子の命を狙ったら、当たり前のように排除される。ここはそういう“物語“の世界なんだから。
……って、こんなこと言われても流石にわからないよね。私だって、理不尽って思ってる。
でも世の中にはね、自分では到底敵わないなって思う人が存在するの。そういう人をずっと見ているとね、目が眩んで潰れそうになってしまうから自分から関わらないようにするのがベスト。
『――――じゃあ、あなたが私の代わりをやってよ』
え?
『そこまで言うなら、あなたがやってみて。すでにあなたも私の人生の一部を体験してるんだから、次はその全てを』
私が、あなたの代わりに?
『そう、どのみちもう私は――――』
「――――様、ミラお嬢様!学園に着きましたよ!」
大きな声で呼ばれて、目を覚ます。
馬車の扉が開いていて、そこに御者の人が立っていた。
朝日が眩しい。
「体調がすぐれないんですかい?」
「いいえ、平気です」
どうやら、公爵家を発ってから学園まで馬車で揺られている最中に寝てしまったらしい。朝が少し早すぎたのかも。
とにかく学園に着いたのならもうそれでいい。
何か懐かしい夢を見ていたような気がするけど、どうも頭がぼんやりする。
ひとまずお礼を言って、私は馬車から降りた。
あんなに波瀾万丈な夏休みになるとは思わなかった。もし三年生の夏休みを無事に迎えられたときは、もう公爵家には帰らなくてもいいかもしれない。
「…………ペーシュ達は、もう帰ってきてるのかな」
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学園に戻ってから、一番初めに会えたのはマルリーとアルノーだった。彼らは、日数を用心して早めに戻ることにしたらしく、今から2日ほど前には戻ってきていたそうだ。
マルリーは私に会うなり、体調や夏休み中にどのように過ごしていたかなどを質問してきた。
「貴方ちょっと……身長が伸びてない?」
「確かに、一学期の最後に会ったときはマルリーとほぼ変わらなかった気がするけど……」
2人が私のことをまじまじと見ながらそう言いだした。しかしアルノーの言う通り、以前はマルリーと同じ目線だった気がするのに、今は彼女のつむじが見えているのだ。
「言われてみるとマルリーの頭がよく見える」
「な、なんですって……!」
マルリーがぐぬぬと言いたげにこちらを睨みつけている。身長差ができた分、彼女がこちらを見たら上目遣いとなるから、可愛さだけしか伝わらない。
「ぺーシュはまだ帰ってきてはいないんですか?」
「いや、さっき会ったよ。なんだか荷物をたくさん持っていて、それを自分の部屋で整理してくると言っていたよ」
「じゃあ迎えに行こうかな」
「なら僕はここで待っているから」
「わかりました。マルリーはどうしますか?」
「い、行くわッ、それよりあなたなんでそんなに身長が伸びたの?」
身長について質問を続けるマルリーをなだめながら、ぺーシュの部屋へと足を運ぶ。扉をノックするとぺーシュの声がしたので、彼女に声をかけた。
部屋の扉が開かれ、ペーシュは私たちを中へ入るように促した。
ぺーシュの部屋初めて入ったけれど、思った通り綺麗に片づけられている。部屋に置かれた小物類は、どうやら森の動物たちをイメージしてデザインされたものらしいので、なんだか彼女らしくて微笑ましくなる。
「お久しぶりですミラ様。あら、なんだか身長が――」
「あはは、さっき2人にも言われたの。自分では気が付かなかったけど、こうしてみんなと会うと、確かに少し伸びた気がする」
「少し……?成長痛とかはないのですか?」
「そういえば、全くないわね」
「それと、後ろのマルリー様はどうされたのですか?」
声を潜めてそう問うぺーシュに、私はちらりとマルリーの方を見た。彼女はまだ怒っているようで、あまり触れないでやってくれとぺーシュに言うしかなかった。しかし、なぜそんなに怒っているのだろうか。そんなに私が身長が伸びたのが気にくわないのか?
「それにしても本当にすごい量の紙袋ね。ここまで持ってくるのは大変だったと思うけど、一体この中には何が入ってるの?」
「ふふ、これはですね――」
ぺーシュが紙袋の中から取り出した物は、綺麗な筒だった。
「我が国自慢の茶葉を持ってまいりました。それとお茶と一緒に食べると、とっても美味しいお菓子も――」
ぺーシュは、次々とお土産を嬉しそうに並べていく。
いつの間にか机の上はお土産のタワーが出来上がっており、よくこんな量を持ち帰ってこれたなと感心してしまった。
ペーシュは、その見た目と裏腹に力持ちなのである。
「本当はもっと持ってきたかったのですが、日持ちするものがあまりなくて……。ですので特に私がお勧めしたいものを選んで来ました」
「ぺーシュの出身国って確か……パドキルリア王国だったわよね?もしかしてそのお菓子は、その国で伝統のガルージィーではなくて?」
「そうです!よくご存じで!」
「私そのお菓子を一度食べてみたいと思っていたの」
いつの間にかマルリーの機嫌が直り、ぺーシュのお土産を嬉しそうにのぞいていた。
ガルージィーとは、パドキルリア王国で有名なお茶菓子らしく、見た目や感触はとっても硬いクッキーみたいなものだそう。ミルクティーなどにつけてふやかして食べるのが主流らしい。
「もしよろしければ、今からこちらをふるまわさせていただきたいのですが――」
「あらいいの?それなら寮の共同スペースに行きましょう。アルノーお兄様も待っているわ」
「急ぎ準備いたします!」
「何か私にも手伝うことありますか?」
わいわいと楽しそうに盛り上がる2人に、ちょっとした疎外感を感じてそう声をかけた。するとマルリーは眉をキュッとあげて私を指差す。
「なら貴方は先に戻って、アルノーお兄様へのお声掛けとお茶会をする場所を取っておきなさい」
「え?」
「あなたに食器を運ぶように頼んだら、割ってしまいそうで怖いのよ。準備なら私たちだけでもできるから、人が混む前に場所をとっておいてちょうだい」
「そ、そこまで不器用ではないと思いますけど……」
しかしマルリーの言うことにも一理あった。寮の共同スペースはみんなの談笑の場である。学園に戻ってきいる人たちは私達だけじゃない。混む前に場所取りは必要だ。
でも、なんだか今日のマルリーはいつも以上に私に対して顰めっ面をしている気がする……。私は何かしてしまったのだろうか……。
(いや、自分で勝手にへこむのは良くない良くない……)
とりあえず思考を一旦切り替えて、みんなでお茶会をすることを知らせるためにアルノーがいる場所まで戻った。
彼の姿を見つけて声を掛けようとしたとき、彼の隣に誰かいることに気が付いた。そしてどうやら、アルノーはその人と何かを話しているようだった。楽し気に談笑している……ようには見えない。
「ねぇアルノー!どうしちゃったの?なんで私を避けているの?」
鈴が転がるような可愛らしい声が、悲しそうにアルノーをそう呼んでいた。




