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早く見つけなければ大惨事 ー1ー

※冒頭は視点が違います。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


【メイド長視点】

 

 少し曲がった背筋、すぐに気の抜ける表情、爪の甘い仕事ぶり。新しく入った使用人たちは大抵そんな者たちばかりだった。

 今日も何度目かわからない溜息を心の中でする。

 もちろん表情には疲れたなんて傍目から見て思われないように、強く引き締めているけれど。


「そこの貴方、まだ隅に埃が残っています。隅から隅まで綺麗にしませんと、掃除の意味がありません」

「も、申し訳ありません。メイド長様……」

「申し訳()()()()()()、です。より丁寧な言葉遣いを心がけてください」

「申し訳、ございません……」


 小さく縮こまって返事をする新人に対して、苛立ちが込み上げてくる。解雇されたベテランたちの仕事ぶりがとても恋しくなってしまう。

 彼女たちは本当に、私の思い通りに動いてくれたから。




 その後も何度か指導をしながら、私自身も新人たちが行った掃除の箇所を手入れしていく。毎日がこんな感じで、私の仕事量は以前と比べて明らかに増えた。

 けれど、決して手を抜くつもりはない。


 だってここは、あのお方の家だから。

 あの人の格式が下がるようなことは、私が一切赦す筈がない。そうならないように、いつも私は手を抜いたことがないのだ。


(そう……、ゴミや埃は全部処理してみせるわ……)


 とあるお部屋に飾ってある肖像画を見上げる。

 これを外すことができた日が、私にとって全ての苦悩を乗り越えた日となる。だから、これは最後に片付けることにした。私が冷静に掃除をし続けられるようにするため。


 その甲斐あってか、一年前までは概ねスムーズにことを運べていたのに、最近は後退してばかりだ。

 おまけに自分の仕事まで増えて、イライラしてしまう。


「……悪霊が」

 

 肖像画に描かれた、その人物に向かってそう呟く。

 静かに微笑んでいるそいつは、死人だ。もう口出しすることはできない。

 できないはずなのに、どうしてこうも忌々しいのか。


 




『メ、メイド長様!』


 廊下から騒がしい足音と、みっともない大声が聞こえてきてまた頭が痛くなる。あの声から察するに何かミスをしたに違いない。


「……何ですか?騒々しい」


 案の定、やって来たのは新人の使用人だった。苛立ちは募っていくが、私が何とかするしかないのだ。とにかく今は、何をやらかしたのか聞き出さないとーーーー、と思ったのに

その決意とは裏腹に、新人が言い出したのは全く別の要件だった。


「アドミール様が?」

「はい、屋敷の使用人を全て大広間に集めるようにと」

「――わかりました。すぐにまいります」


 なぜアドミールおぼっちゃまが、と思いながらもおぼっちゃまの御命令ならばと急いで大広間に向かう。

 

 すでに何名かの使用人が集まっていて、私の後にもゾロゾロと人が続いて来た。皆、緊張や不安そうな表情ばかりで、こうもわかりやすくていいのかとまた心の中で私は溜息をついた。



 しかし何故だろうか……かくいう私も胸騒ぎがするのだ。





――――――――――――――――――――――――


【ミラ視点】


 アドミールが屋敷の者全員に、大広間に集まるようにと命令するとあっという間に使用人たちは集まってくれた。私が言っても、きっとここまでみんな来てくれなかっただろう。

 本当に彼が協力してくれてよかった。


 こっそりと集まってくる使用人たちの顔を盗み見る。

 毅然とした態度の人もいれば、どこか不安そうな表情の人、困惑している人……様々だ。

 私が知っている人といえば、アドミールの執務室で話を聞いたローネ達以外いない。けれど、彼女たちとは別に気になる人がいた。その人は、自身をメイド長と名乗っていた女性だ。

 その女性について、アドミールにこっそりと聞いてみた。


「あの人の名は、ジェラーティ・ヤンカープ。スカーレットレイク家に長く勤めている使用人で、今はメイド長を務めている」


 私のことを完全に見下したあの人の表情は、はっきりと憶えている。きっと、あの人も私のこと……ミラのことが嫌いなのだろう。




 しかしこうして見ると、使用人の数が多い。圧巻だ。たった一つのお家にこれほどの使用人が雇われているものなのか。お金持ちってすごい。

 

 


「全員、揃ったか」


 アドミールの一声により、その場の空気がより一層引き締まった。すでに彼には、次期公爵家当主としての威厳が備わっているのだろう。


「本日、この屋敷の中で赦しがたい事件が起きた。一刻も早く解決するために皆を集めた」


 彼の言葉により、多くの人たちが驚いていた。突然こんなことを言われては、そうなるのも無理はない。

 詳細を教えてくれと言われ、アドミールは顛末を話し始める。


「私の妹、ミラの部屋から物が紛失した。ミラの証言によると、何者かが故意に持ち出した可能性が高いということだ」


 大広間は、より騒然となる。

 アドミールが、自分たち使用人を疑っているのがありありと感じ取れるからだろう。彼らの中には、あの夕食会での大量解雇がまだ響いているのだ。

 

 何人かが、外部犯の可能性などを訴えたが、それはアドミールが切り捨てた。


「外部犯の可能性は極めて低いだろう。ミラの部屋は2階の西側にある。西側の庭には身を隠せる場所はない。それに加え、犯行時間は昼と考えられる。そんな時間に公爵家に入り込もうと考える不届者がいるとは考えにくい」


 まあ、盗まれた物が本だって時点で外部犯の可能性は極めて低いけどね。ただの泥棒だったら、宝石とか盗むだろうし…………まさかだけど、彼らが全員犯人だったなんてことはないよね?たかが一人の娘を嫌がらせするために、そんな馬鹿げたことを皆んなでするなんてこと……ないよね?


 

 そのとき、慌てる使用人たちを諫めるようにして一人の女性が前に出た。

 あのメイド長だ。


「皆さん少し落ち着きなさい。……しかしながらアドミール様。突然このようなことを仰られましても、皆が騒然とするのは無理もありません。お嬢様のお気持ちを考え、早く犯人を突き止めたいことはご理解できますが、いつも慎重な調査をなされる貴方様らしくありません。今一度冷静になってくださいませ」


 メイド長として、ジェラーティはアドミールに進言した。その姿勢には臆するところがないのだから、今までもこのような進言を行い、彼等を支えてきたのかもしれない。

 

 だが、それにしたって私への態度と比べると、天と地の差がある。別に敬って欲しいわけではないが、侮って欲しいわけでもない。




 

 ……おっと、心の中で愚痴っていたら、彼等の会話を聞きそびれてしまった。今は別のことを考えている場合ではない。集中しないと。


「今回のことは解決に急を要する事件だ。それに、使用人たちの中に盗人がいる可能性が疑われるのだからすぐに捕まえるべきだと、メイド長もそう思うだろう?」

「ええ、それはもちろんでございます。ですが、突然人を集めて如何なさるのですか?まさかここで荷物検査でもなされるおつもりで?話を聴く限り、お嬢様のお部屋から物が持ち出されたのは今から数時間前のこと。すでにどこかに捨てられているか、隠されている可能性が高いかと」

「……なぜその2択なんだ?」

「え?」

「隠されているということは理解できるが、捨てられていると言ったのは何故だ?わざわざ公爵令嬢の部屋から持ち出したものを捨てるなんて、その目的になんの意味があると思ったんだ?」

「そ、それは……なんとなくですが……。以前お嬢様は使用人たちから、そ、そのような嫌がらせを受けたと聞いたので……今回もそうかと……。も、もちろん私は解雇された使用人たちが、まさかお嬢様に嫌がらせをしていたとは、あの夕食会まで知らなかったのですが……」

「つまり今は、メイド長としての職務怠慢を申し出ているわけか?」


 アドミールにそう言われて、メイド長のこめかみがピクリと動いた。地雷だったのだろうか。

 しかし彼女はすぐさま頭を下げ、謝罪を口にした。


「謝罪は私にではない。ミラに向けてするものだろう」


 その一言で、メイド長の身体が少し震えた、気がした。

 彼女の顔色が少し赤くなっていて、何度もピクつくこめかみを見る限り、私には頭を下げたくないという意思がヒシヒシと伝わってくる。


「私のことは気になさらないでください。メイド長のせいではありませんから」


 殺意しか伝わってこない彼女に謝られても困るなと思いそう切り出したが、むしろ逆効果だったかもしれないと言ったあとで思った。

 私が庇ったことでメイド長は自分の手を潰してしまうのではないか、というくらい力を込めて握っている。

 

 ……どうしてこの人、そんなにミラのことが嫌いなんだ?


 また、思考が脱線しそうになるのを堪え、取り敢えず話の進んでいなかった今回の事件について話を進めよう。



 そう思った時、メイド長からあり得ない一言が出てきたのだった。

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