不思議なカケラ、そのカケラ ー1ー
何も考えず、無我夢中になって駆け込んだ場所はミラの部屋だった。夏休みの間はずっとこの部屋で過ごしていたから、私にとっては一番心落ち着く場所なのかもしれない。
……ここで殺されかけたのだけれど。
(どうしてこんなに悲しい気持ちになっているんだろう……私には何も関係がないはずなのに――――ん?)
上から、パラパラと砂のようなものがこぼれ落ちているのを発見した。見上げれば、私が魔法を放った場所が大きく損壊していた。その箇所を見ると、メイド長がすごい形相で刃物を振り上げていた姿を思い出して、咄嗟に身震いした。
けれど、今になると同時に怒りも込み上げてくる。
(あのときの魔法、いっそのこと直撃させたほうがよかったかもしれない)
あの時は目論見より標準がずれて焦ったけど、そもそもとしてメイド長に魔法を当てるつもりはなかった。ただ彼女の気を失えるくらいの衝撃を与えられたら上出来だったのだ。
本調子ではなかったけど、ホワイトウルフと戦ったときの威力を考えれば、人間一人の命なら簡単に奪えると分かったから直撃しないように出来るだけ調節しようとしていた。
今思えば殺されかけたっていうのに、よくそんな冷静なことを考えていたものだ。
この部屋は、暫く使えないだろう。
取り壊し……まではいかなくても、天井が壊れてしまっていては修理が必要だし、もともと家具も古んで傷んでいるものばかりだった。これを機にこの部屋にあった物全てが新調されてしまうかもしれない。
……なんだか、私がミラの居場所をどんどん奪ってしまっているような気がする。
陽が傾きはじめた午後になると、ようやく窓から日の光がこの部屋に入ってくるのだ。その光に砂埃が反射して、キラキラと光る透明なカーテンが掛かっているように見える。
以前よりも埃っぽくなってしまったこの部屋に長居するべきではないだろう。また喉を痛めてしまう。けれど今の私は、これまで以上にこの家の人達と顔を合わせづらい心境になってしまったので、この部屋から出たくない。
扉の前で、落ち着きなく右往左往していると、ベットの下から何かがキラリと光った。
小さな光だった。見間違いかと思うくらいに。
だけど私は、その光を見つけた途端すぐさまその場に近寄りそれを拾い上げた。
それは、小さな黄色のガラス片のような物だった。
私が――夢で見た、あのガラス片にそっくりだった。
なんでこれがこんな場所に……と考える前に、コツンコツンと2回ほど何かが床に落ちたような音がした。
足元を見ると、同じようなガラス片がまた床に落ちていた。
自分の手元にある物と同じものが床に2つ落ちている。
まさか天井から落ちているのか?と思い天井を見上げてみるけど、そこは私が魔法を当てた場所ではないし相変わらず落ちてきているのは埃くらいだった。
よくわからないけど、取り敢えず床に落ちているガラス片も拾い上げる。
形はそれぞれ少しずつ違うが、うっすらと黄色を帯びたガラス片だということで同じものだろうと見当をつけた。
これらは一体、なんなのだろうか。
「お嬢様?いらっしゃいますか……?」
部屋の外から、ローネの声が聞こえてきた。
ローネの声色はとても控えめで、私のことを気遣う様子がうかがえた。どうやら彼女は、天井の壊れたこの部屋に逃げ込んだ私を心配して声をかけてくれたらしい。
この部屋に入る姿をローネに見られていたのだとしたら、もうここに長居するわけにいかない。ここに閉じこもる気はなかったけど、そう勘違いされて人を呼ばれては面倒だ。
私はローネに、すぐに部屋から出ることを伝えた。
拾い上げたガラス片は、ポケットの中にでも入れておこうかと思ったのだが、あまりにも小さくてわからなくなってしまいそうだったのでこの部屋にあったハンカチらしき小さな布の中に包んで持って行くことにした。
不思議と、この部屋に来たとき流れていた涙はこのときすっかり止まっていた。




