不思議なカケラ、そのカケラ ー2ー
私は客室――今は私の療養部屋――に戻ってきた。
すでに公爵の姿はなく、ローネが紅茶を淹れながら私のことを待っていたみたいだ。
優しい匂いがかすかに鼻腔をくすぐって、心が少し落ち着いた。
そんな私を見ながら、ローネはおずおずと私に何かを差し出した。
「これは……?」
「その、マリオス様からお嬢様にお渡しするようにと……」
なんでアイツが?
ローネから差し出されたものは、髪飾りだった。
ピンク色の小さな花が、たくさん集まって一輪の花を体現するような可愛らしい髪飾りだった。小さな花の一つ一つには、宝石らしきものが嵌め込まれている。この髪飾りって……高いんじゃない?
まさか、彼が私に同情してこれを贈ってきたの?いやいやまさか。そんなことをされても全然慰められないし、むしろ悪寒を感じる。
「これは何……?」
「私にもわかりません……!けど、マリオス様がお嬢様に返しておいてくれと……!」
返すということは、マリオスが勝手にミラの部屋から持ち出していた物ということか。
今回の事件を見てか、さっき私が泣いていたところを目撃してかで罪悪感と同情心が芽生えたという感じだろうか。
思わず乾いた笑いが出てしまった。
私は髪飾りをできるだけ目に入らないようなところに置いておき、ローネが淹れてくれた紅茶を飲んだ。
ふと、カレンダーを見ると今日は8月27日であることに気が付いた。まだ休みは4日あるけど、学園は夏休みが終わる1週間前から学生寮を開放している。
遠国から帰ってくる生徒は余裕をもって帝国に戻ってくるため、その人たちのために早く開けているそうだ。
私も本当だったら、学生寮が開いた瞬間を見計らって早めに戻ろうと思っていた。それなのに、学園で借りた本は盗まれるわ命狙われて体調を崩すわでそんな余裕がなかった。
本当に、波瀾万丈の夏休みだった……。
今からでも準備をして、学園に戻ってしまおうかなと思ったのだが、そうすると学園に戻る時間が遅くなってしまいそうだ。忘れ物をしてこの屋敷に出戻りになるのも嫌だし、使いの人をよこされても嫌だ。
今日はこれからゆっくりと確実な準備をして、明日の早朝にでもここを出発したほうがいいだろう。
「お嬢様、お休みになられないのですか?」
「うん。明日は学園に戻るから、今からその準備をしなくちゃいけないの」
「え?!もうしばらく休養をとったほうが……」
「いいの、もう平気だから。それより、明日の馬車を用意してもらえるように頼んでおいて欲しいの」
ここにいるよりも、学園に戻ってペーシュたちと会ったほうがよっぽど健康にいい。
ローネは私に何か言いたいようだったけど、私が黙々と学校用の鞄を開きはじめると、そのままお辞儀をして部屋から出て行った。
ーーーーーーーーーー
ーーーーーーー
ーーーー
翌朝、私は朝早くから公爵家を発とうとしていた。
馬車に乗り込もうとするといくつかの目線を感じたが、私はそれに気付かないふりをし、御者に出発をお願いした。
多分、あの視線は公爵と兄達だろう。
――正直言って、私たちの間には会話が必要だったと思う。公爵が自分を責めすぎないように、そしてこれから良い関係を構築していくためにも。
でもそうしなかったのは、私がミラではなかったからだ。
過去のことを謝られても、私はそれを許すとも許せないとも言えない。
今、ようやく自分は自分であると心の底から思えている。
それに、ここまで色々やらかしちゃって今更かもしれないけど……本当のミラが帰ってきたときのことも一応考えているのだ。もしミラが帰ってきたとき、自分が知らないところで勝手に和解されていても困るだろう。
今まではゲームのキャラとしてしか考えていなかったけど、今回の事件で流石に彼女に同情してしまった。だから、私が今彼らと和解しないのは……ミラのため。
ゲーム内のミラは、結局は家族の愛を求めてあそこまで暴走してしまったのだと思う。だから、もし本当のミラがこの身体に戻ってきたらたくさん彼らと話し合って、和解してほしい。
ほしいけど……。
そのとき“私“はどうなっているんだろう……。
(そもそも、ミラって今どこにいるの?この身体の中で眠っているとか?それとも、私が入ってきたことによってどこかに飛んでいってしまった?)
うーんと頭を捻って考えていると、コツンと何かが落ちる音が聞こえた。そこを見れば、私が座っている席の横に、またあの黄色のガラス片が落ちていた。
「また落ちてる……」
それを指先で摘んで、じっと眺める。
一体このガラス片はどこから落ちてきているのだろうか?ミラの部屋で3つほど落ちているのを見つけて、現在に至っては、たった今物音がして落ちているのを見つけたのだ。
――まさか、私から?
(まさかね……)
私、学生鞄の中から小瓶を取り出した。その中には、すでに拾い上げていたガラス片が入っている。たまたまこの小瓶を見つけて、これを入れるのにちょうどいいと思った。
学園に持って行こうと思ったのは――ただなんとなく。
小瓶の蓋を開けて、ガラス片を入れる。
カランと心地の良い音がした。




